白きオオカミを追いかけて.6
「あっちも、なんかあったわね」
大量の土煙がまだ上がっている。
「ケホッ、ケホ。――ああもう、ホント信じられない。これって、どこの遊園地のアトラクション? リアリティがあり過ぎ」
「うん。実際に死んじゃうところだったし」
その彼らが実際に眼にしたものとは――まるで誰かが操作したかのように、天井を埋め尽くす大量の土砂が、なんとキョウスケたち目掛け、一気になだれ込んできたのだった。
「……こっちの道は、行けそうにないな」
「そういう問題じゃなあいッ! あんたもマキと同じで、どこまでのんびりしてるのッ! ――ああッ、なんて恐ろしい。これを作ったあんたの先祖は、頭がどうかしてるわ」
「あれ、スクナ、なにかあった?」
するとスクナはキョトンとした顔を見せて、それから慌てて否定する。
先ほどから彼女は、ずっと落ち着きなく、視線をキョロキョロと動かしていた。
「それよりキョウスケ、その『式盤』はどうなってるの?」
持ち出し禁止の秘宝を簡単にクルクルと丸め、ズボンの後ろポケットに差し込んでおいた『式盤』を、キョウスケはぞんざいに広げてみた。
「……ダメだ。『式盤』は、なにも示してない」
キョウスケの手によって広げられた、未来を提示する『式盤』は、まるで力が失われたように沈黙を保っている。
「壊れてる、ワケじゃないよね?」
「さっきの衝撃とは関係ないと思う。ずっと前から反応しなかったし」
「ホント意地悪ね。“これ”があれば、こんな迷路なんてパッと分かりそうなのに。あのオオカミ、よく見てるじゃない」
と、やはりスクナは、キョロキョロしている。
完全に上の空である。
(アアッ、一体どうしたのデスカ兄上様! キョウスケ様にはアア言ったケレド、“自分はこっそり後を付いて行ク”――このスクナに約束したではありませヌカ! ――オオ。スクナは不安でイッパイデス。どうか兄上様、チラリとでも姿をオ見せしテ、このスクナを安心させてくださいマセ……)
そういうことらしい。
「ま。とにかく、ここで不満をぶつけても仕方ないわ。さあ歩くわよ、キョウスケ。こんなところで野垂れ死になんて絶対イヤよ」
悲鳴。
絶叫。
絶叫に次ぐ、絶叫。
そして、少しのロマンスあり……。
“狭霧家”が管理する古代の遺跡は、退屈というものを少しも感じさせてはくれなかった。
一言で表すなら、それはミーナが言ったように『過激な遊園地』という表現がもっとも的確だったろう。
魂が震えるほどの、きっと極端なスリルが味わえるはずだ。
「スクナ、押し流して!」
スクナは不思議な言語で唱和する。
「――スクナ、ガーンとヤっちゃってッ!!!!」
「ハイッ!」
スクナは不思議な言語で唱和する。
「スクナ」
「ワ、ワカリマシタ」
スクナは不思議な言語で唱和する。
「――ほらスクナッ、また来たわ!」
「リョ、リョーカイデス」
スクナは……どうやら疲れているようだ。
色艶のよかった彼女の流れるような水色の髪が、現在では、まるでパーマを当てたようにチリチリになっていた。
疲労の度合いは人間も〈式神〉も、髪の毛に現れるらしい。
「スクナ、少し休もうか。いっぱい力を使ったでしょ?」
「マ、マダマダァ……スクナは元気イッパイデス……キョウスケ様はゴ心配なさらズ……ゴホゴホ。スクナにオ命じクダサイ」
そう言って、キョウスケの肩にもたれ掛かる彼女が、とても痛々しい。
「ごめんねスクナ。あんたも私たちと同じように、生きてるんだもの。探索は任せて、そこで休んでいて」
「オオ……なんとオ優しいオ言葉、スクナはとっても幸せモノデス。では少しだケ――」
「ああッ、またさっきのミイラ軍団!! なんてしつこい! ほらスクナ、出番よ」
「エエエーッ!」
黄ばんだ包帯で全身をグルグル巻きにされた不気味な集団が、ずっとキョウスケたちの姿を追っていた。
スクナの水で何度押し流されても、水の弾丸で全身を幾度も撃ち抜かれようとも、この不死の集団は少しも堪えた様子がない。おそらく、この迷路内に設置されたワナの中でも、特に悪質な部類に入ることだろう。
「……ウウ。アナタたちイイカゲンにして欲しいデス!! スクナは今、とっても疲れているのデスッ!」
スクナは不思議な言語で――
いや、その後ろから怒涛の勢いで、あの不死の集団が次々に宙へ跳ね飛ばされていく!
「な、なんなの一体、スクナがやってるの?」
「スクナはヤッテナイデス! ア……もしかシテ、それは“兄上様”デハ……」
「もっと恐いのが来たのかもしれない」
「ちょっと冷静になってる場合? 早く逃げないと!」
「キョウスケ様、ここはスクナにオ任せオ。――ササ、皆様はどこか、“兄上様”から見えない遠いトコロヘ――」
「ダメよ、あんた疲れてるじゃない。逃げるのよキョウスケ!」
「もう間に合わない」




