ステージ7-6 ソロプレイヤー
「それにしても、人型のモンスターが居るなんてな。俺達の居た日本には動物型や虫型。幽霊型のモンスターは居たけど人型モンスターだけは居なかった」
「そうなのか? 日本ならSAMURAIやNINJAのモンスターが居てもおかしくなさそうだがな」
「ハハ……職業としての侍や忍者は確かに居るけど、モンスターでは居なかったな」
「む、そうか。残念だな」
何故かガッカリするソフィア。侍と忍者にどんな幻想を抱いているのか気になるが、ここは深く言及せずに置こう。
厳密に言えば、“人型”。ではなく、“人”のモンスターと化した姿とは戦った。しかしそれを言う必要も無いだろう。
そして侍と忍者はかなり幅広く伝わっているみたいだな。……けど、侍や忍者のモンスターか。確かにそれは盲点だったな。
概念レベルで浸透している存在。職業にあっても、モンスターとしての侍や忍者は見ていない。存在を考えれば別に居てもおかしくないものだ。
「取り敢えず、日本のギルドからわざわざ赴いてくれるとはな。世界の状況についても知りたいところだ。ロシアの状況は教える。だから教えてくれ。今現在、日本でのプレイヤー。ボスモンスターなどはどうなっている?」
「プレイヤーについてはよく分からないな。多分各々で行動しているだろうさ。ボスモンスターは、魔王軍の幹部を始めとして、俺達は九体確認している。うち七体は俺達だったりギルドメンバーが協力して倒した。うち二体は俺達は関わっていないが、他の日本ギルドメンバーが倒した」
「ふむ……お前達も既にボスモンスターとは相対していたか。……それにしても九体……そのうちの七体にはお前達も関わっているとなると、かなり多いボスモンスターを相手にしているんだな。私ですら精々四、五体だ。先程助ける必要なんか無かったんじゃないか?」
「五体? そちらも凄いじゃないか。それに、さっきはあれだ。少し調子が悪くてモンスターを相手にしにくかったんだ」
「そうなのか? それに、五体で称賛されてもな。お前達の倒した数には劣るさ」
現地人と会ったのなら情報交換は大事。
互いに倒したボスモンスターの数はそれなり。だけどまあ、流石に広い土地というだけあってボスモンスターの数も多いみたいだな。
日本一広い都道府県の北海道ですら二体しか観測されていない。北海道の倍以上の数か。
それにしても、五体ものボスモンスターを倒しているならソフィアのレベルも三桁はいっているだろうな。
「そう言えば、ソフィアはパーティとかを組んでいないのか? 見たところ仲間が居るようにも見えないし、この広い雪原に気配も無い」
「……! あ、ああ! そうだ! 私は生粋のソロプレイヤーだからな! ……別に仲間なんか要らないし、欲しいとも思わないし、必要とも思わないし、お前達を助けたのも、少しの間だけでも一緒に行動しようとか考えた訳でもなく、ただ本当に困っていたように見えたからであって、決して裏もなく表もなく表裏一体……いや違う。取り敢えず好き好んでソロプレイしているだけでだな……」
「いや、ああ。わ、分かったよ。俺も“AOSO”……あー、ロシアじゃどう省略されてんだろうな……“アナザーワン・スペース・オンライン”内じゃソロプレイだったからソロプレイの効率の良さも分かるよ」
「そ、そうか。それは良かった。誤解が晴れたみたいで」
「いや、別に誤解はしていないけど……取り敢えずソフィアの気持ちも分かるよ。うん」
「すまない……少々気持ちが昂ってしまった……」
何気無く訊ねた事だったが、大きな地雷を踏んでしまった事が分かった。
しかしこんな美人な人がソロプレイか。親しい仲間を失ったという訳でもなく、口振りからするに最初からソロプレイだったみたいだ。
ひとりぼっちの美人は、フィクションの世界には沢山居ても現実じゃほぼ都市伝説。見た目が良ければ動物が求愛するように異性に求愛されやすい。人間も動物だしな。人にとっての美人の定義は様々だが、かなり珍しい存在を見る事が出来たな。
「アハハ……それなら、ソフィアさん。かなり頼もしいですし、私達と一緒に行動しますか? 私達にはロシアの地の利も無いので、もし一緒に行動してくれるなら心強いです」
「あ、それ良いね! 仲間が増えるのは嬉しいし、一緒に行こうよ!」
「僕も賛成かな。同じ弓使いとして、扱い方の参考になりそうだ」
「え? ふ、ふふふ、そうか。それなら仲間になってやらない事もない。そこまでして頼まれたら断れないからな。よし、このロシア、いや、何ならずっと一緒に行動してやらない事もないぞ!」
照れ隠しか何なのか、大きな態度の割に滅茶苦茶乗り気な様子のソフィア。しかも最後まで付いて行く気満々だ。
孤独の弊害というべきか否か、ひとりぼっちの者は自然と他人に尽くすタイプになってしまうのだろうか。
例えば彼氏が出来たとして、素行が悪く暴力を振るって来る存在だとしても安物のプレゼントを受け取って彼は優しいからと言ったり、素行の悪さも母性本能を擽られる。私が居なくちゃ彼はダメ……と、そう思ってしまうタイプかもしれない。母性本能は男の俺には分からない感覚だけどな。あれか、天然やドジっ子を守ってやりたいと思うような感じか?
ともかく、野放しにするのはソフィアが危ない。完全に自己犠牲の精神を有する存在だ。考えてみれば、人通りが少ない海岸沿いに来た理由も孤独を誤魔化す為かもしれないからな。
「ふふ、それは嬉しいですけど、流石にずっと一緒はソフィアさんにとっても迷惑になりませんか? ソフィアさんの事情もあるでしょうし、ロシア探索の間は一緒って感じですね!」
「……うっ、いや……私は別にずっと一緒でも……私から名乗り出たし……どうせ世界を回るなら……あ、ほら……攻略する必要もあるし……」
そして、その天然タイプのユメが悪意無く、純粋な善意でソフィアの心を抉り取る。
先程までそれなりの声量だったソフィアの声が小さくなり、屈託の無い笑顔が更に追い討ちを掛けていた。
「ま、まあ取り敢えず、晴れて仲間だ。その後の事はソフィアが決めてくれれば良いさ。無理強いはしないよ」
「そ、そうだな。私が後で決めて良いのか。それもかなり難しいが……取り敢えず、今は仲間だ!」
同行するかどうかを自分で決めるのは難しい、か。あれだな。自分が仲間に入って迷惑していないか。裏では悪く言われてないかと深く考えてしまうタイプ。
この短時間で勇ましかったソフィアの姿は遥か彼方に消え去り、色んなタイプが追加された。ゲームのモンスターでもこんな短時間のアップデートで沢山の属性を追加されないぞ。本当に稀少な人物だな。
基本的に謙虚と言われている日本人ですらこの様なタイプは滅多にいない。孤独は人を狂わせるって本当だったんだな。……いや、独り善がりだった俺も似たような感じか。
「それでだけど、俺達は今魔王軍と首謀者について調べているんだ。まあ、それは他のプレイヤーも調べている事だけど、滅多に姿を現さない首謀者はともかく、魔王軍について何か知らないか?」
「魔王軍か。そう言えば、最近中国方面でモンスターが大量に出現しているとの噂を聞いたな。だから私は個人的に色々調べたのだが、詳しい情報を話している者達は居なかった」
「中国方面に大量のモンスターか……」
話している者達は居なかった……か。つまり聞き込みをした訳じゃなく、聞き耳を立てて噂を調べていたという事。何と言うか、うん。何も言わない。思わないのが礼儀だ。
とにかく、それっぽい情報ではあるな。ロシアは世界一の国土を誇る国。そして中国は世界一の人口を誇る国。魔王軍が拠点を造っていても不思議じゃない。
「それなら、ロシアに来たばかりだけど早速確認してみるか? ロシアの案内を頼もうと思った矢先に失礼かもしれないけどな」
「いや、私は構わないぞ。共に他国へ行く口実があれば今後も一緒に行きやすく……ではなくて、だ。その……な、仲間だからな! 何処までも付いて行こう!」
「ハハハ……まあ、よろしく」
何か聞こえたが、気にしない。何はともあれ、俺達はロシアに来たばかりだが、魔王軍に何かしらの関係があるかもしれない中国大陸へと向かうのだった。
*****
「そう言えば、ソフィアは何レベルくらいだ? 俺はLv134だけど」
時速700㎞以上の速度で中国に向かう途中、俺はソフィアへ気になっていた事を訊ねた。
レベルはこの世界に置いて重要な要素。それを対し、何故かソフィアは嬉しそうに言葉を返す。
「お、私もLv134だ! ふふふ……い、一緒だな! やっぱり仲間として気が合うのかもしれない……!」
「ハハハ……まあ、そうだな」
レベルが同じで気が合うのかもしれないというのはよく分からない理屈だが、思った通りかなりレベルが高いようだ。
ボスモンスターの討伐数こそ俺達よりも少ないが、ギルドメンバーではないソフィアは全てを一人で塾し、拠点などにも“転移”などを使わずに自分の足で探していた筈。そして広いロシアには様々なモンスターも居ると仮定すれば、自然とレベルが上がったという事が分かる。
因みにだが、先程の道中。海を渡っている時に俺とソラヒメも前の時より1レベル上昇し、ユメとセイヤは2レベル上昇している。
そして、実はその前の時点で俺とソラヒメのレベルはユメとセイヤよりも先に上がっていた。大体北海道を横断している時だ。積極的に戦っていたからな。
結果として俺達のパーティは前より全員が2レベル上昇している事になる。
それによって、
俺が【Lv132→Lv134】。
ユメが【Lv130→Lv132 】。
ソラヒメが【Lv131→Lv133】。
そしてセイヤが【Lv130→Lv132】。
と、全員が均等に順調な成長を遂げていた。
「そう言や、ここから中国までは何キロくらいだ? 大陸に上がった瞬間の移動だから北海道との距離は思ったよりも短かったけど、ここから中国までは長そうだな」
「そうだな。大体2000㎞弱。この世界の広さで考えると、その倍にはなっているかもしれないな」
「成る程。ソフィアもこの世界の大きさが倍になっているかもしれないって気付いたんだな」
「ま、まあな。私は孤高故にそれを話す機会は訪れなかったが、こうして話せたのは嬉しいよ」
「ハハ……」
笑って誤魔化すしかない。しかもそれは苦笑いだ。
ともかく、北海道からロシアまでの距離。想定では3000㎞の倍。即ち6000㎞以上と考えていたが、思わぬ場所で情報を掴めたので結果としてその半分以下の距離しか進んでいなかった。ロシアの大陸に降り立つだけなら結構短いからな。
しかし、ここから中国までは2000㎞の倍。4000㎞以上くらい進まなければならないらしい。結局、目的地が変わっただけで想定していた距離を進む事になりそうだな。
『『『ゲギャア!』』』
「ま、やっぱりモンスターは現れるか。街以外には必ず居るからな」
「そうですね。早いところ片付けちゃいましょう」
「そうだねぇ。この辺りのモンスターのレベルも、大きく変わったって感じじゃないみたいだし!」
「私……仲間として仲間と共闘している……!」
「……。何か感動しちゃっているようだね……」
その道中にもモンスターは現れるが、先程の人型モンスターと同じようにレベルは90前後。海の方が全体的なレベルが高いのかもしれないな。
感極まっているソフィアも加わり、俺達は一瞬にしてそのモンスター達を片付けた。
「ここまま中国まで突っ走るか!」
「はい!」
「オーケー!」
「ああ」
「うむ(……やった……返事出来た……」
モンスターを軽く片付け、加速して直進。ソフィアから心の声が漏れて聞こえたが、まあそれは置いておこう。
俺、ユメ、ソラヒメ、セイヤの四人パーティにヨーロッパ系ロシア人のソロプレイヤー、ソフィアが加わる。そして五人となり、世界攻略の為に中国へ向けて進むのだった。




