大和三山は結ぶ⑭
耳成山の山頂で耳成は一人座ったままうつぶせになっていました。しばらくしても耳成に動きはありません。耳成を石か何かと思ったのか、警戒心を解いたネコが二、三匹耳成の周囲をうろついていました。このあたりはネコが度々姿を見せます。それから二時間ばかり経った頃、
「(結構…… 遠かった・・・・・・)」
鬱蒼とした耳成山の山頂。そこに突然現れた稲村の姿に、耳成は驚きました。
「人間様! その恰好は何ですか?」
鎧を着ている稲村の姿を、耳成は人間と勘違いしました。
「私は大峰山系の一つ、稲村山の守護山娘、稲村だ」
耳成はビックリして、一瞬息が詰まりながらも言いました。稲村クラスの守護山娘は耳成にとっては雲の上の存在なのです。
「い、稲!? 稲っ・・・・・・!?」
「稲村!」
「はい!」
「何が『はい』だ! 稲村は私だ!」
「わ、わかっています!」
驚き慌てている耳成と対照的に、冷静な稲村は速やかに問いました。
「人間様に暴言を吐いた報い、分かっているだろうな?」
突然の質問。耳成は頭と心の整理が出来ずに慌てました。
「報い? はい! え? 報い? 分かっています。分かっていますけど・・・・・・」
「『けど』ではない!」
稲村は一喝すると、耳成はその気迫に圧倒されて顔が強張りました。そして稲村が背中から見た事もない大剣を鞘ごと手にとったものですから、耳成の固い顔面が更に真っ青になりました。
「いっ! 稲村様!?」
稲村は恐ろしい目で言いました。
「人間様に暴言を吐くような守護山娘など、必要ない!」
稲村は大剣を鞘から抜こうとしたので、耳成はかすれた悲鳴を上げて、ひっくり返った昆虫のように手足をジタバタさせていました。
「待ってください!」
そこに天の助けの声が聞こえました。畝傍が駆けつけてくれたのです。
「待ってください! 稲村様! あの、私、畝傍を申します!」
「知っている。話を聞いていたのなら、 なぜもっと早くに出てこなかった?」
稲村は隠れていた畝傍にとっくに気が付いていたのです。畝傍は首を左右に振りながら慌てて言いました。
「いえ! そんな! 決して怖いとかではありません!」
「怖い?」
「違います! 稲村様が怖いだなんて、お、恐ろしくて言えません!」
稲村はため息をついていいました。
「・・・・・・まぁ、いい。邪魔はするな」
畝傍は怖がる気持ちを押さえて、手をぎゅっと握りしめ、勇気を出して言いました。
「待ってください! 確かに耳成ちゃんは失敗が多いです! 人間様にだって失礼な事をしてしまいます! 本当にもうどうしようもないな、って思う事もいっぱい! いえ、時々あります。 でも、良い所もいっぱいあります! 耳成ちゃん、耳成ちゃんは・・・・・・」
畝傍は慌てて耳成を庇おうと、必死で良い所を探そうとしましたが、とっさに思いつかず、『えっと、耳成ちゃんは・・・・・・』と小声で言ったきり、時間ばかりが経ってしまいました。耳成はうつぶせの状態のまま、空を見ながら悲しげに思いました。
「(畝傍ちゃん。それじゃ、ただの耳成の文句だよ・・・・・・)」
言葉の続きに困った畝傍は、勢いよく頭を下げました。
「耳成ちゃんを許してあげてください! お願いします!」
稲村は『ダメだ』と即答すると、あっさり大剣を(鞘が付いたまま)振り上げました。耳成と畝傍は思わず悲鳴を上げて目をつむりました。




