第60話薬膳つけ麺、麺からはじまる革命!〜新レシピ開発編〜
「――というわけで、本日の試作テーマは……“麺が主役の薬膳つけ麺”!」
朝の屋敷、試作室。
美月はパリッと白衣を着て、巨大なまな板の前で両手をパンと叩いた。
「おぉーっ!」
拍手を送るのは、助手のクラリーチェと、厨房見習いの魔獣チグー(※今日もエプロン装備済)。
そして見学に来ていたリリアーナは、うっすら眉をひそめて腕を組んだ。
「つまり、今までのスープありきとは違い、今回は“麺から考える”ということですの?」
「うん。つけ麺って、麺とスープの距離があるでしょ? だったら、今まで以上に“麺そのものの主張”が大事になるなって思って」
「つまり……“麺が主役”、それって……革命的ですわね……!」
「ふふっ、たまには発想の麺線――じゃなかった、発想の面線を変えてみようかと」
「言い間違えがもうラーメンなんですのよ!!」
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「さて、まずは麺から」
美月は、棚から三種類の粉を取り出す。
「今回は《ミズキオオムギ》《ミズキクワイ粉》《ミズキ黒ごま全粒粉》の三種をブレンドしてみようと思う。全粒粉でコクと香ばしさを、クワイ粉でもっちり感、オオムギでほんのり甘みと薬膳のベース効果を」
「おおおお……粉の解説だけで漢方講義みたいですわ……!」
「うふふ。ここからさらに“冷たい水で締めたときにどうなるか”も考慮して……うん、加水率45%で練っていこう」
「なるほど……では私は温度計とタイマーを構えておきますわ!」
「クラリーチェ、製麺機のレバーお願い! チグー、茹であがったら冷水で頼む!」
「がうっ!」
シュルルルルッ……! ぎゅるるるるっ!
キッチンが謎の一体感で躍動しはじめる。
粉が練られ、麺となり、鍋の湯がぐつぐつと泡を立て――冷水にきゅっと締められた。
「……お、おお……これは……」
美月が一口啜って目を見開く。
「……もっちもちで、だけど歯切れも良くて、舌の上でちゃんと存在感を主張してくる……これは、スープに合わせるんじゃなくて、麺がスープを選ぶタイプだ……!」
「そんな……麺に“格”を感じますわ……」
「格って何!?」
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午後――。
「さて次は、この麺に合うスープを考えなきゃね」
「どういたしますの? 今回は温かいつけダレ? 冷製?」
「迷ったけど……スパイス感を立たせるなら温かい薬膳だれ。スープの素材は《ミズキ山胡椒》《ミズキ梅干葉》《火霊根》をベースに、香り立ち重視でいく!」
「香り系ですわね! 魔獣チグーの鼻、出番ですわよ!」
「がうっ!」
(※チグーの鼻は“地中のハーブの匂いの向こう側”まで嗅ぎ分けると伝説の鼻である)
香りに香りを重ねた深淵の薬膳スープ。
煮込み、味見、再調整、さらに香りの調律を繰り返し――
「……完成! 名前は《五香火霊つけだれ》!」
「火霊……すでに名前が熱そうですわ……!」
「よし、試食!」
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三人(+一匹)は、湯気立つスープと、冷やされた美月特製の麺を器に分けて、箸を構えた。
ずるっ……!
「……っ! これは……!」
「辛いのに、香りが上品! 麺がもちもちしてて、でもタレに負けてなくて……!」
「火霊根の刺激が、後からふわっと口の中に広がって、鼻に抜けるこの余韻……!」
「あと、何より――冷たい麺の清涼感と、温かい薬膳スープのコントラスト……このギャップ……クセになりますわっ!」
「がうううぅぅ……(※至福)」
「はぁ〜〜〜〜。これは……メニュー化、決定だね」
「美月さま! これ、夏の目玉料理にできますわよ!」
「よし、名前は《薬膳つけ麺・五香涼華》にしよう!」
「すごい名前っぽくなりましたわ!!」
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その夜、美月は、風見亭のモデル店舗にその新作をひそかに提供。
味を知った者たちの間で、口コミはまたたく間に広がっていく。
翌週から――
各店舗では「つけ麺、まだですか?(圧)」という問い合わせが殺到し、
夏前にして、“薬膳つけ麺旋風”が巻き起こるのであった。




