第33話 真夏の挑戦!冷やし中華、異世界へ舞う!
その翌朝。
風見亭の厨房に、突如として戦闘態勢の気配が立ちこめていた。
――ガタンッ!
「くっ……冷えない……!」
まな板の前で腕組みをした美月が、氷を入れた桶を見つめて唸る。
「こっちの世界、冷蔵庫ないし……氷精石も高価すぎるし……でも、妥協は、しないっ!」
そう、今日のテーマは――
《極上の冷やし中華、異世界ver.!》
「夏はやっぱり冷やし!でもただ冷たいだけじゃダメ、爽やかで、香りが立ってて、食欲がなくても“ズルッ”と食べられるやつじゃないと!」
まず取りかかったのは「冷却技術」。
「チグー、お願い! 水桶の中にこの“涼香草の葉”を探してきて! 香りで冷感を強調するの!」
「ぐるっ!(任せろ!)」
鼻の利くチグーが桶に鼻を突っ込み、猛ダッシュで森へ向かっていった。
次に、美月は“冷やし専用麺”の試作へ。
「小麦じゃなくて……この“風の穂”って穀物、透明感あるし、茹でてから急冷したらツルツルになるかも!」
ぺちぺちと麺を打つ音と、時折の「うぎゃっ!手に粉がついた!」という叫びが厨房に響く。
そして最大の難関――スープ。
「酢……じゃなくて、“月果酢”を使ってみよう。ほんのり甘くて香りが涼しいし。あと、甘味は“霜花蜜”、隠し味に“草精酒”を一滴……」
ガラガラッ!
戻ってきたチグーが、口いっぱいに草をくわえて突入してくる。
「おかえり! えっ、それ全部“涼香草”? すごい、えらいえらい!」
チグーは尻尾をブンブン振りながら、桶の中へダイブ。
パシャーン!と涼しげな水飛沫が上がった。
「よし、冷却桶もいい感じ。具材は……“薄雲鶏”の蒸し鶏に、“火精瓜”の細切り、それから“水玉茸”のマリネ……あっ!玉子がない!卵焼きも作らなきゃ!」
テンパった美月が卵液を流し込むと、フライパンからはまさかの……
「スクランブルエッグにぃ〜!?」
「もう!違うの、薄く焼いて細く切るのっ!」
炒め直し、冷やし直し、味見してやり直し。
ぐるぐる回って、いつの間にか日は傾いていた。
そしてついに――
完成した、一杯。
透き通った淡黄色の細麺に、ピンクの蒸し鶏、緑と赤の野菜、そしてほんのり揺れる月果酢のジュレ。
その上から、美月が冷やした黄金色のタレを、そっとかけた。
「……これが、わたしの冷やし中華、夏限定“涼香ラーメン”!」
ズルッ――
「…………っ、来た!喉ごしと鼻抜けの香りのダブル攻撃!これよこれぇ〜!」
バンッ!
扉が開き、リリアーナが顔を出す。
「何ごとですの!? さきほどから叫び声とバシャバシャ水音が……」
「リリアーナぁ〜!! 見て見て! 涼香ラーメンできたの!! 食べて!」
「……し、仕方ありませんわね。では一口……ず、ズルッ……んんっ!? こ、これは……! 涼やかなのにコクがある!? そして、鼻を抜けるこの香り……っ!」
「でしょー!? これ、夏限定にするんだ!」
「限定!? そんな……毎日でも食べたいのに……!」
「うふふ、また作ってあげるよ〜」
チグーも「ぐるぐるっ!」と鼻を鳴らし、桶の中で気持ちよさそうに寝転がっていた。
こうして――
美月の異世界“冷やし中華革命”は、夏の始まりとともに静かに幕を開けたのだった。




