大和三山は結ぶ㉖
それから、香久は耳成のいる耳成山に向かいました。
「(こんな『宿命』受けちゃいけない! 人間様にはもっと別の方法で手助け出来るはず!)」
雨が降ってきました。香久は走りながら考えていました。
「(そうだ。あの時。仙人様の話を聞いた時、耳成は分かっていたんだ。耳成は私と争い続けるだけじゃなくて、負け続けるかも知れない宿命も背負うことを。そんなの私と全然違う! 全く逆じゃない! なんでその事に気がついてあげられなかったのかしら。私は耳成の背中を押してしまった。耳成を止めなきゃ! )」
耳成山に向かう香久に強い雨が襲い始めました。
突如、今は誰もいない香久山にとても大きな落雷が落ちました。
香久は雨の中、耳成山に着きました。山頂にいた耳成は香久に声を掛けます。
「あれ? 香久ちゃん? どうしたの? こんな雨の中。そうそう。今ね、丁度仙人様が帰った所なの。『しくめー』の最終確認だって」
香久は雨に濡れてずっと俯いていました。耳成は香久の様子がおかしいと思いました。
「香久ちゃん? どこか調子が悪いの?」
香久の目つきが今まで耳成の知るものとは違いました。まるで敵を見るような鋭い目つきに変わっていたのです。
「どうして私、ここにいるのだろう? こんな雨の中、一番いたくない場所に、一番嫌なヤツの前に。どうして? どうして私、ここにいるの!」
突然、香久は怒鳴りました。耳成は意味が分からず戸惑いました。
「え!? え!? どうしたの? 香久ちゃん。ここ耳成山だよ? 耳成だよ?」
耳成は心配して香久に近づこうとしました。香久は叫びました。
「来ないで!」
耳成が驚いて立ち止まると、耳成山にもとても大きな落雷が落ちました。ついさっき香久山に落ちた雷と同じ大きさのものでした。耳成と香久は落雷の衝撃でお互い反対方向に弾かれました。二人は起き上がります。今度は耳成の様子が変わり、腹立たし気に言いました。
「なんで? なんで香久ちゃんがここにいるの?」
「それは、こっちの台詞よ!」
「『こっちの台詞』って、それは、こっちが聞きたいもん! だって、ここ耳成山だもん! 耳成の山だもん! それより『こんな所』って言ったの、許さないもん!」
「勝手に怒っていなさいよ!」
「香久ちゃんのそういう所、すごく腹が立つもん!」
「あんたこそ、この道に落ちているドングリなんとかしないよ。どうせ暇なんでしょ? ポロポロ落として危ない! 人間様が転んだらどうするつもりなの!」
「そんなの余計なお世話だもん! ドングリは人間様がいっぱい遊んでくれるんだもん! 耳成山の魅力だもん!」
「ふん!」
香久は耳成山を後にしました。
一尾始終を心配そうに見ていた畝傍は思いました。
「(間に合わなかった・・・・・・ 間に合わなかったのですね…… 二人の宿命が始まってしまいました……)」
畝傍は落胆しながらも、思いました。
「(でも、思っていたより、思っていたよりは…… グダグダな争いです……」
畝傍はヤッカイとの戦いのような、『壮絶なバトル』をイメージしていたのでした。
宿命を受けた香久は香久山に向かいながら思いました。
「(分からない。どうして私、こんな所に来たの? どうしてあんなヤツの顔をわざわざ見に行ったの?)」
全身雨に濡れながら走る香久は、苛立たしいように袖で頬をなぞりました。
「(どうして私…… 泣いているの?)」




