第50話◆温泉地ラーメと出汁の香り漂う夜ン演出編〜湯けむり〜
ここは、王国北部の名湯・ユラリの湯。雪解けの水が染み出すこの地には、古くから旅人と湯治客が絶えず、癒しの地として名を馳せていた。
その温泉街に新たな名物が誕生した――「美月薬膳拉麺ユラリの湯店」である。
「……あぁ、極上の湯のあとに、極上のラーメン。人類の夢がここにあるのでは……?」
美月は湯上がりのほかほかの顔で、湯けむりに包まれた屋外席に腰を下ろしていた。
その隣では、リリアーナが湯上がりの髪をタオルで拭きながら呟く。
「うむ。湯とラーメン……これは危険な組み合わせね。心がとろけてしまいそう」
「うふふ、美月さま、今日は特別演出、頑張りましょうね!」
と、元気いっぱいな声で現れたのはクラリーチェ=フォン=リシェル王女殿下であった。今日の彼女は、なんと温泉旅館の女将風の着物姿である。
「演出って、今日ってどんな内容だったっけ?」
「お忘れですか? “湯けむり屋台とラーメン舞踏団”ですわ!」
「え、なんか聞いてたよりスケールでかくなってない?」
すでに店舗前では、地元の劇団とコラボしたラーメンの歴史を語る寸劇が始まり、太鼓と三味線風の楽器が鳴り響いている。湯上がりの客たちは浴衣姿でその舞台を見守り、出汁の香りが漂う湯けむりの中、笑顔が広がっていた。
「はい、みなさま、お待たせしました~♪ 本日の限定は、『温泉玉子と山菜の雪解け塩ラーメン』でございます~!」
声を張るのは、演出係となった学院の卒業生・アマネ。もともと舞台演出が得意で、今日の公演も彼の手腕によるものだった。
「……あの子、才能あるわね。いっそ劇場部門の統括に任命してもいいかも」
リリアーナが感心したように頷く。
そして、美月は湯上がり客にラーメンを手渡しながら、にっこりと微笑んだ。
「お体、温まりましたか? では、こちらで胃も心も温めてくださいね」
「は~、ラーメンって……温泉より効くわ……」
「いやいや、温泉とラーメンで、人生リセットよ!」
クラリーチェは裏方で配膳をしつつ、時々子どもたちに小さな紙芝居を披露する。ラーメン王女としての人気も高く、町の子どもたちはクラリーチェを見ると「クラ姉!」と駆け寄るほどだ。
「美月さま、美月さま、わたくし、このままこの町に住んで、日替わりスープを探求する旅に出たいくらいですわ!」
「さすがに王女が行方をくらますと国際問題になるからやめて!」
ラーメンと温泉の力で、人々の心は芯からほぐれていった。
そして夜が更け――
湯けむりの向こう、灯籠の光がゆらめくなか、美月はしみじみと呟いた。
「……こうして、誰かが笑ってくれるなら……やっぱり、私はこの道でよかったんだな」
その横で、クラリーチェも頷く。
「はい。美月さまの一杯には、愛と平和が詰まってますもの」
「ちょっとクサいぞ、それ」
「うふふ、でも本音ですわ」
リリアーナは、二人のやりとりを見ながら、湯呑みの中の梅昆布茶をくるくると回した。
――ラーメンの力は、今日もまた、誰かの心をほどいていく。




