夏至祭を楽しみに、兄も来たる!.9
「この……バッカもんがああああッ!」
ひいいいと、まるで強風に煽られたように、キョウタロウは後退する。
「この島の祭りと、ウチのジイ様の葬儀と、“どちらが重要”だとお前は考えておるのだッ!」
「んなもん、決まってらあ」
するとキョウタロウは自信満々に「祭りだ」と即答した。更なる憤怒の嵐が彼を襲ったのは、もはや言うまでもない。
「……丁度いい機会じゃ。お前に〈ライゴウ〉を憑けてやろうかと思うとる」
それを聞いたキョウタロウは、一気に酔いが冷めた――
「ジイ様が天に昇って、今は空いておるからのォ」
キョウタロウは、青褪めている。
「ば……ばばッ――バッバッ、バッカなこと言ってんじゃねえよバア様ぁ! やめろよ、あんな“おっかねえ”……この世界が亡びるまで、この家で黙って眠らせておけッ!」
「これは“キョウカ”にも相談済みじゃ」
「おいジョーダンじゃねえぞ! 人の居ないところで、勝手に話を進めるなッ」
〈ライゴウ〉――
それは先代の当主が降ろしていた〈式神〉の名だ。“狭霧家”が所有する〈式神〉の中でも、特に強い力を秘める。
雷の化身である。
「……振り回されるに決まってんじゃねえか。そんなのが俺に憑いちまったら、どうなるか見当もつかねえ。ムリだよバア様、やめてくれ」
キョウタロウのすっかり真剣な表情をそこに確認すると、ようやくバア様は「ウソじゃ」とネタばらしをした。
「ほっほ。するはずなかろうが、そんなコト。未熟なお前に〈ライゴウ〉を憑けたら、降ろしたワシが真っ先に殺されるわ。――かっか。お前の本気の顔、見たわい。久しぶりに楽しませてもろうた」
空いた口が塞がらないキョウタロウを横目に、「出てこいヒビキ」とバア様は言った。
(ハッ。ココに)
「おい、勝手に出てくんじゃねえよ。誰も呼んでねえ」
「ワシが呼んだ。ヒビキよ、“これ”の活躍のほどはどうじゃ?」
いきなり現れた“小人”はバア様の前で、先ほどのキョウタロウがしていた、平身低頭の姿勢でハキハキと答え始める。
(この三年、キョウタロウ様は〈退魔師〉として目覚ましい活躍を見せております。〈使い魔〉のひいき眼と致しましても、そう呼べる活躍かと)
「おおーッ。たまにはお前もイイコト言うじゃん。おう、もっと報告しろ」
(しかし、キョウタロウ様の、“任務外での生活態度”はと言うと――)
「わーっ、待て待て。そっちはいいんだ報告しなくてさあ。お前は聞かれたコトだけ答えろよ。てめえもキョウスケと同じで、ホント、クソ真面目な野郎だな」
(そういった、キョウタロウ様の破天荒な私生活も含め、私はすべて任されていると思っております。しかしその点で、私は“狭霧家”のご期待に添えず、誠に不甲斐なさを感じている次第で)
「あーやめろやめろ、シンキクセー。これじゃ〈ライゴウ〉の方がマシかもしんねえ」
「言っておるバカ者が。ヒビキ、お前はよくやっておる。さすがのワシも、ワルの素行を正す“薬”の存在を知らぬ。この者のバカは、どうやら死んでも直らんようじゃからな」
そう言ってバア様は、ふっと表情を柔らかくした。
「孫を、よくぞ守ってくれた。感謝する」
一瞬間、静寂が訪れた。




