第37話一日女男爵!〜スープと外交と夜の講義〜
朝の陽光が差し込む「美月庵」の厨房――
まだ誰も起きていない時間、そこでは既に湯気が立ち上っていた。
「……うん、この香り。今日はミズキロータスをベースにしてみようかな」
美月は、目をこすりながら大きな寸胴鍋に火をかけ、丁寧にスープを煮込んでいた。
チグーが湯気の中からにゅっと顔を出し、鼻をひくひくさせながら鳴く。
「くるるっ!」
「やっぱり? 私も今日は味噌ベースの方が合いそうな気がしてた!」
そこに、寝間着姿のリリアーネがフラフラと現れ、あくびをしながら言う。
「朝の四時半……この人はまた……貴族の朝というより修行僧ですわね……」
「スープの呼吸、壱ノ型……“五時間煮込み”だから……」
「もはや剣術!?」
* * *
午前中は、転移ゲートを使って全国40支店の美月薬膳拉麺を巡回視察。
「はい、札幌風ミズキニンニクラーメンのスープ、塩分ちょっと上げていいかも」
「ここの冷やしラーメン、ミント控えめの方がこの気候には合うかな」
ナギ「師匠……的確すぎます」
ペルル「でも急すぎて緊張しますぅ……」
午後には、貴族の執務室にてラーメン外交の会談へ。
本日は南方のフルーティ王国からの使者が来訪中。
「美月殿、この“果物と魚介の冷製ラーメン”というのは……」
「はい! フルーツの酸味と魚介の旨味の融合、名づけて“トロピカル・波音ラーメン”です!」
「な……なんという爽やかさ……この一杯で旅の疲れが吹き飛ぶ!」
夕方――
風見ヶ丘の学院では、学院第2期生たちが講義室に集合。
「はい、今日は“香味油の黄金比”について。ミズキ葱とミズキ唐辛子を使って、胃に優しく、香り高い仕上がりにします!」
生徒たち「うおおおお! 黄金比キターッ!!」
「先生、僕、昨日ずっと煮込み時間の調整してました!」
「先生、先週のラーメン、祖母が涙流してました!」
「うんうん……それが一番うれしいな」
* * *
夜――
学院の講義が終わると、慌ただしくドレスに着替える美月。
「やばい、晩餐会! 今日って東方連邦の宰相夫妻来るんだった!」
「襟、襟が歪んでます! 美月さま、姿勢っ、姿勢!」
「ひゃー……! 髪! 髪どこいった!? あ、リボンか!」
チグー「くるるる(ふぅ……毎日この調子)」
ギルド長「……この娘がラーメン一杯で世界を動かすのだから、大したもんじゃ」
――かくして、美月の一日は湯気と香りに包まれて終わっていく。
翌朝、再び寸胴の湯気が立ち上がる。
「さーて、今日は“薬膳ユズ塩担々麺”でいこうか!」
リリアーネ「寝る間があったことに驚きですわ……」
* * *
ラーメン外交官にして女男爵。
美月の一日は、スープの香りと仲間たちの笑顔で、今日も幸せに煮込まれていくのだった――




