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第59話 週末は、風の音とハーブティーと。〜美月、初めての週休二日制〜

「ふぁぁ……」

暖かな陽射しが差し込む窓辺で、美月は小さくあくびをした。

屋敷の東側の窓から見えるのは、薬草庭園。朝露に濡れた葉が、やわらかく光を弾いている。

「……何も、しなくていい日って、こんなに贅沢だったんだ……」

この世界に来て、三年目。

異世界転移してからというもの、毎日が試作、外交、講義、演出、謎食材探しとてんやわんやの連続だったが、ついに“週休二日制”という人類の英知を取り入れることに成功した。

美月は、ふわりとしたリネンのルームワンピース姿で、湯気の立つハーブティーを両手で包み込む。

傍らでは、クラリーチェが庭の木陰に毛布を敷いて、ノートに何やらカリカリと書き込んでいた。

「……クラリーチェ、それ、何書いてるの?」

「“本日の優雅な過ごし方”日記ですわ! 昨日は“陽だまり瞑想”が点数高かったので、今日は“空と共にティータイム”を採点しますの!」

「どこで採点してるのその優雅さ!?」

「王女ですから♡」

________________________________________

昼前、美月はふらりと町まで散歩に出かけた。

護衛は、リリアーナに「今日は人払い」と言って断った。

あえて一人で歩くという、ささやかな自由が嬉しかった。

「……あ、ミズキクレソンの新芽……もう出てるんだ」

ふらりと立ち寄った八百屋で、旬の薬草を見つけると、つい手が伸びる。

休日でもやっぱり料理のことが頭にある自分に、思わずくすりと笑う。

「あっ、美月さーん! 先週の温活ラーメン、ほんとにぽっかぽかで……!」

「今週は、娘の受験前ラーメンをお願いします! 落ち着く味で!」

「えっ……えぇ、じゃあ、“薬膳カモミール塩そば”とか……?」

町の人々に囲まれて、美月は自然と笑顔になる。

こうして何気なく交わす言葉が、週末の心のスープになるのかもしれない。

________________________________________

午後――。

「ただいま〜……」

屋敷に戻ると、リリアーナがエプロン姿で腕を組んでいた。

「ふふ、今日はわたくしが“美月さまのための休日ご飯”を作って差し上げますわ」

「え、まさか……リリアーナが料理を!?」

「失礼ですわね!? 王国の貴族教育には料理の初歩も含まれますのよ!」

「いや、前にミズキガーリックを丸ごとチョコケーキに入れた人が何か言ってたなって……」

「もー! 今日はちゃんと成功しますから! クラリーチェも手伝ってくださるのですわよ!」

「もちろんですとも! 美月さまのためなら、玉ねぎを千切り100回だって!」

「そんなにいらないよ!?」

________________________________________

夕暮れどき。

庭で、ほかほかのスープとクラリーチェ特製の花のサラダ、リリアーナの手作り“焼きチーズ薬膳パイ”がテーブルに並べられた。

「……うん、やさしい味。なんか……身体がほどけていくみたい」

「ふふ。休日には、体も心もとろけるのが一番ですわ」

「この世界に来てから、こんなふうにゆっくりごはんを食べられるなんて……」

ぽつりと、美月が呟く。

「……日本にいた頃は、ずっと走ってたなぁ。大学、バイト、実家の店。気づいたら朝になってることも多くて」

「……」

「ここに来て、健康的なラーメンを作って、いろんな人と出会って……たくさんの場所に行って、気づいたら、ずっと笑ってる。あの日、夢中で走ってた自分にも、教えてあげたい」

「……“今、ちゃんと幸せだよ”って?」

「……うん。そう伝えてあげたいな」

リリアーナとクラリーチェは、そっと視線を合わせ、うなずき合う。

「では、明日からも、また一緒に“おいしい未来”を作っていきましょう、美月さま」

「うん。ちゃんと休んで、ちゃんと働いて――いっぱい笑っていこう」

頬にふれる風はやさしく、

ティーカップの湯気が、ほんのりと夜空に溶けていった。


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