夏至祭を楽しみに、兄も来たる!.8
「あー、この度はウチのジイ様が、マコトにゴスーソーサマで」
緊迫した空気が、広い空間を満たしている。
「……あー、そちらのバア様に置きましては……ヒビますますゴケンコーウルワシク」
「この愚か者」
まるで地の底から響いてくるような、しわがれた声を聞いて、キョウスケの兄――“狭霧キョウタロウ”は、大げさに身体を震わせた。
先ほどから彼は、ひれ伏し、タタミにぴったりと頭を付け、『狭霧家の陰の実力者』の前で、ひたすらに恭順の意を示している。
「そ、そりゃあ! “ジイ様”の葬儀に際しましては、マコトにモーシワケナク思っておるワケで――」
「そうでないわ。この神聖な場所に、赤ら顔をして平気でやって来る、お前のひん曲がった性根を言っておる」
幅が五メートルはありそうな立派な神棚が、キョウタロウの前にそびえ立っている。
この家に関しては、仏壇はない。
ヤストラとキョウスケによって、松崎家から強制退去させられた“キョウタロウ”は、こうして今、全島民を集められそうな広大な空間の中で、ぽつんとバア様の説教を受けている次第だ。
「おッ、俺だってな、来たくて来たんじゃねえやい。せっかく、ヒトがイイキモチで飲んでいるところをだな――」
「この愚か者ッ!!!!!」
ビクリと彼は、またも身体を大きく震わせる。もはや条件反射と言っていい。
どうやらこの“恐ろしいバア様”は、彼の幼少期のトラウマとなっているようだった。
「なぜお前は久方ぶりに島に帰って、真っすぐ家に来ぬかバカ者がッ! 知人への挨拶は、二の次であろう!」
「あーもう、だからイヤなんだよお。ユーズーの利かねえ、クソ真面目なキョウスケェ、聞いてるかあ? お願いだからさあ……頼むからァ、松っちゃんの家に帰してくれよう」
「お前の家は“ココ”じゃバカタレ! 帰すもなにもあるかッ!!!!」
皺くちゃの顔を真っ赤にさせ、小さなバア様は不動明王が如く、眼の前のキョウタロウに“活”を入れる。
しかし、当の本人はと言うと……今やすっかり開き直って、しびれた足をだらしなく前に向かって放り出した。
「ま、ジイ様の葬儀を悔やんでいるのなら、お前も少しは成長したということか」
「そうそう。いやー、いちいち行くのもメンドクサくてさあ、だって先週まで俺、アメリカだぜ。そんな遥か遠い大地から、わざわざこっちに来るなんて」
「この……」
「ん? どうしたバア様、病院行くか? ――アッハッハッハ! 島には病院“ない”けどねッ! よしッ、この俺が特別に“調合”してやろう! ウチのバア様のために、あれもこれもそれも……うへへへへ」
「バッカもんがああああッ!」




