ステージ7-8 蟻型モンスター
──“アリの巣”。
「マジかよ……ここ、ステージ扱いか……いや、何か色々ありそうだしダンジョンか」
「こんなステージトラウマものですね……」
「見つかったらアレに追われる訳だし、見つかりたくないなぁ……」
「僕もだ。今上から見下ろしているだけで気分が悪くなる程の光景なのに……あんなのに追われたら精神的に終わりそうだよ……」
「同感だ。何とか穏便に進みたいところだな……女王蟻の部屋には蛹や卵もあるだろうし、考えただけで鳥肌が立つ……」
ボスモンスター捜索の為、俺達五人はアリの巣というダンジョンを進んでいた。
俺達の場所は木枠の上であり、まだ降りてはいない。そこから見える光景に対する全員の意見は満場一致。気持ち悪い。早く出たい。何か嫌だ。
この光景だ。余程の虫好きじゃなければ気分が悪くなる場所である。いや、虫好きでもあまり見たくない光景か。
「まあ、地上に巣があっただけマシかもな。地下じゃすぐに逃げたりも出来ない訳だし、逃げ場の多い地上に巣を作ってくれるのは助かる」
「そうですね。地上ならいざという時は空にも避難出来ます。ここなら追われても逃げやすいですし」
「蟻達が登ってきたら飛び降りれば良いもんねぇ。何千何万の数は居るけど、何とか穴を抜けて進む事は出来そう」
「まあ、何より敵に見つからないのが一番だね。もう既に僕達の侵入自体は気付かれているんだろうけど、あまり敵に会わないように進めば良いかな」
「そうだな。しかし、い、良いものだな。こうやって作戦会議的な事するのは……!」
なるべく敵に見つからないように行動する。それが最善のやり方。
ソフィアはもう思うのは止め、普通に口に出して話しているが、それはまあいいだろう。考えてみれば、こう言った普通の作戦会議もソロプレイじゃ出来ないからな。精々自分の脳内会議が関の山だ。まあ、自分会議じゃ結局自分本意になるから会議とも言えないけどな。
「じゃ、行くか……!」
「はい……!」
「オーケー……!」
「了解……」
「うむ……!」
小声で話、そのままなるべく音を立てずに駆け行く。
割としっかりとした建築物なので音なども足音に気を付ければ何とかなるようなモノであり、本当に自分自身に気を付ければ何とかやり過ごせそうな状態だった。
『『『…………』』』
「……っ。やっぱりそう上手くいかないか……! もうちょっと思い通りになってくれよな、世界……!」
否、先程撒いた見張りの蟻達が外側の壁を登って来る。
まあ、ジャンプで避けたくらいじゃ蟻の嗅覚は誤魔化せないか。人より良いらしいしな。虫は全体的に視力も悪くないし、一瞬視界から消えたくらいじゃ追い掛けて来る。
『『『キキィ……!』』』
「急ブレーキみたいな音出して直進してくるなよ……!」
「うっ……やっぱり群れ成す虫って気持ち悪いです……!」
無数の蟻。それらを始末するのは面倒だが、ただ追われるだけなのも問題。なので俺達は応戦する。
『キィ……!』
「そらっ……!」
『キャアァ……!』
「きゃあ! “ファイア”!」
『クキ……!』
「素手で攻撃するのも精神的にキツいのに……!」
『キッ……!』
「速い敵だと、遠距離攻撃じゃ戦いにくいね」
『カァ……!』
「群れなきゃ何も出来ない奴等め……!」
しかし相手にするのは降り掛かる火の粉のみ。飛び掛かる蟻を斬り捨て、焼き払い、砕き、射抜いて撃破。何体かが光の粒子となって消え去る。
こんなに騒いでは他の、下方に居る蟻達にも気付かれてしまうが、それはかえって好都合。反応や感覚が鋭くとも所詮は虫並みの知能しかない。気付かれたら内側の蟻達は全員が登って来る事だろう。ギリギリまで引き付けて下方に降りれば距離を離せる。
『『『…………!』』』
「まだまだ来るか……! 外側に居た奴ら……!」
「外側だけで百体以上は居ましたものね……ここに居る蟻達を全滅させればライフアップに必要な十万体の討伐に到達出来そうな程ですよ……!」
「流石に全滅させるのは一苦労どころの話じゃないねぇ。行動は今まで通りで良いかな」
「そうだね。近距離の存在だけを倒して女王蟻を探す。これが一番だ」
「ああ。この数を相手にするのは骨が折れるからな」
まだ下方の蟻達は俺達の存在に気付いていない。案外鈍いな。まあ、それもそれで都合は悪くならない。進むのに邪魔な数だけを倒せばそのまま女王蟻を探せるしな。
俺達はまた蟻達を打ち倒し、更に先へと進む。
「この階層……って言うのかな。上の方にはもう居ないみたいだね」
「そうみたいだな。それじゃ、次は下を探すか。木の枠で造られているから、何階かに分かれている。木の枠をアリの巣の形にしたらこんな感じなんだろうなって地形だし、まだまだ下はある」
ソラヒメの言葉に返して近くの木を掴み、そのままそれを軸に使い、鉄棒のような要領で跳躍。いや、鉄棒は跳躍するものじゃないか。
ともかく俺達は一つ下に飛び降り、さながらフリーランニングのように軽快な動きで障害物を躱しながらアリの巣を進む。
蟻達は木枠ではなく地面の壁をそのまま降り進んで俺達の後を追う。
『『『……!』』』
この階層? に居る蟻達も俺達の存在に気付いたみたいだな。次々と立ちはだかって仕掛けてくる。それらを俺達は粉砕。そのまま経験値を得て更に加速した。
「……というか、今の蟻達。見張り役のLv100を越えていたな。Lv105。5レベル上がっているぞ」
「そう言えばそうですね。一つ階層を降りる毎にレベルが上がるのでしょうか?」
「それなら大変だねぇ。見たところこの巣は六階くらいあるし、単純計算で最下層にはLv130を超える蟻達が居るのかも」
「……蟻は組織を形成する虫。働き蟻と兵隊蟻。怠け蟻と繁殖用の蟻。そして女王蟻が居るからね。怠け蟻と繁殖蟻はあまりレベルが高くないにしても、働き蟻や兵隊蟻はそれくらいになっていてもおかしくないね」
「地上の見張り役だったLv100の蟻型モンスターはほんの表面上の存在だったという事か……。確かに外で見掛ける蟻は全体の2%くらいらしいし、まだまだ強い蟻が居てもおかしくないな……」
見張り役の蟻が全体の2%程。おそらく他にも居る筈なので俺達が見た数百匹の見張り蟻は全体の0.1%にも満たないだろう。
そんな蟻達が大量に存在する場所。改めて気が滅入るな……。
『『『…………!』』』
「まあ、乗り込んだからには仕方無いって事だな!」
話ながら走っていても目の前や頭上から蟻達が仕掛けてくる。俺達はそれらをまとめて吹き飛ばし、突破して直進した。
「この数……まとまっているのならまとめて……! ──究極魔法・“ファイアエクスプロージョン”!」
瞬間、ユメが必殺スキルを使用し、追ってくる蟻達をまとめて吹き飛ばした。
炎の爆発か。確かに一掃するにはもってこいのスキルだな。いつの間にか覚えていたみたいだ。
『『『…………!?』』』
ユメが放った炎の爆発は炎がその場に留まり、巻き込まれなかった後続の蟻達もまとめて焼き払う。
通常の爆発は基本的に音と衝撃が強大であって、一見火属性のように見えるが、実はそうではない。むしろ火災を消すのに爆発が使われたりするくらいだ。
なので今のユメが放った魔法は火炎の方に着目し、衝撃を弱めて炎の滞在時間を長引かせたスキルのようだ。
【ライトはレベルが上がった】
【ユメはレベルが上がった】
【ソラヒメはレベルが上がった】
【セイヤはレベルが上がった】
【ソフィアはレベルが上がった】
一気に数百の蟻達を倒した事でレベルが上がる。ユメの成果なので俺達は5レベル。ユメは6レベル上昇している。
しかし、この数を一気に倒しても上昇レベルが二桁も行かない。俺達のレベルが高いのもあるが、やはり一匹一匹のレベルが100前後だとしても貰える経験値は少ないみたいだ。
「今ので下方の蟻達も俺達の存在に気付いたみたいだな。逆に逃げやすいルートを確保出来る。なるべく引き付けてから撒くか」
「はい!」
ユメの必殺スキルによって蟻達に俺達の場所が知られる。だが、今はそれが一番の逃げ道確保のチャンス。
ギリギリまで引き付けて一気に飛び降りる。もしくは必殺スキルで打ち倒す。それが出来るので今のユメの攻撃はかなり良い事だった。数も減らせて俺達のレベルも上昇したしな。
『『『…………!』』』
「来ました!」
「もう少しだな。近付かせる距離は……まあ、十メートルが目安か」
予想通り、下方にも居た蟻達が全員やって来る。
全員と言ってもこの騒ぎに気付いた蟻だけ。ここの巣はそれなりの広さを誇るので、まだ半数以上は更なる下方に居る。
この蟻を見る限り最大レベルでもLv110。まだまだ薄皮程度の存在だな。
『『『クァキィ……!』』』
「今だ!」
飛び掛かり、その瞬間に俺達も落下。
ここから下まで一直線。研ぎ澄まされた動体視力で女王部屋を探すが、四階。三階。二階。と、先程まで探していた五、六階を含めて女王蟻はいない。
そのまま一階へと降り立ち、俺達は辺りを見渡した。
「……っ。地下もちゃんとあるのかよ……!」
「その様ですね……この辺りにはまだ蟻達も残っていますし、厄介です……!」
『『『クキコキ……!』』』
流石に一階までは先程の騒ぎにも気付かなかったのか、無数の蟻達が屯していた。
そのレベルは何れもLv130。一気に上がったな。やっぱり下層に降りる毎にレベルが上がるという推測は当たっていたらしい。
何故前線に出ている者達よりも高いのかは分からないが、かつては一級線の兵士だったので階級が上がって重要な巣の内部に当てられているか。メタ的に言えばゲームシステムの都合と言った辺りか。
何はともあれ、さっきの蟻達よりは手強い。先程レベルが上昇して
俺が【Lv134→Lv139】。
ユメが【Lv132→Lv138】。
ソラヒメが【Lv133→Lv138】で、セイヤが【Lv132→Lv137】。
そしてソフィアが【Lv134→Lv139】になっている。ユメがついにソラヒメへと追い付いた。だが、Lv130の蟻達はまだまだ一撃じゃ倒せないだろう。この世界じゃレベルの恩恵は凄まじいからな。
まあ、それでも二撃くらい当てれば勝てる相手。俺達の武器が武器。レベルだけではなく、装備の恩恵もかなりのものだ。
「取り敢えず、更に下へ行かなきゃならなそうだ。行くか……!」
「はい!」
『『『キシャァ……!』』』
Lv130の蟻達を倒し、先程見つけた下への入り口に駆け込む。完全なカチコミだな。人型の存在は相手にしにくいのに、人以外なら問題無いって言うのもおかしな話だ。一応他のモンスター達も生きているのにな。
ま、やっぱりその辺りはリアル型のMMORPGで慣れたって感じか。
『『『……!』』』
「よっと!」
「“ファイア”!」
「やあ!」
「はっ!」
「はあ!」
地下に向けて進み、蟻達は斬り伏せて打ち倒す。ユメ、ソラヒメ、セイヤ、ソフィアの四人も続き、炎魔法や拳に矢。それらを用いた二、三撃で打ち沈めて地下に入る。
そう言えばソフィアの弓矢もセイヤの持つ音弓と同じくらいの威力があるみたいだな。俺達は地下を行き、暗闇の道を進む。
『……!』
「Lv135……! やっぱり地下で更にレベルが上がるのか……!」
地下にも蟻達は居る。そのレベルは135。今の俺達よりは低いが、先程までの俺達は越えられたな。だが、これ程の数が居ればレベルが上がってボスモンスターとも戦いやすくなる。“星の光の剣”を使えばボスモンスターも楽勝なんだが、それまで“SP”を温存出来るかが問題だな。
「そらっ!」
『……!』
取り敢えず今の相手に集中する。
剣を振るってダメージを与え、蟻型モンスターは応戦する。今までは連続攻撃で倒せたが、反撃するようになったか。
Lv135の蟻達はざっと三十匹。全部を相手にしている暇はないな。
「ここは私が仕留めるよ! ──奥の手・“火炎の拳”!」
『『『……!?』』』
その瞬間、ソラヒメが必殺スキルを発動。それと同時に正面の蟻達を全て焼き払い、消滅させて全滅させた。
【ソラヒメはレベルが上がった】
【ライトはレベルが上がった】
【ユメはレベルが上がった】
【セイヤはレベルが上がった】
【ソフィアはレベルが上がった】
それによって俺達のレベルが上昇。今度はソラヒメが4上がり、俺達は3ずつ上昇した。
その恩恵で俺が【Lv139→Lv142】。
ユメが【Lv138→Lv141】。
ソラヒメが【Lv138→142】。
セイヤが【Lv137→Lv140】。
そしてソフィアが【Lv139→Lv142】。
数的に考えれば先程よりも上がり幅は大きい。やはりレベルが高い分、貰える経験値も相応みたいだな。
「どんどん降りるか……!」
「はい。勢いはありますからね!」
「オーケー!」
「了解」
「ああ♪」
それから蟻型モンスターを倒しながら先に進み、アリの巣を探索。
「ここは……エサ置き場か……」
「バラバラになっている事以外はそのままの形でモンスターが置かれていますね……」
エサ置き場らしき場所には大量の死骸があり、
「この白い塊ってもしかして……」
「卵だね。蟻の。それも無数にある」
卵部屋を抜け、
「うっ……この部屋は一段と気持ち悪いな……」
「羽とかみたいな食べられない部位の生き物の残骸に蟻達の糞……ゴミ捨て場でしょうか……」
ゴミ捨て場を抜け、更に進む。
その道中でも蟻型モンスターは出現する。先へ先へと行く毎にレベルも少しずつ上昇し、最下層付近ではLv150となっていた。
因みに俺達もレベルは上がっている。先程から蟻達を経て15レベルの上昇。一人一人で必殺スキルを使いながら進んだので、俺達全員が均等に上がっていたのだ。多分そういう風になるようなプログラムが施されているんだろうな。
まあ、数が多いので結果的に“SP”は無くなってしまったが、まだ自動回復が出来るくらいは残っている。そして迷いながら進んだ俺達は明らかに怪しい穴の前に来ていた。
「ここは確実にそう言う部屋だろうな……」
「そうですね……。間違い無さそうです……」
「ようやく着いたねぇ~」
「結局下に進むだけで良かったのかな」
「うむ……緊張してきたな……」
ここは確実にボスモンスターが居るであろう部屋。俺達の推測では女王蟻。
覚悟は既に決まっている。俺達は勢いよくその部屋へと飛び込んだ。




