第38話 美月サポート強化月間!〜アシスタント志願王女、参上!?〜
「……これ以上、見ていられませんわ」
ある日の学院講義後、リリアーネは腕を組み、深いため息をついた。講義が終わったあとも、美月は次の外交晩餐会に間に合うよう走り去っていく。エプロン姿のままで。
「午前は支店視察、午後は外交、夜は講義と晩餐……美月さま、あなた一体いつ寝てるんですの!」
「えっ……2時間くらい? あとチグーの毛を枕にして仮眠とか……ふわふわで……」
「だめです!!そんなふわっとした生活、貴族とは言えませんっ!!」
リリアーネはばしっと机を叩いて立ち上がると、きっぱり言い放った。
「美月さまには、アシスタントが必要ですわ。しかも24時間対応型! 緊急ラーメン会議にも即応できて、書類も整理できて、代わりに紅茶も入れられるような!」
「ええっ、そんなスーパーマンいるの!?」
「いえ。私が探します!」
* * *
そして数日後、リリアーネの尽力により、貴族向け・冒険者向け・各国王侯貴族ネットワークに渡って「美月女男爵付き特別アシスタント」公募が発表された。
応募条件は、
・料理とラーメンに深い関心があること
・公務においての礼儀・品格があること
・スープの匂いが染みても気にしない心があること
多数の応募が集まるなか、ひときわ目を引く一通が届いた。
――差出人:クラリーチェ=フォン=リシェル王女
件名:「お願いです。助手にしてくださいませ。今すぐ馬に乗って向かいます」
* * *
翌週――
「はぁっ……はぁっ……間に合いました……!!」
「ま、まさか本当に王女自ら騎乗で……!?」
「ご無礼を承知の上で! わたくし、美月さまのラーメンを世界に広めるお手伝いがしたいのです!!」
泥だらけになったクラリーチェは、息を切らしながらも背筋を伸ばしていた。
美月は一瞬きょとんとした後、ぽつりとつぶやく。
「うーん……やっぱり、ラーメンって国を超えるよね……」
「採用よ!」
「やったああああああっ!」
「まって!?王族が助手って!? いや、まぁ、覚悟のほどは認めますけど……!」
こうして――
美月(女男爵/外交官/店主/学院長)
リリアーネ(侍従長的副官/秘書兼教育係)
クラリーチェ(実働アシスタント王女)
という前代未聞のトリオ体制が誕生した。
* * *
◇朝――厨房にて
「美月さま、視察先の予定は今日10店舗。こちらの地図をどうぞ」
「ありがとうございます、クラリーチェさま、お湯張り完了いたしましたわ」
「はやいっ!? ていうか王女が湯沸かし!?」
「王女より助手ですから!」
◇午後――宮廷外交室
「美月女男爵、本日の対話相手は東方共和国の皇太子殿下です」
「クラリーチェ、通訳お願い。リリアーネ、香味油のセットお願い!」
「“東方通訳王女”と“香味油副官”って何ですの……!?」
◇夜――学院講義後の厨房
「……ふぅ。今日も頑張ったなぁ」
「美月さま、ちょっとお背中失礼いたしますね。あ、肩がガチガチですわ」
「ううっ……クラリーチェちゃん天使……」
「ラーメンの神さまって……ほんと、すごい人たちを私に会わせてくれるなぁ」
美月は、灯の消えた厨房で、小さく微笑んだ。
その背中には、国境を越えた仲間の絆が、ぽかぽかと温かく寄り添っていた。




