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秘境倶楽部、出動!!.1


 テーブルに四つ並んだラムネの瓶から、大粒の汗が滴っている。


 “日曜日”とは言え、年頃の男女が『山口商店』に入り浸ることなど、ここ数年なかったことだ。


 余談であるが、日曜は連絡船が出る日だ。

 島の大多数の若者は、海より山より、“本土の繁華街”へと消えていく。



「こんな“もん”がお宝ねえ……どれぐらいの価値があるんだろうな」



 十億か、二十億かと、ヤストラは『式盤(しきばん)』を指でつまみ、興味津々にキョウスケに尋ねる。



「あんたの発想は、ホント可哀想なくらいに貧相ね」

「なんだよ、簡単でいいじゃねえか。――分かるかいミーナちゃん? 金は物事を測る上で、最も分かりやすいものさしなのだよ、ものさし」

「それって、ヤストラくんのお母さんの口癖?」

「なんでだよッ!! 昔、なんかの本で読んだ。そう言えば、どうして覚えてたんだろうな。ワケ分かんねー」




 キョウスケ、ヤストラ、ミーナ、マキの四人は、狭霧家の秘宝――『式盤』を前にして、難しい顔を浮かべている。


 『秘境倶楽部(仮)』のメンバーは、お茶の代わりの“ラムネ”を片手に、只今作戦会議中だ。



 議題はもちろん、


  “ 草守レイトの奪還及び、安全な逃走経路の確保について ”


      ――である。




「誰か、呼ぶ?」


 マキが皆に意見を求める。


「誰かって、大人ってこと?」

「おいおい、“チューザイさん”【島に唯一存在する警察機構。人のよい老人で、パトロールを兼ねて、島の郵便事業を請け負ってくれている。もっぱら現在では警官と言うより、郵便配達員と化している…】にでも頼むかあ? ジョーダンジャネー。“俺たちの手”で、レイトを助け出すんだよ!!」


 ヤストラは、熱い。熱過ぎる!

 一体いつから彼は、これほどの熱血漢となってしまったのだろうか。



「キョウスケくんのお兄さんは?」

「おお! “キョウタロウさん”には来てもらおうぜ。他の大人たちと違って、ノリいいし。絶対助けてくれるって」


 一部のメンバーから期待のこもった眼差しを受け、弟のキョウスケは軽く咳ばらいをする。



「あ……うん――“ いいかキョウスケ、想像してみろ ”。敵の手に落ちて(はずかし)めを受ける彼女を、お前が“バッサバッサ”と登場して、囚われの彼女を颯爽と助け出す姿を。そんなところにノコノコと、兄貴が付いて行ったら格好がつかないぞ――“ なんだ兄貴を連れてるじゃん、キョウスケくんはお兄さんが居ないと、なにも出来ないのね ”」



 それからケロリと元の真面目な顔に戻って、「そう言ってました」とキョウスケは結んだ。

「“バッサバッサ”と登場はしないよね。よく考えれば」

「そこじゃねえよッ!!!! ……俺、キョウスケが突然おかしくなったと思った……」

「それよりあんた、さっきみたいなコト、ホントに考えているんじゃないでしょうね」


 さっきみたいなコト? 


 キョウスケとヤストラの頭の上に、『?』のマークが浮かんた。


「草守レイトをカッコよく、“あんたが助ける”ってトコよ」

「おいおい、なにを言うかと思えばミーナちゃん!! それを今、ここで話し合ってたところだろ? トボけてもらっちゃ困るぜ」

「私の“あんた”は“キョウスケ”!! お前じゃないバカトラッ!」


 あんたはキョウスケで、お前は俺――


 ヤストラは、頭がグチャグチャになっている。


「だから私が言いたいのは……ああッ、やっぱりなんでもない! ひとりで真剣になって、バカだわバカ!! 今の完全にナシ、さっきの発言をバッサリとカットッ! さあ皆、話し合いを続けましょう!!!!」

「なーに真っ赤にさせてんだ。顔、とっても赤いぜミーナちゃん。ははーん……それは性質(たち)の悪い風邪か、もしかして、それとも別の“誰か”を想っての……?」


 火照った両の頬に手を当て、少女はその熱っぽさに驚いた。


 ミーナの頬が、朱で染めたように真っ赤になっている。



「――はい、その話終わり。いいよねヤストラくん?」

 有無を言わせぬマキの迫力。

 唇を『へ』の字にさせ、なにか言いかけたヤストラは、黙って頷く。




「レイトちゃんを助けるために、私たちが出来ることをやろうよォ。誰かの応援は? 必要じゃない? どうかなキョウスケくん。私たちだけで、レイトちゃんを本当に助けられると思う?」


 マキの一言で、メンバーの表情が引き締まる。





       最悪の可能性がある。



 草守レイトは、無事に助け出さなければならないのだ――




「実を言うと、皆を呼んだのは、僕の意思じゃないんだ」

 キョウスケは告白した。



 そして、テーブルに広げられた“一枚布”に、彼は視線を移す。


 まるでプラスティックのようにツルツルした表面を、ラムネの瓶から滴った雫が大きく濡らしていた。



「僕は『式盤(しきばん)』に導かれるまま、ここに皆を集めた。『式盤』は、その人にとって最もよい選択をしてくれる“予言書”のようなモノだって聞いている。まだ、それがどういう意味を持つのかは分からないけど、ヤストラやマキや、ミーナがここに居るのは、決して偶然じゃない」



 未来を提示した『式盤』は、テーブルの上で柔らかな光を放っている。


「マキ。“誰かの力”は()らないよ。“皆の力”が必要なんだ」


 キョウスケは、ここに集った仲間たちの顔を順番に見渡した。


 ひとりじゃない。


 キョウスケには、ともに歩く仲間が居る。

 そして自分もまた、そう在りたいと願っている。




 草守レイトを助けるために。


「霧ヶ島中学・『秘境倶楽部』――出動だ!」






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