白きオオカミを追いかけて.17
「キョウスケ、置いてくぜ。早く来いよ」
キョウスケは、地に伏す白いオオカミの前に立っている。
「若き嵯桐。名を聞こう」
白きオオカミは、その威厳を示すように、精一杯に声を張った。
「狭霧キョウスケ。〝狭霧キョウカ”の息子」
「“キョウカ”の息子か。ならばキョウタロウという“兄”が居るであろう」
「どうして知っているの?」
「来たからよ。我の前で、彼の者も力を示していった。その方と同じようにな。もっともヤツは、ひとりで我の前に現れたが」
「ひとりで?」
「――“独り”よ。“己の力のみ”で試練を越えていった」
「……やっぱり、兄さんは凄いな。僕にはムリだ。皆が居たからこそ、僕はココに居る」
「そこに優劣はつかぬ。言いかえればヤツは、信頼に足る『友』を持てなかったのよ。“キョウカ”もそうだった」
「たぶん兄さんは違う。兄さんは、大切な誰かを巻き込みたくなかったんじゃないかな。とても優しい人だから。父さんは……うん、たぶんそうだと思う」
「だがキョウカの“弟”は、仲間に囲まれておった」
「“弟”……一度も聞いたことがない。父さんに“弟”が?」
「腹違いの、な」
キョウスケが尋ねても、白きオオカミは語ることはなかった。
「あなたはこれからどうなるの?」
「どうもならん。我は死なぬ。また嵯桐の末裔が、いつの日か訪れるのを待つのみ」
「もしかしたらあなたは、本気で僕たちを殺すつもりなんて、なかったのではありませんか?」
誰よりも誇り高い白きオオカミは、キョウスケの問いに沈黙を以って返事とした。
最後に彼は、こんな言葉をキョウスケに贈った。
「キョウスケ、覚えておくがいい。全ての道は〈天〉と〈地〉に通ずる――他人より辛い経験が多くとも、少なくとも、行き着く先は皆が同じだということだ。願わくば、“その道”がお前にとって、よりよきモノであるよう、我はココで祈っておる」




