第51話 春を待ちながら、再会と面接と卒業制作と。
「……やっぱり馬車旅って、優雅だけど……お尻が痛くなるのよね……」
王都の城門が見えてきたころ、リリアーナはそっとため息をついた。
「でも、リリアーナ。星を眺めながら飲んだあのお茶、すごく美味しかったです。旅の時間も……悪くないかと」
そう微笑んだクラリーチェの横顔に、リリアーナはちょっぴり顔を赤らめた。
「……そ、そうね。たまには、馬車もいい……かも、ね。うん」
帰ってきた2人を、ちょうど風見亭跡の新屋敷前で出迎えたのは――忙しそうにノート片手で何やら指示を飛ばしていた、美月だった。
「おかえりなさい! リリアーナさん、クラリーチェさん!どうだった?地方の演出は――って、あ、すみません、そこの荷物は厨房じゃなくて書庫ですー!」
「相変わらず、働きすぎですわ……!」
「ふふっ、美月さま、寝ていらっしゃいますか?今日はまだ、温泉にも行っておられませんね?」
「えっ……なぜ分かるの……?」
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その夜、学院の講師控室。美月はギルド長と軽く夜食を取りながら、近況の報告を受けていた。
「でさ、何で転移ゲートじゃなく馬車だったの?」
「それは……私も気になっていました」
美月が箸を止めると、ギルド長は肩をすくめて笑った。
「だって、お前、転移だと、リリアナーは美月の仕事入れまくるし、あの2人時間があれば本部の仕事もしまくるだろ?あの2人にも休息が必要だし、美月にも“仕事しない時間”が必要だってことでな」
「うっ……返す言葉がないです……でも、2人が快く引き受けてくれてよかった……」
「快くどころか、むしろ楽しんでたぞ?クラリーチェ王女は“素晴らしき友情旅”って詩まで書いてたし」
「えぇぇぇぇ……」
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さて、美月薬膳拉麺学院では――
卒業制作の仕上げに向けて、生徒たちは連日、厨房で汗を流していた。
「火霊草の風味を残しつつ、辛すぎないバランスを目指しました!」
「わたしは、糖質調整スープを極限まで薄味で!目標は……寝る前に食べても罪悪感ゼロです!」
そんな生徒たちの情熱に、美月は目を細めながらも、一人ひとりに丁寧なアドバイスを送っていく。
「うん、香りの層がしっかりしてる。もう少しだけ温度管理すると、最後まで風味が残ると思うよ」
「ほんとですか!?先生……!」
「ありがとう……先生の一言で、もう5杯はいけます!」
「いや、いかなくていいから!」
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そして、迎えた卒業生面接の日。
この春、希望する卒業生の中から、新規開店を控えた美月薬膳拉麺支店への配属者を選出する面接会が、王都の本部で開かれた。
美月は、襟を正し、真剣な眼差しで学生たちと向き合う。
「みなさん、今日は来てくれてありがとうございます。私は、どんなに優れた技術よりも、食べる人への“想い”を持てる方と働きたいと思っています」
面接は、真面目で温かな空気の中で行われた。
「学院で学んだ“薬膳の思想”を、地方の食文化に生かしていきたいと思っています!」
「父が糖尿病だったので……この学院で得た知識を、もっと多くの人に届けたいです!」
美月は一つひとつの言葉に、誠実に耳を傾けた。時に微笑み、時に真剣な表情で質問を重ねながら。
リリアーナとクラリーチェは、面接の運営補助として後方支援。
「この子、厨房実技はトップクラスだったわよね」
「はい。あと、掃除当番の皆勤賞も取ってます!地味だけど……なんだか美月さま好みかと!」
「それは……確かに!」
休憩時間には、3人で小さなカップにスープを啜りながら語らった。
「忙しいけど……あの子たちの目、見た?真剣で……それだけで、もう十分なんだよね」
「美月さまが見てきた背中を、みんなが追いかけてきているのですわ」
「ふふ、なんだか親の気持ちみたい……あ、でもまだお母さんって呼ばれたくないからね?」
「お母さまって呼んでいいですか?」
「やめて、クラリーチェ!やめて!!」
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粉雪が舞い始める王都の空の下――
真面目に、謙虚に、でもまっすぐに。
美月は今日も、“ラーメンで人の人生を変える”という自分の信念に、正面から向き合っていた。




