夏至祭を楽しみに、兄も来たる!.7
キョウスケとヤストラが歩いている、この海沿いの道は、島の“メインストリート”だ。
民家の間にぽつぽつと、魚屋、八百屋、肉屋、米屋、呉服屋、そして日用品を売る雑貨屋が、一軒ずつ並んでいる。キョウスケが通う霧ヶ島中学校も、その向こうにある。
「別に付き合わなくたっていいぜ。どうせ忘れてるだけなんだ」
「倒れてるかもしれないって、さっき聞いたから。念のため」
「そんなワケねえよ。奥さんも家に居るんだし。ボケだボケ、きっとボケが進行してるんだ」
松崎さんの家は、吹き付ける潮風によって、大分痛んでいるようだった。モルタルの壁はところどころ剥がれ落ち、痛んだ箇所は真っ白くなっている。
ヤストラは、色褪せた郵便受けの隣にある呼び鈴を鳴らしてみる。それからしばらく経ち、「はーい」と女の人の声がした。
「あら」
「どうも。おじさん居ます? カツさんに頼まれて来たんですけど」
「ああ、トラちゃんね。え? カツさん? あらあら、どうしたのかしら」
そう言って、半身を出した松崎さんの奥さんは、ふらりと家の奥へと引っ込むと、またすぐにも玄関口に戻って来た。
「なんだか、今日はとても賑やかでねえ。丁度いいから、中に入って直接話してくれる?」
「あのー、俺たち、ここでいいんですけど……」
「いいからいいから。ご馳走があるの、ふたりとも中に――あらッ!」
奥さんは、“キョウスケ”の姿をそこに確認するなり、「狭霧さんのトコロの……」と、口元を押さえて絶句した。
「ウイーッ。奥さぁーん、氷が足りませんよ……と。氷がなきゃ、ぬるくなっちまうよお。せっかくの『桜花美人』が、味わえなくなっちまうよお。うえーん!」
「まったく、しょうがないヒト……はーい、ただ今お持ちしますよ、“坊ちゃん”」
「うっ、中が酒臭せえ」
「やっぱり匂うかしらトラちゃん。換気しないとダメねえ」
松崎家の中が、異様に酒臭いッ!
奥さんは困った様子でヤストラに詫びると、家の戸もそのままに、急いで中へと引き返していった。
「ああいいんですよ、“坊ちゃん”。どうか、そのまま座っててくださいな」
「どうぞお構いなくゥ! それで氷は? どちらぁ?」
キョウスケは、この酔っぱらいの声に、なぜか聞き覚えがあった。
「あ、それも私が――ちょ、ちょっと坊ちゃん! ああーッ! ウチの冷蔵庫がああああああ!」
ガツンガツンと、なにかを叩き割る、もの凄い音が家の中で響いている。
「なんか俺、分かっちゃったぞ」
断続的に続く衝撃によって、キィィィと音を立て、半開きの戸がゆっくりと開かれる――
そこでは酔っぱらいと奥さんが、家の冷蔵庫を巡って激しい攻防戦を繰り広げていた。
「……おいキョウスケ、なんとかしろよ」
マイナスドライバーを振り上げる酔っぱらいを見て、キョウスケは「兄さん」と呟いた。




