白きオオカミを追いかけて.13
「よくぞ辿り着いた」
服も髪も、びしょびしょに濡れている。
「あんなこと、もう二度とゴメンだ」
「でも、よかった。ちゃんと“次の場所”に通じていて」
「ああッ、マキ! ほら、私の手を引っ張りなさい! もう少しだからね」
その最後にマキが、ミーナにグイグイと引っ張り出され、狭い通路の中からニュルルゥ~と出て来る。
「やったあ出れたーッ! やっとだよお、ありがとミーナちゃん。床がヌルヌルして、ゼンゼン前に進まないんだもの。オオカミさん、水周りはちゃんと掃除した方がいいよお。ここから出るお水を飲んだら、きっとお腹壊しちゃう」
“迷宮”を抜け、あの“水難地獄”を突破し、すっかりくたびれたキョウスケたちを待っていたのは、あの“伝説の白いオオカミ”だった……。
「あんたがココに居るってことは、もしかして私たち――」
「その方らの“結束”、“知恵”、“勇気”、見事なり。これより先に“求めしモノ”がある」
「……マジか。じゃあ、本当に終わりなんだな? よっしゃああッ!」
彼らは遂に、遺跡の“最奥”へと辿り着いたのだ。
達成感とこれから膨らむ期待とで、ささやかな歓声が上がった。
「これでレイトも助けられる。よかったな、カブト――いや、“ノーク”。お前の力がなかったら俺もマキも、一番目の試練で終わっちまうところだった。ありがとな」
天敵から思ってもみない言葉を掛けられ、ノークは呆気にとられている。それからしばらく経ち、彼は照れたようにそっぽを向いた。
「別ニ感謝しなくてイイゼ。オレはトーゼンのことをしたまでダ」
「今のノークちゃん、とってもカッコいい!」
「トーゼンダ」
「そうね。とびきりの感謝は、草守レイトからもらいましょう。カタチあるモノでね」
「おい、そういうつもりで助けたワケじゃねーぞ。ねだるなよミーナ」
「そういうあんたは、下心まる出しなの。俺への感謝は熱い抱擁か、それとも“チュー”か、なんて思ってるんでしょう。お見通しよ、このスケベ」
「なッ、なんだとッ!」
重圧からの解放感は、彼らを酔わせていた。
それは勝利の余韻である。
「――この遺跡は、どうして造られたんですか?」
キョウスケだった。彼だけはいつも冷静だ。
白いオオカミが答える。
「この遺跡は“嵯桐の当主”を決める場所。誰が造ったのか、と問うておるなら、それは我には分からぬ。我は嵯桐キョウセンより呼び出された、ただの管理者であるからな。しかし、この場所がそれより古くから存在したことは間違いない。嵯桐は一時、それを“借りて”おるだけよ。その代りに嵯桐は、これより先にある〈神域〉にて、祭祀を執り行わねばならぬ」
「〈神域〉――そこに〈神器〉があるのですか?」
「やはり興味はそこか。そなたも“次期当主”の資格を得る身。嵯桐の義務となっている、祭祀の方を重視すべきだ」
“当主”の地位――
キョウスケは今まで考えたこともなかった。想像にすら上らなかった。
自分は皆と同じく高校へ進学し、やりたいことを見付け、自分の道へ邁進するものと思っていた。
家業は薬屋である。バア様が毎朝やっているように自分が薬を調合し、そして“父”がしているように、高価な薬草を仕入れに遠方へと赴く――
想像が湧かない。
「ようし、じゃあこれからその〈神域〉とやらに、レッツゴーだ!」
「誰も異議なーし!」
「待て」
白いオオカミは音もなく立ち上がると、その雄々しい姿を見せつけた。
――改めて、大きい。
少しの無駄もない圧倒的な肉体美は、見る者を悉く魅了した。
「“通す”とは言っておらぬぞ」
地を震わす獣の唸り声。
「し、試練ってヤツは、もう終わっただろ!」
「“最後”が残っておる」
「“最後”……?」
「嵯桐は〈退魔〉の血筋。取り憑いた〈魔〉を払う術を持たねば話にならぬ」
ヤストラの表情が固く強張っている。
それは後ろに居る彼女たちとて同じだ。
キョウスケは……やはり緊張している。
「キョウスケ様、この方、トッテモ“強い”デス。以前ニモこの感ジ、どこかでありまシタ……そうダ、キョウスケ様の“オ父上様のオ部屋”。そこに居タ、あの“大きなワンチャン”」
“大きなイヌ”――もちろん忘れはしない。
『式盤』を取りに向かった父の書斎。あの捻じれた異空間の中で、キョウスケたちに震え上がるほどの恐怖を与えた、
“狭霧家二代当主・嵯桐キョウセン”が放った〈魔〉の者――
「我は“サコン”。さあ、納得させるだけの業を見せるがいい。未だ若き嵯桐の末裔よ、“我”の前で存分に足搔いてみせよ。半端な業では喰い殺すぞッ!」




