第39話 王女、助手修行中!〜ラーメンに恋して、尊敬は膨らむ〜
朝の陽が差し込む、美月邸の厨房。
「美月さまっ、今朝のスープ温度は92.4度、塩分比率は……0.84でございます!」
「おっ、クラリーチェちゃん、完璧! もうベテランの助手みたいだね〜」
「えへへっ♡ ふふ、計量係にはもう任命いただいても構いませんわね?」
「いや、計量係ってなんかかわいいな……でもね、昨日の黒胡椒、種類ちょっと間違ってたかも」
「……っ!! な、なんという失態……! 私としたことが……!!」
「気にしない気にしない〜。でも今日は、こっちのスモークタイプも使ってみようね!」
「はいっ、美月さまの仰ることがすべて真理です!」
* * *
厨房での試作、店舗視察、宮廷晩餐の下準備――
どれも慣れないことばかりながら、クラリーチェはいつも明るく真剣だった。
ある日、リリアーネがふと尋ねる。
「あなた、本当に王女なのよね? 鼻歌まじりでネギ切ってる姿、もうすっかり厨房民ですわよ」
「それはもちろん、私はリシェルの王女クラリーチェです。でも……」
「でも?」
「今は“美月さまの弟子”でもありますの!」
「……ふふ。もう、あんまり心配いらないわね」
* * *
王女の勉強ノートには、びっしりと記録が残されていた。
・スープ濃度と季節の相関
・国ごとの味覚傾向とスパイス調整表
・“美月さまの好きなスープ温度ベスト3”
そして一番最後のページには、丸く囲った文字でこう書かれていた。
「尊敬という言葉だけでは、足りない気がするのです」
* * *
ある晩、美月が静かに呟いた。
「……ほんと、助かってるよ。クラリーチェちゃんが来てから、いろいろうまく回るようになった」
「も、もったいないお言葉……っ!! これは祝杯をあげねば! あ、美月さま、私が昆布だしの炭酸割りをご用意します!」
「いやいやいやいや、どんな味なのそれーっ!? まって、スープに炭酸は合わないってばー!」
「では明日の実験メモに――」
「メモしないで!? いやほんとに!」
「ふふふ、すべては美月さまの栄光のために……!」
「なんかもう、楽しいからいいか……」
美月は苦笑しながら、心の底でじんわりと感じていた。
――この子が側にいてくれて、ほんとうによかったなって。
* * *
こうして今日も、クラリーチェは王女であり、助手であり、何より――美月のラーメンを愛する一人の弟子として。
尊敬は日ごとに深まり、胸の奥には、未来へと続くまっすぐな想いが灯っていた。




