デイブ・レポート ~ 第二回 ~
『霧ヶ島を訪ねて』
~ デイブ・レポート 第二回 ~
「いいところ? なんにもない」
本土を繋ぐ連絡船の船上で偶然出会った若い男は、自分の“故郷”をそう表現した。
私は耳を疑った。
それが果たして事実なのか、それとも謙遜なのか……判断に迷った。
そこで私は軽いジョークを言うように
「あるものはなんですか」と男に問いかけた。
すると男は「あるものはない」と皮肉で私に返した。
まるで禅問答だ。
私の明らかに不満気な表情を読み取ったらしい彼は、少しだけ困った後で、こう言って、特徴のある素敵な笑顔を私に見せてくれた。
「きっと、なにかはあるんだろう。ここに暮らす人たちは、ほんの少しの、なにかを得て、それを幸せに感じている。そして自分もまた、ほんの少しのそれを感じたくて、ここに来ているんだよ」
島を長らく離れていた彼は、遠い異国の地で成功を収めたらしい。
帰郷の日に偶然乗り合わせた私は、彼が言った『なにか』を既に得ているのかもしれない。
島にようやくのこと到着した私は、親切な船頭の案内で、今宵の宿へ向かった。
――しかし、そこは島の集会所。
狭い座敷の上に、大きな長テーブルがぽつんと置いてあるだけだ。
船頭の話によると、本土から来た客人は、すべてココに泊まってもらうらしい。
島には宿泊施設がない、というのが理由だそうだ。
急な不安に駆られた私は、それから船頭が来るまでの小一時間、じっとその空間に留まってなければならなかった。
ここでの私は、完全なる“異邦人”である。心細さはこの上なかった。
だが、そんな不安も、彼の顔を見た途端にすぐに吹き飛んだ。
船頭が両手いっぱいに抱えていたのは、なんと!獲れたばかりの巨大な、新鮮なシマダイの刺身。
この短時間で、自らの手で釣り上げ、驚くべきことに、彼がその場で捌いたらしい。
そしてその後ろに続いたのは、船に偶然乗り合わせた、“あの若い男”だ。彼は既に赤ら顔で、中身の乏しくなった一升瓶を大事そうに抱えていた。
それから始まったのは、とても賑やかな“大宴会”。
夫人の自慢の料理を片手に集まった島の人々が、入れ替わり立ち替わり、私の隣に代わる代わるやって来ては、独特の調子の付いた島歌を唄い、強烈な島の地酒をグラスいっぱいに注いでいった。
どうやら、外国人の私が珍しかったようである。
――ふと気が付けば、私は見知らぬ誰かと隣り合って眠っていた。
ここまで歓迎されたのは初めての経験だ。
すっかり私は、この島に暮らす人が好きになった。
島の夜が静かに更けていく。
高いびきは、座敷のそこかしこから聞こえてくる。
――続く
ハムシク・イーストトラベル東京支部 デイヴィット=ランス




