25話 ラーメン外交編:王女、ラーメンに恋をする!
リシェル王国の宮廷厨房。美月がスープを煮込むその背後に、金髪を揺らす小柄な少女がいた。
「まぁ……湯気の向こうの美月さま……まるで炎の精霊のようですわ……!」
クラリーチェ=フォン=リシェル王女、14歳。
その瞳はうるうると潤み、すでに恋する乙女のような熱を帯びていた。
「わたくし……決めましたの。今日から、美月さまのそばに……ずっとおりますっ!」
「……えっ」
「えっ?」
美月とリリアーナが同時に固まる。
「クラリーチェ王女、貴女は王族でしょう!?」
「ですが! このラーメンの香りを嗅いでしまっては、もう戻れませんの!」
「味じゃなくて、香りで陥落してる!?」とリリアーナがツッコミを入れると、
王女は胸に手を当て、真剣な顔で言った。
「美月さまの包丁さばき……湯を注ぐ所作……。
あの澄んだスープに、わたくし、恋をしましたの……!」
その日から王女は、美月の一挙手一投足をメモし、時には厨房の隅に小さな机を置いて「ラーメン観察日記」をつけ始めた。
最初は不機嫌だったリリアーナ。
「まったく……いつの間にこんなに若いライバルが……って、美月さまを見てるだけで幸せそうですわね、この子……」
だがある日、王女が思いつめた顔でリリアーナに話しかけてきた。
「リリアーナさま……わたくし、自分でラーメンを作ってみたいんですの。美月さまのために……!」
「……あなた、ほんとに本気なのね」
リリアーナはため息をつきながらも、クラリーチェにエプロンを手渡した。
「では、まずは洗い物から始めていただきますわよ。ラーメン道は甘くないんですのよ?」
「はいっ! なんでもいたしますわ!」
その日の午後――
リシェル王国の宮廷厨房に、姫君ふたりのラーメン修業の声が響いた。
「ちょっ……それ“火霊草”の実、全部入れすぎですわ! スープが火を吹きますわよ!」
「ご、ごめんなさいですの……つい、美月さまの“情熱”を表現したくて……!」
笑いと混乱の中、リリアーナは微笑んだ。
「まったく……本当に、妹がひとり増えたみたいですわね」
そしてその夜、クラリーチェがそっと呟いた。
「……わたくし、美月さまと出会えて、よかったですの」
――心優しき王女と、情熱のラーメン職人。そして、誇り高き貴族令嬢。
三人の少女の絆は、国も身分も超えて、静かに、しかし確かに、ひとつの丼で結ばれていた――。




