第36話 ラーメンは外交の架け橋!〜女男爵の屋敷、世界の麺を煮る〜
「もう、いい加減にしてくださいませ、美月さま! 貴族になった今も、屋敷を空けたまま風見亭で暮らすなんて――!」
朝からリリアーネの説教が響き渡る。
「うぅ……だって、厨房が慣れてて落ち着くし……ティナたちも近いし……」
「“ラーメン外交の拠点が、木造二階建ての大衆食堂”などと各国の使節が口を揃えて言っておりますのよ? せめて屋敷に試作台を!」
「うむ、その通りだな、美月殿」
ギルド長も、腕を組んでうなずく。
「貴族としての自覚も持たねばならんし、国際的な客人への対応も増えておる。王族が朝ラーメンを食べに来るたび、風見亭が警備の迷惑になるとな」
「ぴゃあ……!」
美月が両手をあげて白旗をあげたところに、風見亭の店主・カズロウじいがふらりと現れた。
「……美月や。今の“美月薬膳拉麺”、もうわしじゃないんだ。運営はお前が育てた学院の第1期生、ナギとペルルがしっかりやってくれてる」
「ナギとペルル……あの真面目すぎるコンビ……」
「もうわしの出番もない。あの子たちの腕と情熱、ちゃんとお前の意思を引き継いどる。わしはこのへんで隠居しようかと思ってな。ほら、風見亭の屋号も、もう“美月薬膳拉麺”にしてええじゃろ」
「カズロウさん……ありがとう。でも寂しくないですか?」
「寂しいもなにも、ほら見ろ、朝っぱらから猫が三匹も寄ってきてるわい。これからは、猫と茶と昼寝の生活じゃ。贅沢なもんや」
その日の午後、美月は決意する。
屋敷に拠点を移し、正式に「女男爵邸 美月庵」として、外交と試作の中心とすることを。
屋敷の一角には、特製の大型厨房が設けられた。
チグー用のにおいゾーン、温度管理室、調味料研究棚、そして専用の“国際来客ラーメン試食カウンター”。
「ふふっ……これはこれで、悪くないかも……!」
さらに屋敷の外には、各国の旗が翻るようになる。
王族、貴族、外交官、料理人――
国を超えて、ラーメンを味わいに集まる者たちが次々と訪れた。
「美月様の“清涼ミント冷やし中華”、我が国でも採用したい!」
「この“グルン白湯”……胃が踊るぞ!」
「我が国の香辛料とのコラボをぜひ!」
気がつけば、美月の屋敷は「ラーメン大使館」と呼ばれ、
一杯のスープで、世界と世界を繋ぐ拠点となっていった――
一方、風見亭では――
「師匠が残してくれた“薬膳の哲学”……次の一杯に活かす!」
「ナギ、味見! スープ、ちょっとだけ柑橘足すと香りが際立つよ!」
学院第1期生のナギとペルルが、
今日も元気に厨房を切り盛りし、町の人々にラーメンを振る舞っていた。
そしてリリアーネはと言えば、今日も美月のスケジュール帳を見ながら嘆いている。
「次は、アズィール砂漠国からのラーメン親善訪問団ですわよ! 美月さま、また試作を忘れてたでしょう!」
「ええっ!? うう……屋敷に住むのって、やっぱり……」
「“だからこそ、優雅な美食外交官であれ”って言ったでしょうっ!」
――ラーメン外交官・女男爵、美月の新たな物語が、ここから再び、ぐつぐつと煮え始めるのであった




