白きオオカミを追いかけて.7
「もう間に合わない」
キョウスケが落ち着き払って、取り乱すミーナの前に進み出る。それは“大切な彼女”を守護するように。
彼の背中の大きさを、ミーナは改めて感じていた。
「来マスッ!」
空中に跳ね飛ばされる不死の集団が、いよいよ残り少なくなってきた。
その何者かが、そして遂にキョウスケの鼻先に現れる――
「……なんで、どうして“あんた”が……」
しかし、それはキョウスケとミーナが、思ってもみない人物だった。
「あッ、やっぱりミーナちゃんだ」
最後のひとりを蹴散らし終わり、不死の集団は壊滅した。
「“マキッ”!」
なんと“麻河マキ”だ!
地に伏すミイラ男たちの骸の上で、彼女は超然と立っている……。
なんとその凛々しい姿か。彼女はまだ物足りなそうに、見えない怪物を相手にシャドーボクシングを始めていた。
通路の向こうから情けない声が聞こえてくる。
「おーい、マキィ……どこ行ったあ……ほあ、ダメだ! もう、付き合いきれない……元気いっぱいのお前と違って、俺はもうダメだァ!」
そう言って汗だくの彼は、通路の真ん中で倒れ込む。
「あれってもしかして、ヤストラ!?」
「え……その聞くと耳が痛くなるような高音の持ち主は……」
石畳に倒れ込んだ彼は首だけを持ち上がると、通路の向こう側で歓声を上げる。
「あはは。ムリだとは思っていたけど、まさか本当に“合流”しちゃうなんてね。なんて運がいいんだろ」
(ウンじゃないゼ、実力ダゼ)
どこからか、“謎の声”が聞こえてくる。
(ヨー、イケてるネーチャン……と、その他のガキンチョ。のんびりネーチャンの中からコンニチワ。ドーモ、ノークだヨ)
「ノークって、あのうるさいカブトムシ?」
(ウルサイもカブトムシもヨケーだゼ、イケてるネーチャン。オレサマはノークだ、オジョーの〈式神〉のノークだヨ、改めてヨロシクゥ)
彼はどこまでも調子がいい。
どうやら“ふたり”の相性はいいようだ。
「ちょっとマキ。あんた、一体どうしちゃったの! さっきのホント凄かったじゃない。あの運動オンチがウソみたい!」
マキは、ずっとシャドーボクシングを続けている。
「――シュッシュッ! シュッシュッ! 今はとっても調子がいいの。どっからでもカカッテコーイ、って感じかな。シュッシュ! なにしてるのミーナちゃん、早く先に行こうよ。レイトちゃんが待ってるよ」
なんだか、いつもの彼女じゃない。
「おおい、“スーパー少女”ォ。俺もそっちに連れて行ってくれえ」
すると“スーパー少女”はクルリと振り返って、キョウスケから足早に離れていく。そしてなにをするかと思えば、だらしなく向こう側で寝そべるヤストラを軽々と背負い、またこちらへと近付いてくる。
果たしてマキは、本当にどうなってしまったのだろうか……。
「よお、キョウスケ。久しぶりだなあ」
「ヤストラ、会えて嬉しいよ」
「そうじゃなくッて! なんなの、あんたのその情けない格好は! あんたも半人前だけど、一応は霧ヶ島の海の男でしょ? 女に背負われて悲しくないの?」
霧ヶ島の網元の娘は納得できないようだ。
一方のヤストラは、面目ないと言った風に、乾いた笑みを浮かべている。
「出口は近いよ、キョウスケくん」
マキは、これまでに見せたことのない、自信のある表情をしていた。
(オレがこのネーチャンに“憑依”してるんダ。しかしこのネーチャン、オジョーと違って燃費の効率がワル過ぎるゼ。オレがエンジン全開なのに、途中で止められるこのもどかしサ。クウ、フツーのニンゲンにトリ憑くのハ、オレっちとしてもラクジャネー。ちなみニ、お前らの気配を見付けたのモ、オレサマのお陰ダ。このネーチャンは関係ネー)
「ミーナちゃん。今は私が守ってあげる」
“スーパー少女”――“麻河マキ”は、全身にみなぎる金色のオーラを纏いながら、キョウスケとミーナを先導する。
まるでマンガの主人公のようだ。キョウスケよりもそれらしい。
やがて迷宮の出口が見えた。彼らも少しだけ、大人になったようだ。




