大和三山は結ぶ㉗
それから。
「喧嘩ばっかりしないで!」
畝傍は泣きそうになりながら叫びました。耳成と香久がまた喧嘩していたのです。
「香久ちゃんが偉そうな事ばっかり言うからだよ!」
「耳成が頑固者だから!」
そこに女性の声が聞こえました。
「どうしたのですか?」
耳成達三人が振り返ると、高貴そうな姿の女性が、次女達を従えて近づいてきました。彼女の名は持統天皇といいました。香久は恥ずかしさから、畝傍の背中に隠れました。
「こんなところで喧嘩をしては勿体ないですよ。ここは特別な場所なのですから」
畝傍は後ろに隠れようする香久の背中を押しながら言いました。
「そうよ。思い出して。ここでみんな一緒に遊んだのよ。いつも仲良しだったのよ」
「行こ! 畝傍ちゃん」
耳成は畝傍の手を取りました。
「畝傍ちゃんは私と行くのよ!」
香久も畝傍のもう片方の手を引っ張ります。畝傍は二人に引っ張られながら叫びました。
「もう二人とも! いい加減にして!」
持統天皇は耳成と香久の繋いでいない方の手をそれぞれ握りました。香久は恥ずかしくて反射的に手をほどこうとしますが、ギュッと握りしめられました。そして持統天皇は二人の手を引き寄せて、お互いに握らせようとしますが、
「人間様! ごめんなさい! 耳成と手を繋ぐ事だけは出来ません!」
香久が言うと、耳成も言いました。
「耳成だって、絶対繋ぎたくないもん!」
持統天皇は軽くため息をつくといいました。
「では、このままで」
耳成達と持統天皇の四人は手を繋ぎ、小さな円となりました。持統天皇は言いました。
「ご覧なさい。ここは耳成山、香久山、畝傍山の三つの山に囲まれています。それぞれが小さな山でも、この三つの山が一つになれば、あらゆる困難からこの国を守ってくれるでしょう。この国の始まりを告げるのに、これほど相応しい場所が他にあるでしょうか?」
「この国の始まり?」
耳成が言うと、耳成達三人は周囲を見渡しました。持統天皇が言ったように、北には耳成山、東南には畝傍山、南西には畝傍山が、まるでこの場所を守るようにありました。耳成達三人は、この地上が空や宇宙と共鳴しているかのような、不思議な感覚がしました。
「では、わたくしはこれで」
持統天皇の声が聞こえたかと思うと、突然、強い風が吹いて耳成が腰に身につけている鐘が鳴りました。風が止んで耳成達が周囲を見渡すと、もう持統天皇達の姿はありませんでした。




