第41話文化祭舞台裏、私の目から見た景色――リリアーナの覚書
朝から学院中が浮かれていた。
年に一度の文化祭――生徒たちのテンションは、ラーメンのスープよりもずっと熱い。
「せんせー! 看板、曲がってますー!」
「味見まだッスか!? 10回目ですけどもう一回いいですかッスかー!?」
……いや、熱すぎてむしろ焦げている。
そんな喧騒のなか、私はといえば、中庭の片隅から、あの“2人”を見守っていた。
「先生、湯葉巻きの仕込み完了しました! あとは揚げるだけですわ!」
「ありがとう、クラリーチェ。ほんと、頼りになるなぁ」
……まったく、何度聞いたか、そのセリフ。
クラリーチェ=フォン=リシェル王女殿下は、あいかわらず全力だ。
いや、“全力”という言葉では足りない。むしろ全霊で美月に尽くしていると言っても過言ではない。
「美月さまー! 氷が足りないですわ! 走って取ってきますわね!」
「走らなくていい! 転ぶから!」
「転びませんわ!」
……そして見事に盛大に転ぶ。
私はそのたびに、ふぅ、と息を吐き、足を運んで手を貸す。
「クラリーチェ、団子は守れても足首は守れないのよ」
「うう……すみませんわ……リリアーナ様。でも、お団子は……っ」
「命より大事なんでしょう? わかったから、せめて両手で持って」
そのくせ、笑顔が絶えない。
泥だらけになっても、上品な口調を崩さないその姿勢は、もはや感心を通り越して呆れるほど。
だけどね、不思議と腹は立たない。
それはたぶん、あの子が、本気で美月の力になろうとしているのが伝わってくるから。
私もそうだった。
最初はただ、美月のラーメンが凄いと思った。
でも今は――
「……やっぱり、あの人の作る味は、人を動かすんだな」
◆あたたかい午後、杏仁豆腐とふたりの背中
文化祭も終わりが近づくころ。
私は一歩引いて、ベンチに並ぶふたりの背中を眺めていた。
クラリーチェの頬に、薬膳杏仁豆腐の蜜がついている。
美月がそれを指摘して、拭いてあげる。
「……美月さま……」
「なんでそんな照れるのさ。ほら、もう一口あるよ」
私の口元に、自然と笑みが浮かぶ。
――この学院に来てから、色んなことがあった。
出会いも、挑戦も、失敗も。
でも、美月がいたから、私は変われた。
そして今、その美月のそばに、新しく誰かが加わろうとしている。
「……いい文化祭だったな」
そう、ひとりごちた時、後ろから小さな声が聞こえた。
「リリアーナ様。わたくし……もっと頑張りますから……これからも、よろしくお願いいたしますわ」
見上げると、クラリーチェが、泥だらけの手で深々と頭を下げていた。
私はふっと笑って、その手を握った。
「いいわよ。あなたはもう、立派な“妹分”なんだから」
――この日、文化祭の終わりに咲いた友情は、きっと誰よりもあたたかかった。
そして、薬膳ラーメンより少しだけ優しい味が、胸の中に残ったのだった。
朝から学院中が浮かれていた。
年に一度の文化祭――生徒たちのテンションは、ラーメンのスープよりもずっと熱い。
「せんせー! 看板、曲がってますー!」
「味見まだッスか!? 10回目ですけどもう一回いいですかッスかー!?」
……いや、熱すぎてむしろ焦げている。
そんな喧騒のなか、私はといえば、中庭の片隅から、あの“2人”を見守っていた。
「先生、湯葉巻きの仕込み完了しました! あとは揚げるだけですわ!」
「ありがとう、クラリーチェ。ほんと、頼りになるなぁ」
……まったく、何度聞いたか、そのセリフ。
クラリーチェ=フォン=リシェル王女殿下は、あいかわらず全力だ。
いや、“全力”という言葉では足りない。むしろ全霊で美月に尽くしていると言っても過言ではない。
「美月さまー! 氷が足りないですわ! 走って取ってきますわね!」
「走らなくていい! 転ぶから!」
「転びませんわ!」
……そして見事に盛大に転ぶ。
私はそのたびに、ふぅ、と息を吐き、足を運んで手を貸す。
「クラリーチェ、団子は守れても足首は守れないのよ」
「うう……すみませんわ……リリアーナ様。でも、お団子は……っ」
「命より大事なんでしょう? わかったから、せめて両手で持って」
そのくせ、笑顔が絶えない。
泥だらけになっても、上品な口調を崩さないその姿勢は、もはや感心を通り越して呆れるほど。
だけどね、不思議と腹は立たない。
それはたぶん、あの子が、本気で美月の力になろうとしているのが伝わってくるから。
私もそうだった。
最初はただ、美月のラーメンが凄いと思った。
でも今は――
「……やっぱり、あの人の作る味は、人を動かすんだな」
◆あたたかい午後、杏仁豆腐とふたりの背中
文化祭も終わりが近づくころ。
私は一歩引いて、ベンチに並ぶふたりの背中を眺めていた。
クラリーチェの頬に、薬膳杏仁豆腐の蜜がついている。
美月がそれを指摘して、拭いてあげる。
「……美月さま……」
「なんでそんな照れるのさ。ほら、もう一口あるよ」
私の口元に、自然と笑みが浮かぶ。
――この学院に来てから、色んなことがあった。
出会いも、挑戦も、失敗も。
でも、美月がいたから、私は変われた。
そして今、その美月のそばに、新しく誰かが加わろうとしている。
「……いい文化祭だったな」
そう、ひとりごちた時、後ろから小さな声が聞こえた。
「リリアーナ様。わたくし……もっと頑張りますから……これからも、よろしくお願いいたしますわ」
見上げると、クラリーチェが、泥だらけの手で深々と頭を下げていた。
私はふっと笑って、その手を握った。
「いいわよ。あなたはもう、立派な“妹分”なんだから」
――この日、文化祭の終わりに咲いた友情は、きっと誰よりもあたたかかった。
そして、薬膳ラーメンより少しだけ優しい味が、胸の中に残ったのだった。




