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探索開始……?.7

 キョウスケは、「開け」と命令した。





        ――大地が鳴動する!




「マジかよ。普通あるか、こんなこと。やっぱお前って、すげえ!」

「ノンキなコト言ってる場合? ヤバい感じ、出てるんだけどッ!」


 危うく転倒しそうになったマキを、キョウスケがすくい上げる。


「あ、ありがとキョウスケくん。ココ、凄い揺れ。恐いよお」

 キョウスケは黙って、震えるマキの身体を抱いた。



「……やっぱり、私の推測は正しかった。これは間違いなく、“狭霧家”が仕掛けた結界。キョウスケくんの身体を流れる“血”に反応したのね! そうなると、“狭霧キョウカ”はやっぱり知っていた。〈神器〉はきっと、ここにある!」




 と、その時、絹を裂くような女の悲鳴が聖域内にこだまする。



「なにッ! なんなの、この“ヘンな声”は!?」

「あーれぇー。なんて不幸なんだろう私……ううう、シクシク。遭難中に大地震なんて、これを、泣きっ面にシャチ【ちなみに、霧ヶ島近海にシャチは居ない】と言うんだわ」


 と、揺れが収まった。


 先ほどまで入口を塞いでいた“巨石”は、ほんの少しだけ横にずれている。

 

 小さな子供であれば、なんとか潜り込めそうだ。


 そこから覗く深い闇は、底知れない。


「な、なんでェ! どどど、どうして“あんた”がッ!」

「ッて“アサギ”じゃねえか!」

「えっ、“アサギ”ちゃん?」


 ずっと遠くで座り込んだ人影は、キョウスケたちの姿をそこに確認すると、いよいよ大声で泣き始めた。

「あーんあん、よかったよお! 本当に死ぬかと思ったー、エンエン!」



「……いや、まったく意味分かんねえ。なんでアイツが居るんだよ」


 それはヤストラだけでなく、ここに居る全員が同じ思いである。


 キョウスケたちの担任である、アサギ“先生”は、溢れる涙を周囲に飛ばしながら、急いで彼らの元へ走り寄った。


 彼女は手近なマキの手を取ると、途端に真面目な表情になる。

「遭難したの、“そうなん”です。夏のキノコ採りに山に入ったら、道が分かんなくなっちゃって、本当に怖かったのですッ」


 そう言ってアサギは、今度はガシッとミーナに抱きついた。


「は? キノコ採りって、あんたバッカじゃない!」

「“そうなん”です。そしたらさっきの地震でしょ? 泣きっ面にハチ【忠犬ではない】だわ。でもよかったあ、皆が居てくれて。とにかく、キョウスケくんが居れば安心だわ。キョウスケくん、森の入口まで案内してくれる?」


 あ……マキは、なにかに気が付いた。

 それはキョウスケの肩に留まる、“美しい妖精”の存在――

 今、彼女は眼の前に突然現れた、この“奇妙な人間”を、興味深そうに観察している。



「ホント、どうしようもないオトナね。大人だったら自分の面倒くらい、自分で見なさいよ」

「うう、グサリと刺さる足立さんの一言。返す言葉もないです」

「いや、マジうける。島で遭難とかありえねえし!」



(ちょっとちょっと! 一体どうしたのこの人たち……こんな“ヘンな出来事”、あからさまに不自然じゃない! ――ノック、どういうこと。まさか気付かなかった……なんて言うつもりじゃないでしょうねッ!!!!)

(……オジョー。このニンゲン、“突然現れた”ゼ)

(突然? なにそれ)


(そんなの知るカ。とにかく“突然”ダ。“まるで違う場所からジャンプ”してきたようニ、いきなり眼の前に現れたんだヨ)




 アサギは、ずっと年下のミーナにガミガミ叱られて、しゅんとしている。まるで逆の立場だ。彼女はいつもの無地のシャツと、あずき色のダサイジャージを脱ぎ捨て、細身のジーンズにキャミソール姿と、普段の彼女からは想像出来ない、スタイリッシュな格好をしている。


 忘れてはいけない。彼女はキョウスケたちの“担任”である。



(この女、なんか“ヘン”だゼ。得意のユサブリ、掛けろよオジョー)



 草守レイトは、ごく自然にアサギに声を掛けた。

「あら、草守さんも一緒なの? ……そっか、もうすっかりお友達だね。うんうん。先生はとっても嬉しいな」

「先生。もしかしてさっきまで、“誰か”と一緒でした?」

「え? ――そんなまさか。ずぅーーっと、ひとりで遭難中だったって、さっき言ったじゃない」

「そうですか。実は私、とっても鼻がいいんです。さっき先生の胸元から、“男の人の匂い”がしたから……」



 場が、銀の少女の一言で騒然となる。



「“男”ッ! このアサギに“男”が居たのかッ!」

「ウッソー! 島の人間だったりして! 誰? アサギ、白状しなさいよ」


 口をあんぐりとさせたアサギは、やがてビクビクと震え始め、草守レイトから距離を取る。


 すると彼女は、まるで自分が被害者であるかのようにオドオドすると、こう返した。

「……草守さん、それは問題よ。ええそれどころか、かーなりの問題発言ね。いや、さすが“シティ派”と言うべきか。そうね、都会の女の子になると、“そういうこと”は、もう誰でも経験済みなのね」


 今度は、草守レイトの口が開きっぱなしになった。


「その年で、“男の人の匂い”を知っているなんて、フケツッ! フジュンイセーコユーだわ! だってそんなことを言えるなんて、よほどの経験者でないと口に出来ないじゃない! そんな、とっても純情そうな顔して、実は草守さんの中はドス黒い欲望が蠢いていたなんて信じられない! “キツツキ”、いいえ“サギ”だわ!」

「わ、私、そんなこと一回も――」


「ダメよキョウスケくん、気をつけなさい。特にあなたのような、純朴を絵に描いたような少年が、コロリと魅力にハマってしまうの。それで中学三年生の、受験を控えた大切な今、もしもあなたの成績が落ちたりしたら……ああ私はッ!」


 雲行きが、次第に怪しくなってきた。草守レイトを見る皆の眼が、なんだかヘンな方向に行っている。



 これもすべて、この“ヘンな女”の所為だ。


「ああッ、女としては貴女に完敗だけどッ! 聖職者の立場としては、そんな私が誇らしいッ!」


 いいぞいいぞと、彼女に賛同する者が出始めた。

 草守レイトは悔しそうに、ぎゅっと唇を噛みしめる。


(上手くかわされた。どうしても尻尾を掴ませない。今回は引き下がるしかないわ)

(ケケケッ。あれだけヤられたオジョーも久しぶりダ。あの色ッポイ女、なかなかヤルゼ)



  でも今度こそ――


 遂に開かれた扉を前にして、思いもよらぬ妨害が銀の少女を苛立たせる。キョウスケたちは、微塵も“彼女”を疑っていない。“彼女”がそういう人物であることを、彼らは知っている。


 後ろ髪を強く引かれながら、キョウスケたちは聖域を後にした。










            ――その夜――


「キョウスケくんには悪いけれど、遺跡が眼覚めた今、もう彼らを待つ必要はない。当初の予定通り、私ひとりで〈神器〉の在り処を突き止める。……悪く思わないでキョウスケくん。これは、“遊び”じゃないの」


 聖域は依然として沈黙を守っている。


 島中を覆う深い霧も、この周辺には辿りつけないようだ。

 眩いばかりに輝いていた昼間とは一転して、人の手が及ばない原初の森は、得体の知れない不気味さを漂わせていた。




「これは国の存亡を懸けた、“戦争”なのよ」




 銀の少女は誰に告げるでもなく、虚空へ向かって呟いた。



 

 不思議な場所だ。


 半分の月が古代の森を照らしている。

 そんな白の世界に溶け込むように、銀の髪色をした少女が、そこに存在していた。



   美しい少女と朽ち果てた古代の遺跡――

  それは描かれた一枚の絵画のように、なんとも幻想的な光景だった。



「ノック、怪しい気配は?」

 キョウスケの呼びかけによって、遺跡の入口を塞いでいた大岩が、ほんの少しだけ横に移動している。草守レイトのほっそりとした身体ならば、なんとか通り抜けることが出来そうだ。



(今のトコロ、ナシ。いざトツニュー!)


 相棒の言葉に安堵し、それは少女がわずかな隙間に身を潜り込ませた瞬間だった!



(オジョーッ!)





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