大和三山は結ぶ⑮
しかし、どういう訳か、耳成は無傷のまま。代わりに空から香久が落ちてきました。
「痛っ!」
全身で地面に抱き付いたような恰好で落ちてしまった香久は、せっかくの白い衣装がドロドロに汚れて台無しになってしまいました。
「香久ちゃん!?」
畝傍は驚き、耳成は不思議そうに香久を見ました。稲村は切ったのは上空の雲でした。雲の上から香久は耳成達の様子を伺っていたのです。
「お前も何を隠れていた?」
問いかける稲村に、香久は衣装に付いた土を払いながら、バツが悪そうに言いました。
「か、隠れてなんていません! ちょっと散歩していたら、たまたま畝傍ちゃんがいたものですから・・・・・・」
「外に出たがらないお前が、散歩?」
香久はグッと息が詰まりました。
「(どうして私の事を知っているの!?)」
本当は耳成を心配して見に来たのだと、畝傍もすぐに分かりました。今日もまた、耳成に対して素直ではない香久を見て、畝傍はクスッと笑いました。耳成はまだ不思議そうでした。しかし、稲村は耳成への態度は変わることはありません。
「色々邪魔が入ったが、今度こそ切る!」
本気の様子である稲村に、再び耳成は青ざめました。香久が深呼吸してから言いました。
「稲村様! このホントどうしようもない耳成の処分を私に任せては頂けないでしょうか?」
「どうするつもりだ?」
「そーですね、では、私の召使いにします」
一瞬言葉に詰まった稲村ですが、三度冷静に問いました。
「召使いにして、どうする?」
香久は誇らしげに言いました。
「耳成に、たくさん白い布を洗濯させて、香久山全体に干させます。すると香久山は聖なる山に相応しく、青空の下、純白の山となります。そうすればよりたくさんの人間様が見てくださいます」
香久は自分の台詞に頬を赤らめて、段々と夢見るように話を続けました。
「人間様に素晴らしい夏が訪れた事、そして今日は絶好の洗濯日和だと、知らせてあげられます。ちょっと恥ずかしがり屋で、お話出来ない私でも、こうすれば人間様と繋がりがもてます!」
春過ぎて~ 夏来にけらし~ 白妙の~ 衣ほすてふ~ 天の香久山ー♪
by とある人間様(持統天皇)
うっとりして歌うように語る香久の口元を、畝傍は慌てて塞いで言いました。
「ダメです! 香久ちゃん!」
「うぇ?(え?)ぬぁんで(何で)?わたひ(私)はただ歌を詠んだだけで…・・・」
「空気を読んでください!」
「あはははっ! 香久ちゃん、怒られてる~!」
手をパチパチと叩きながら呑気に喜ぶ耳成に、畝傍と香久は一瞬、獣のような鋭く光る目で耳成を睨みつけたので、耳成はギョッとして身がすくんでしまいました。




