白きオオカミを追いかけて.5
「そんなワナだなんて……ミーナちゃん!」
居ても立ってもいられず、ヤストラはそこから声を張り上げた!
「キョウスケェェェーッ!」
しん、としている。
天を突くような分厚い石壁に阻まれて、モクモクと立ち昇る土煙も、ここからでは確認することが出来ない。
「だから“ムリ”ダ。決して後ろを振リ返ラズ、前向きニ生きようゼ、アミーゴ」
「……静かに! なんか……聞こえない? ほらァ!」
微かにだが、少女の声がする。
「ほら、ほらほらッ、ヤストラくん! きっとミーナちゃんの声だよう」
「まあ聞いてクレ、のんびりネーチャン。オレっちが昔、戦った相手にダナ、モノマネ上手なクソヤローが居てナ――」
「キョウスケェェェーッ!」
少女と、少年の声がする!
少女の勝ち気そうな声は特に、石の壁に反響してよく聞こえてくる!
「おい……生きてるぜ……やっぱり生きてるって、キョウスケもミーナもッ! うっしゃあああッ! どうだカブトムシッ、あいつが死ぬはずねーんだ。それが分かったら黙ってろッ!!」
よし、よし、と、ヤストラは何度でも呟いた。
その嬉しい気持ちはマキも同じである。
するとマキはヘナヘナと、その場に力なく座り込んでしまった。
「はわわ。なんだか安心したら、一気に疲れちゃった。ねえ少しだけ休もう、ヤストラくん?」
「そうだなあ、俺もどっと疲れた。いやあ、改めて酷いところだなあ。あれがワナとか、マジであり得ねえ」
彼女はひとりでゴソゴソと、ジーンズのポケットを探っている。
「エヘヘ。実はチョコレート、持ってるんだ。一緒に食べよ。“カブトちゃん”も」
そう言ってマキは、取り出したチョコレートの銀紙を剥いで、その半分をヤストラに――そして、もう半分をノークと自分とで分けた。
彼女のお尻のポケットにしまわれたチョコレートは、手がベトベトになってしまうほどに溶けていた。
「あれ? 食べないの、カブトちゃん? 疲れた時は甘いモノだよォ」
ノークは、自分の身体と同じ大きさに切り分けられた、フニャフニャのチョコレートを、じっと見つめている。
「なんだよ、別に珍しくもねーぜ。――ああそうか。それともよお、そっちはチョコレートじゃなくて、“誰か”の〈魂〉の方が好みか?」
「コラア! あのクソヤローと一緒にスルナッ」
「な……まさかお前……感激して泣いてんじゃねーのか!」
「ナッ! ナイテネーヨ、絶対にナイテネー!! ――ッテ、〈式神〉が喰うかこんなモン! ほらヨ、のんびりネーチャン……オレハ……いいからヨ、ネーチャンが喰エ」
すると照れくさそうに、フニャフニャのチョコレートを、そっとノークは差し出すのだった。
少女の手と、小人の小さな手が触れあう。
そこには不思議な暖かさがある。
「あらま。急に大人しくなりやがった。つくづく変なヤツ。あーあ、座ったら途端に眠くなっちまった。ここはちょいと失礼して、キョウスケには悪いが少しだけ横に」
そう言ってヤストラが、ゴロリと床に横になった瞬間――“カチッ”と不吉な音がした。
マキとノークがヤストラを見る。
「……な、なんだよ。少し寝ようとしただけだ」
「う……うん、それは分かってるけど」
「ナンカ、“スゲーイヤな予感”。お前ッ、さっきそこで変な音シタロ!」
身に覚えがあり、ヤストラが、そーっと横たえた身体を起こそうとする。
「ワーッ、待テ待テッ!! 勝手に動くんジャネーッ!」
絹を裂くような少女の悲鳴が迷宮内に轟いた。




