第20話 餌付けする
まずい、このままでは本当にただついていくだけになってしまう。
しかも、素材ももらってしまっているし、なんとか挽回を……
とは言っても、戦闘じゃなんの役にも立たないし。
いや、でも何か……しないと……
インベントリを見て何かできないか考えてみる。
しかし、わかっていたけど、ろくなものがない。
あるのは、初級ポーションと石、拾った素材と、今日の朝売りそこねたいくつかのアイテムだ。
そういえば、アイテム売るつもりだったんだけど、売りそこねたんだよね。
せっかく、レベル4になったから、それでアイテムを作ったんだけど。
その中の一つに目が行く。
……あ、そうだ、どうせだったらこれを使ってしまおう。
とうわけで、
「ロナさん、少し休憩しませんか?」
「……ん、わかった」
ロナさんは私の提案を受け入れてくれた。
もしかして、私が疲れたとか思ってくれたのかな?
やっぱりいい人だなぁ。
そんな人にはちゃんとお返ししなくては。
というわけで、取り出したるは、昨日作ったパン。
……なんか、昨日作ったパンって言うと、硬そうなイメージだけど、インベントリに入れてるからそんなことはない。
「ロナさん、これをどうぞ」
そいつをロナさんに渡す。
何もできない私だけど、こうやって食事の用意をするくらいはできるんだよ。
「……パン?」
「はい、こんなことでお礼にはならないと思いますが、食べちゃってください」
一応これでもこのパンは料理アイテムなので、効果付きだ。
『通常のパンだと、素早さアップだっけ?』
『そだね、錬金術で作ったやつにもついてるけど、効果は……』
効果で本職の料理人に勝てるわけないじゃない。
でも、それでも、一応ちゃんと作ってきたんだよ。
『あれ? パンって野菜とか挟んであったっけ?』
『一応、作ったパンに挟むことはできるよ』
『割りとうまそう』
何を隠そう、このパンというアイテム、見た目完全にコッペパンだったのだ。
もう、だったら挟むしかないよね。
野菜とか、卵とかとか。
幸いにも、食材だけはあったから、いろんなコッペパン作ってみたよ。
『挟んで効果とかあるのん?』
『いや、扱いとしては、ただのパンだったはず』
『むしろ、パンとしての効果は薄れたような?』
『あんだけ原型なくなったら効果は低そうだなぁ』
『完全に嗜好品だなぁ』
そう、どうやら、色々と挟んでみたけど、結局アイテムとしてはただのパンという域から出ないらしい。
むしろ、元から離れるにつれて効果が薄くなるという……
そのため、ゲームとしては、完全にただの無駄になってしまう。
しかし、
『うまけりゃいいんだよ』
うん、そういうこと。
私に取ってはここはゲームではなく、現実なので、美味しいに越したことはないのだ。
というわけで、何故かパンを見つめて動かないロナさんを見つつ。
私も、一口。
「うん。よく出来てる」
ただのコッペでも、ちょっと具材挟むだけで、この満足感だよ。
思わず口が緩んでしまう。
ちらっと見ると、ロナさんもコッペパンを口にしていた。
「……んっ!」
目が光ったような?
そして、そのままかぶり付くようにコッペパンを食べていく。
うんうん、その食べっぷりを見れば言葉はいらないね。
『……今日の昼はパンにしようかな』
『見てるだけでうまそう』
『ちょっと近所のサンドイッチ屋……、いや、ゲームに入ったほうが早いか?』
そういえば、視聴者さんたちの方の時間って今何時なんだろ?
ちらっと放送時間を見ると3時間になってた。
今日は、早めに8時ごろに開始したから、11時過ぎくらいかな。
ちょっと早いお昼になったね。
「……」
ロナさんがパンを食べきっていた。
なんか少し悲しげな感じだ。
そんなに気に入ってくれたのかな?
「ロナさん、まだありますけど、食べま……」
「いただく!」
インベントリから取り出して、差し出すと、凄い勢いで食いついた。
そして、また凄い勢いで食べていく。
お世辞とかじゃなく、気に入ってくれたみたいだ。
『なるほど……ロナちゃんは食いしん坊キャラと……』
『よし、今度鍛冶屋に差し入れに行くぞ』
『食べ物で釣ってどうする気ですかね?』
『そりゃ、可愛い子と少しでもお近づきになりたいという……』
『完全に下心やんけ』
ゲームのロナちゃん逃げてー
なんか、同じ子が二人いるみたいで変な感覚だね。
いや、完全に同じ嗜好かどうかわからないけど。
まぁ、でも、
「んむっ! んむっ!」
美味しそうに食べてくれてるこの姿見れて良かった。
少しはお返しになったかな?
その後、ロナさんは3つほど私お手製のパンを食べた。
もっと食べたそうだったけど、それで在庫が尽きたからそれで終わりになった感じだ。
「ロナさん、よくそんなに食べれますね」
細身の見た目からするとどこに入ったのかわからない。
「ん、私、半分ドワーフだから」
えっ?
「あれ? ロナさんってドワーフなんですか?」
耳からして、エルフだと思ってたんだけど。
「半分だけドワーフ、残り半分エルフ」
「ドワーフとエルフのハーフってことです?」
「そう」
なるほど、ハーフだから、耳はとんがってエルフみたいなんだ。
それにスラッっとしてるのもエルフっぽいかな?
でも、考えてみれば、ハンマーを振り回したりしたり、鍛冶屋っていうのはドワーフっぽい?
『ドワーフとエルフのハーフだと……』
『なんか、仲悪そうなイメージあるんだけど、そこんところどうなん?』
『このゲームでも例に漏れずって感じかな。お互い避けて通る感じらしい』
『少なくともドワーフとエルフのハーフってのは初めて聞いた』
へぇ、やっぱりそうなんだ。
アリスとしての記憶だと、そもそも、ドワーフとエルフという種族は知っていてもほとんど知識はない。
遠い外国人みたいな認識だ。
『しかし、ロナちゃんのスペックめっちゃ高くない? いろんな意味で』
『見た目、エルフの美少女で、戦闘では高火力、おまけにドワーフとエルフのハーフ』
『今後のストーリーとかにも絡んでくるんだろか?』
『可能性はあるな』
「ドワーフだから燃費が悪い」
私が黙ってコメントを見ていると、ロナさんが続けた。
ふむ、その意味するところは?
「アリスのご飯美味しかった」
つまり、
「また食べたい」
実に気に入ってくれたみたいだ。
「はい、機会があったらまた作ってきます!」
「ん、よろしく」
なんか、餌で釣ったみたいになったけど、仲良くなれた気がする。
森の奥に向かって歩きつつ、ふと思い出した。
「……そういえば、ウルフ肉って料理の素材になったりするらしいですよ」
「今すぐ狩る!」
「わっ、ちょっと待ってください!」
走り出したロナさんを慌てて追いかける。
以降、出てきたウルフを狩りまくり、沢山のお肉をゲットしたのだった。
キラキラとした目で、全部私にくれた。
つまり、次はこれで何か作ってこいってことですね。




