第29話 毒バチと特効ラーメン〜友情と献身のスープ〜
リシェル王国の東部、霧の谷に差しかかった日のことだった。
「うわっ、蚊かと思ったら……これ、やたらでかいわね」
リリアーナが軽く手を振った瞬間、ぶん、と音を立てて黒と黄色の太ったハチが腕に止まった。
「うぅ、ちくっ……って、これ……」
次の瞬間、リリアーナの顔が青ざめ、脚がぐらついた。
「リ、リリアーナ!?」
「姉様っっっ!? ああああああ刺された!?どこですの!?手!?肩!?背中!?私の命を吸ってえええええ!!」
「吸われたのはリリアーナの方だから落ち着いてクラリーチェ!」
美月がすばやく駆け寄り、リリアーナを支えた。
彼女の腕には赤黒く腫れた刺し傷が浮かび上がっていた。
「これは……毒バチの刺傷……!」
──この世界において、魔物由来の昆虫毒はなかなか厄介なもので、治療には専門の薬草か、自然治癒を待つしかない。
「こんな時にこそ……!」
美月は目を閉じ、《体調鑑定》のスキルを起動させた。
『状態:中毒性ハチ毒(LV2)/体温上昇/倦怠感/食欲低下』
『必要成分:タンパク質(吸収緩和)、塩分(調整)、鎮静効果のある香草、糖質(持続力補助)』
「……イグリ草の根……、セロリの近縁種“ミズキセリ”の葉、ミズキニンニクのスープ……」
「チグー、お願い。イグリ草の根、さがして!」
「ぐるるっ!」
チグーが嬉々として鼻をクンクンさせながら、森の奥へ駆けていった。
その間、クラリーチェはずっとリリアーナの手を握りしめていた。
「わたくし……ラーメンのこと以外、なんにもできませんのに……どうか、どうか回復なさって……姉様……」
「クラリーチェ、君の気持ちは伝わってるよ」
美月は落ち着いた声で言った。
──30分後、チグーが見事イグリ草を咥えて戻ってきた。
「よしっ、ありがとう、チグー!」
風除けの岩場で火をおこし、鍋に素材を投入してスープを整える。
イグリ草の根で毒素を和らげ、ミズキニンニクでスタミナを、ミズキセリで香りを立てる。スープの味の芯にはチグーが見つけた“ミズキタンポ”の濃厚ポタージュ成分をプラスしていた。
「これが……特効ラーメン」
目を閉じて寝息を立てるリリアーナの口元に、そっとスープを流し込む。
数分後──。
「……あれ? なんか、胃が……あったかい……」
リリアーナのまぶたがゆっくりと開いた。
「姉様っ!」
「よかったぁ……!」
「うわあああん、よかったぁああ!」(←クラリーチェ号泣)
「ま、また泣いてるの? 誰かハチ刺してあげたの?」
「違いますのうううっ!! もう、ほんとうに心配で……!」
その場にいた誰もが胸を撫でおろした。
美月はそっとスープ鍋を見つめ、つぶやいた。
「ラーメンって、本当に……人の命も、心も救える料理なんだね」
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リリアーナは無事回復し、数日後には再び旅に加わった。
そして──このスープは“特効ラーメン”として、後にリシェル王国全土に広まり、毒バチの脅威に対抗する食文化として語り継がれることとなる。
だが、それはまた別の話である。




