表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
60/69

白きオオカミを追いかけて.12



 こちらは切羽詰まっている。


 もはや……一刻の猶予もないように見えた。


「で、本当に“行く”のか?」

「しつこい。押さないと始まらないでしょ。グズグズしていると、全部沈んじゃう」


 石の蓋を外した台座には、丸い像を映し出す水晶の周りに“四つのボタン”が存在した。



 東西南北、“四方”にだ。



 ちゃぷちゃぷと、台座は既に浸かり始めている。

「いーい? いち、にの、さんで押す。いち、にぃの――」

「ああッ待ったあ! やっぱり、待った待ったあ!!!!」

「なんなのよ、バカトラ!」


 ヤストラは、次々に展開される唐突な話の流れに、心底うんざりしているようだ。


「俺はこの遺跡のお陰で、すっかり“スイッチ恐怖症”になっちまった。なにが起こるか分かんねーからコエー! だって、巨大な鉄球が天井から落ちてきたらどうするッ!」

「私だって恐い、あんただけじゃないッ! 男なら覚悟を決めろッ!」

「……よし、じゃあ言うぞ。俺は、草守レイトが好きなんだって、最近は自分に言い聞かせてきたけど」

「なッ、ちょ、ちょっとッ! それってなんの話! こんな時にやめてよ、ヤストラ!」


「俺は本当は、ずっと昔からお前のことが……」


「バカッ!」

 ミーナは瞬時に真っ赤になって、自分の側にある台座のスイッチを力いっぱい押した。




 ……なにも起こらない。




「ど、どういうこと? じゃあ、こっちのボタンは?」

 今度は別のスイッチを押してみる。

「こっちもダメなの? もしかして壊れているんじゃ――」

「おい見ろ、ミーナ! あそこ、天井の水!」


 先ほどと違い、部屋へと流れ込む水量が明らかに減っている。




       「ミーナ、ヤストラ!」



 ここでキョウスケの声がようやく届いた。

「私、台座にあるボタンを押したの! そしたら止まったの! もう大丈夫、安全よ! 私たち、助かった!」

「よかったよお、ミーナちゃん、ヤストラくん。ふたりとも、怪我はなーい?」


 ミーナは、すっかり濡れている服を、恐る恐る嗅いでみる。


「ヤダ、すっごいクサイ! 信じられない! これって、なんの水なのよ、このオオカミッ! 恐い病気になったらどうしてくれるのッ!」





「……あのゴ様子でハ、オふたりとも大丈夫そうデスネ、キョウスケ様」


 主の元へと戻ったスクナは、キョウスケの表情を見て、はっとする。




 キョウスケは視線を壁の向こうへ移したまま、それから微動だにしない。




「キョウスケ様?」

「オイ、〈式神〉のネーチャン。マダ喜ぶのはハエー。“アレ”見てみロ」

 


 勢いは格段に弱まったものの、

   部屋へと流れ込む水は完全に止まっていないのだ――



「……正解じゃない? じゃあ、残りのボタンのどっち!?」

「待ってクダサイ。それは“四ツ”ありますカ?」

「あるあるッ! 四角の面に、ひとつずつ付いてるぜ!」

「デハ、もしかするとそれハ、それぞれの“壁面に描かれている月”と関係があるかもしれませヌ」

「分かった、早く来てスクナ。もう、台座が水の中に沈んじゃう」


 するとスクナはまたフヨフヨと、ミーナとヤストラの元へと向かう。

 ふたりの身体は、既に水の中にある。息をするのも苦しそうだ。


「さっき私が押したのは、このボタン」

「オふたりとも、これをゴ覧クダサイ」


 丸い像が映っていたはずの水晶の塊には、現在では半円が浮かんでいる。


「“半分”になってる……」

「そうか、“半月”だよ! あの流れ込む水は、“潮”だ。最初に映っていたのは“満月”だった。“満月”の日は、大潮(おおしお)だ!」

「じゃあ、“なくしちゃえば”いいんだ!」

「なんでだよッ! それでも網元の娘か? ――いいか、大潮ってのは、“満月”と“新月”の日だ。潮がイチバン引くのは、“半月”の日だ」


 太陽と月の位置が重なる時、潮位の変動が最も大きくなる。

 引力が強いからだ。


「……まあ、なんとなく分かったけど、つまり私が押したボタンは、“正解”だったワケよね? それなのに、どうして水が止まらないの?」

「止まらねーんだよ、太陽と月がなくならない限り。満潮と干潮の差があるだけで、“なくなる”ってことはねえ。だから、海の常識をそのままここに持ってきたとしたら、この水はずっと流れ続ける」

「ずっと……? じゃあ、いつかはこの部屋いっぱいに溜まるってこと?」




 導き出した解答は、彼らにとって絶望的なものだった。

「ここで……終わり?」



 チョロチョロと、天井から注ぎ込まれる水が“死へのカウントダウン”のように聞こえた……。





  「まだ諦めるのは早いよ。ヤストラ、満月のボタンを押してくれ」




「キョウスケ!」

「バ、バカなこと言うなよ! だって、そんなことしたら――」

「もしかして、どこかに出口を見つけたの、キョウスケくん?」


 キョウスケは前を見つめている。


「一度、“部屋を満水”にする。ずっと考えていたんだ。確実な方法じゃないけど、今はそれしかないと思う」

「だからよォ、キョウスケェェェェ! それからどうするんだよォ!」


「出口なら、“あそこ”にある」


 そう言って彼は、水が注ぎ込まれる天井の左隅を見上げた。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ