第56話 薬膳ラーメン、世界へ!美月、女子爵になる
〜女子爵美月、希望のスープを背に〜
王国へ戻ったその日、美月はいつも通り早朝から厨房に立っていた。
「うーん、スープにミズキニンニクを0.3g……あ、チグー、またつまみ食い!」
「にゃふっ、ごめんニャ。でも美月のスープ、香りだけで小躍りしそうニャ」
そんな他愛ない朝のひととき――
突然、屋敷の扉がバタンと開き、リリアーナが蒼白な顔で駆け込んできた。
「み、美月っさま……!! これは一大事ですっ!」
「えっ!?スープに異物でも!?」
「ちがいますっ! これっ、王室からの正式な文書……!!」
おもむろに差し出された封筒には、王国紋章が輝いていた。
「……ええっ、これって……開けていいの?」
「いいから開けてくださいませ!! 今すぐ!!!」
美月がそっと封を切ると、中には重厚な羊皮紙が入っていた。
『ラーメン女男爵、ミヅキ殿。
このたびの世界平和サミットにおけるご活躍と、薬膳による諸国民の健康への貢献に鑑み、
貴殿を“女子爵”として正式に任命することをここに通達する。』
「じょ、じょし……しゃく……?」
ぽかんとした美月に、クラリーチェが目を輝かせながら飛びついた。
「おめでとうございます、美月さまっ! これで堂々と“世界が認めた女貴族”ですのよ!」
「え、え、え……わたし、ただラーメンを作ってただけなんだけど……」
「そういうところが、むしろ高ポイントですわ!」
リリアーナも額をおさえながら、うなずいた。
「あなたが“なろうと思ってなったわけじゃない”からこそ、みんなが認めるのですわ。
誠実で、まっすぐで、そしてラーメン愛にあふれている」
「でも……わたしが子爵なんて……」
戸惑う美月の手を、クラリーチェがぎゅっと握る。
「では、こう考えてみてください。
この称号は、“希望のスープを世界に届ける翼”であると――
あなたのラーメンは、ただの料理ではありません。薬膳という名の平和の使者ですわ」
「クラリーチェ……」
「まったく、あんまりうまいこと言うから、反論できないじゃない」
と、リリアーナが肩をすくめると、チグーがテーブルの上から鳴いた。
「そもそも、屋敷がラーメン外交の拠点になっていますわ。いまさら“わたし貴族じゃないですぅ~”とか、通用しませんわよ」
「……ですよね……」
美月は深いため息をついて、でもすぐににっこりと笑った。
「うん。わたし、がんばってみるよ。
薬膳ラーメンで、世界中の人を元気にしたい。そのための“女子爵”なら……ちょっと、悪くないかも」
「素晴らしいですわ、美月さま!」
「では早速、“女子爵仕様のラーメン挨拶文”から練習しましょう!」
「え、それ必要!?」
「まずは、『ラーメンは健康と平和の架け橋にございます』って丁寧に言うのですわ!」
「クラリーチェ、楽しんでるでしょ!?」
「当たり前ですわ! だって……あなたの隣にいられる、それが何より光栄ですもの!」
――こうして、薬膳ラーメンと共に歩む美月の新たな日々が始まった。
世界は広く、味も文化も多彩――でも、その真ん中には、湯気立つ一杯のラーメンと、仲間たちの笑顔があった。




