第65話天空都市編:ゼファル王子の密着修行編
――『空に浮かぶ都市』。その存在は、地上に生きる者たちにとって伝説に近かった。
しかし、ラーメン外交を進める美月に、ついにその招待状が届く。
「天空都市アエリスタ……正式な外交訪問ですって?」
美月が目を丸くしていると、隣のリリアーナが書簡をのぞき込みながら呟く。
「王子直々のご指名ですわね。……しかも“修行”希望とまで書かれているなんて、どこまで本気なのやら」
◆
そして――天空都市アエリスタ。雲を突き抜ける浮島に築かれた白銀の街で、美月を出迎えたのは、金の刺繍がきらめく制服姿の青年だった。
「ようこそ、天空へ。お会いできて光栄です、美月殿」
「わあ……想像以上に、空が近いですね!」
「私はゼファル=エル=アエリスタ。この都市の第一王子であり、そして……あなたの料理の一番のファンだ」
「えっ」
美月が戸惑って視線を泳がせると、リリアーナが小声で突っ込む。
「またファン増えてますわね。しかも今度は王子様」
「いやいやいや、何の修行よ……ラーメン修行って王子がやることなの!?」
◆
ゼファル王子は、本気だった。
「私は、自らこの味の奥義を学びたい。そして、天空都市にも“人を癒やすラーメン”を根付かせたい」
そんな熱意に、美月も「よし、ならば本気で鍛えます!」と厨房に案内。
――が。
「ぎゃっ!? こ、この火力、熱風だ!」
「ゼファル王子、それは水じゃなくて酢です!」
「えっ!? このスープ……甘い!? ってチグー!? なぜ鍋の蓋を開けた!?」
「モフう~~~!」(←どうやら『これは違う』という意味らしい)
天空都市の厨房は悲鳴と笑いとモフで満ちていった。
◆
数日後――
「このスープ……やっと、少しだけ、美月殿に近づけた気がします」
「すごいです、ゼファル王子。まさかここまでやるとは……」
美月が微笑むと、ゼファルは顔を赤らめた。
「……私はね、美月殿。あなたが作るラーメンそのものだけでなく、それを作るあなたに、惹かれているのです」
「え……」
不意に告げられた言葉に、美月は一瞬言葉を失う。
だがすぐに、ふっと微笑んで答えた。
「……そんな風に言われたの、初めてかも。でも……嬉しいです」
リリアーナが遠くでぽつりと呟く。
「ふん、ライバル……増えましたわね」
クラリーチェがにっこり笑う。
「でも王子、まだまだですわよ。美月さまを支えるには、もっと修行が必要ですわね♪」
天空に揺れるラーメンの湯気の中、美月の心にも、ふんわりとあたたかな何かが芽生え始めていた――。




