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ステージ7-7 モンスターの巣

「見ろ。あそこだ。あそこから中国に入れる」


「……。何で中国とロシアの国境にこんな建物が……。この世界、国なんて機能していないのに」


 走り続けて数時間後、俺達は中国とロシアの国境らしき場所に来ていた。

 そこまでは街や村もなく、ただの雪原を進んだ。当然モンスターとも戦ったがその辺は簡単に勝てたので良いとして、問題は何故かここに存在する“建物”だ。

 この世界に置いて、建物は稀少。基本的に倒壊しているか、“NPC”達の街や村になってしまっている。

 しかしここには、国境付近には巨大な壁のようなものが建てられていた。その壁を隔てた先が旧中国。完全に人工的な何かであり、少なくとも旧世界のプレイヤーが建てた物ではないだろう。


「おそらく最近この辺りに出没するモンスターの仕業だろうな。そのモンスターが色々な物を建築し、国境を通れなくしている。通ろうものならたちまち襲われてしまうだろう」


「建築するモンスターか。居てもおかしくないが、何の為に……」


「それが魔王軍と関わりがあるんじゃないかと言われている所以ゆえんだ。他のプレイヤーは魔王軍が世界征服でもしやすいように建設しているんじゃないかと噂していた」


 どうやら魔王軍かもしれないという事はソフィアが噂で聞いたらしい。……何も言うことはないな。噂は大事だし。

 取り敢えず、それが本当に魔王軍なら放ってはおけない。何の目的か分からないにしても、フィクションに置ける魔王というのは大体世界征服を狙っているか、美男美女揃いのキャラに弄られるギャグキャラとして扱われる。

 一昔前のRPG要素がふんだんに使われたこの世界。最近では逆に珍しい、正統派な魔王かもな。

 つまるところ、この建築は魔王軍が世界へと進行するに当たって仮拠点になりうるモノという事だろう。


「確かに中国は広いし、人も多い。拠点にはもってこいだな。まあ、この世界で人数の多さはそのまま敵の多さに繋がるけど」


「主に土地の広さが理由でしようか。けど、それならロシアの方が大きいですけど……」


「“この世界”の環境的な意味なんじゃないかなぁ? この世界の環境は首謀者の独断と偏見で創られているから、モンスターにとってロシアは寒過ぎるのかもねぇ」


「そうなると、今目の前の建物を造っているモンスターは寒さに弱いという事になるね。そして、ロシアの次に大きなカナダやアメリカ方面で活動していないという事はアジア圏内で誕生してそのまま中国を侵略した……って感じかな」


「だが、中国にも腕の立つプレイヤーは多い。人口が人口だからな。相応の実力者も居る筈……それなのに易々と支配されたのはおかしいな(わあ……ちゃんと仲間として会話に参加出来てる……!」


 またソフィアから心の声が聞こえたような気がしたがそれはさておき、なぜモンスターは中国を拠点としたのか。それについて俺達は話し合う。

 中国に拠点を造っている理由は寒さが苦手。海を渡れない。アジアにて誕生したという事が推測。しかし中国にも一流プレイヤーは居る筈。それならソフィアの言うように簡単に支配される筈がないだろう。

 その結果、俺は一つの仮説を思い付いた。


「もしかして、国境だけを拠点にしているのかも知れないな」


「「……!」」

「「……!」」


 それは、中国を囲むよう、国境のみに建造、建築、建設をして拠点にしているという事。

 何故そんな事をするのか。その答えは簡単だ。


「国境を囲む事で、中国に居る他のプレイヤー達に悟られないように侵略活動を進める。そして態勢が整ったら一気に仕掛ける。そうすれば不意も突けるって訳だ。常に見張りを置けば他のプレイヤー達が何かに感付いても即座に始末出来る。フィクションじゃ基本的に機能していない多勢に無勢がこの世界じゃ通用しているからな。どんなにレベルが高くても疲労には勝てないって訳だ」


「ライトの理屈だと、敵は軍勢って事になるね。……けどまあ、これ程の建築物を造れるモンスターなら軍勢でもおかしくないかな。魔王軍のモンスターという可能性があるなら軍は率いているだろうしね」


「それならこの場所も既に見張られている可能性がありますね。建築物の近くですし。……それに、おそらくここは重要な建物みたいです」


「そうだねぇ。もう背後を取られていたりして」

「そうなったら私の所為せいか……? ここまで案内したのは私だし、もしかしたら私の所為でお前達を巻き込んでしまうかも……」


「いや、いくらなんでもそんな事……」


『『『……キャア……!』』』


 あった。

 建物の上から無数のモンスターが見下ろしており、甲高い声を上げる。鳴き声か。


「……まあ、そんな事あったとしても、別にソフィアの所為じゃないさ。元々魔王軍かどうかの確認。そして魔王軍だったら討伐する予定だったからな」


「そうか? そう言ってくれるとありがたい……だが……もしかしたら……」


「取り敢えず、そうネガティブに考えるのをやめた方が良いな。元々俺達が頼んだ事だし、気にしない方が良いさ」


「……」


 ソフィアは口を噤んで黙り込んでしまう。やっぱり孤独歴が長いからか、“自分の所為せいで”。“自分が悪い”と考えてしまうようだ。

 一人で行動していると失う怖さが強くなるって訳か。ライフと戦っていた時の俺はユメ達が居なければ俗に言う闇落ちルート一直線だっただろうし、こんな世界だからこそ仲間の存在は重要って訳だ。

 まあ、仲間と口で言うだけなら簡単。ライフの例もあり、現実でも友達料を払えば仲間になってくれる者も沢山居る。ソフィアとは表面上だけじゃない仲間になれたら良いな。


『『『キィ……!』』』

「取り敢えず、俺達はソフィアを嫌いにならないから安心しろ!」

「はい! 大丈夫です! ソフィアさん!」

「今はこのモンスター達の相手だね!」

「頼りにしているよ。ソフィア」

「あ、ああ!」


 話しているうちにも敵は待ってくれない。フィクションなら話している間だけは止まってくれているんだけどな。たまにそう言ったモンスターも居るが、基本的に即座に仕掛けてくる。

 敵のレベルはいずれも100。この群れの規模ならボスモンスターも居るだろうし、それが何なのか。そしてこのモンスター達の種族が何なのかだな。


『キィ……!』

「……。成る程。──蟻か。そりゃ大規模な群れで行動するよ」


 モンスターの正体はアリ

 確か蟻の中には葉や木の枝を使って何かを造る種族も居る。巣が土の中だけではなく、蟻塚や葉っぱの中だったりする蟻も居るし、今までの動物や虫型モンスターの前例を見る限り、様々な“蟻”の特性を持っているんだろうな。この蟻達も。

 まあ、蟻塚を形成するシロアリは厳密に言えば蟻の仲間じゃないんだけどな。


「蟻は速くて力持ち。ステータスを確認する暇はないな」

「そうですね。けど、一匹一匹は簡単に倒せます! “ファイア”!」

「本来ならLv100の蟻型モンスターの群れなんて強敵だけど、今の私達のレベルなら余裕を持って倒せるね!」

「問題は親玉……多分居るであろう女王蟻がどんな存在なのかだね」

「居るとしたらその女王蟻がボスモンスターか。……しかし、蟻の群れ……どんな生物であっても、無数の群れを成す姿は何となく気持ち悪いな……!」


 俺達は蟻型モンスターを対処する。

 剣で斬り伏せ、炎魔法で焼き払い、拳で打ち抜き矢で射抜く。

 Lv100とそこそこ高いが、海を渡っていた時に戦っていたモンスターの平均レベルと同じくらい。数こそ多いが、一撃与えれば倒せる強さのようで俺達は問題無く対応出来ていた。


『『『…………!』』』

「群れを成しての攻撃か……!」

「これは……毒液ですね……! “ウォール”!」


 蟻はハチの仲間。日本ではそう言った種は少ないが、中には毒針を持つ種や毒液を放出してくる種が居る。

 様々な蟻の特性をあわせ持っているであろうこの蟻達も相応の力を使えるようだ。

 それに対してはユメが壁魔法で防ぐ。いつの間にか覚えていたのか。“地形生成”を使う暇も無かったし、助かった。


『『『…………!』』』


「次はみずからの突撃……! 身体がデカいからそこそこ速いな……!」

「まあ、正面からの突進ならジャンプすれば避けられるね。周りにはこの蟻達が造った色んな建築物があるし、足場は多いかも」


 毒液が駄目だと判断した蟻はその身体をもちいて突進する。

 通常の大きさの蟻で時速36m程。それが百倍以上になっているので速度も相応。確か蟻の大きさが1mだったら時速36㎞になるらしい。この蟻をゲームのモンスターと考えて、今のレベルからすれば時速360㎞は出ていそうだな。

 今の俺達になら見切れる速度だが、あの数と大きさからなる質量。当たったら一気に巻き込まれそうで危険だ。


「けどまあ、このままり続けていてもキリがない。早いところ中国に侵入して本元を叩いた方が良いかもしれないな」


「それもそうですね。虫というだけあって規則的な動きしかしませんし、早いところ推定ボスモンスター……女王蟻を探した方が良さそうです」


「賛成かな。私が選んだ“格闘家ファイター”だけど、素手で虫を叩くのはあまりいい感触じゃないからね……厳密に言えば装備はしているんだけど」


「“弓使い(アーチャー)”の僕達じゃ、まとめて倒すのも一苦労だからね。衝撃波を放って一気に殲滅するスキルとか欲しいところだ」


「そうだな。私も広範囲の弓術スキルは持ち合わせていない。精々炎の矢とか属性付与攻撃くらいだ」


 俺達の意見は満場一致。一先ず蟻型の群れモンスターは無視し、本元。つまり女王蟻を探すという事。

 蟻は組織を成す種族。それなら全ての王である女王蟻を消されたら自然消滅する事だろう。

 組織一つ。群れを一つ消し去る。蟻達からしたらいい迷惑だろうな。


「モンスターだし、女王蟻は快適な部屋に居るんだろうな。どの辺りか……そもそも土の中なのか蟻塚なのか葉っぱなのか、どういった種類の蟻なんだコイツらは?」


「しらみ潰しで探すのも非効率ですよね。建築物からして、構造で言えば蟻塚に近いかもしれません」


「もしくは土と蟻塚。その両方かな? この世界の生き物は同種の良いとこ取りをしている感じだもんねぇ」


「この建築物が蟻達の仕業である以上、この中のどれかに居るかもしれないね」


「うむ、どちらにせよ長い捜索になりそうだな」


 蟻の巣は、一言で言えば迷宮である。

 当然蟻達にとっては迷わないような構造なのだが、俺達人間に特有の匂いを嗅ぐ嗅覚や仲間の位置を知る触角などはない。

 なので探し出す為には闇雲に探すしか無いという事。虫とかの専門家なら構造とかを知り尽くしているのかもな。一般人の俺達がやれる事はこの蟻の群れの中に飛び込んで進むくらいだ。


「改めて見ると……気が滅入るな……数の多さが素直に気持ち悪い。なんかゾワゾワするぞ……」


「元々数は多い生き物ですけど、それが巨大化して群れを成すとこうも鳥肌が立つ程に……いえ、本来のサイズでも気持ち悪いですけど……」


「うへぇ……何かやる気が削がれる……」

「集合体恐怖症の人が見たら即座に失神しそうな光景だね……」

「気持ち悪いな……本当に……」


 ふと下を見る。そこに居たのは建築物一つを挟んでの蟻の群れ。黒い塊がうろちょろしており、モンスターの死骸なども運んでいた。

 と言うか、死んでも光の粒子になって消え去らないモンスターも居るのか。何気に新たな発見だ。


『『『…………』』』

「……。解体しているな……」

「捕まったら私達もああなってしまうんですね……」


 運ばれたモンスターの死骸は蟻型モンスターが顎をもちいて切り分け、四肢や頭。上半身や下半身と切り分けて運びやすい大きさにしていた。

 本当に血や臓物が出ないゲームで良かった。断面は謎の光に覆われている。あれの規制解除はしないで欲しいな、うん。


「……。行くか……結構慎重に……」

「はい……」

「オーケー……」

「ああ……」

「うむ……」


 無数の斑点に見える蟻の群れにモンスターの解体ショー。蟻の閲覧ツアーは出だしから腹一杯。むしろ胸焼けを起こしたり吐き気がする光景が流れ、俺達の戦意も喪失していた。今度から食事したり何かする度にフラッシュバックしそうな光景だな。

 何はともあれ、俺、ユメ、ソラヒメ、セイヤにソフィアの五人パーティは、魔王軍かもしれないボスモンスターを探す為に無数の蟻が群れ成す建築物の巣を進むのだった。

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