表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/69

夏至祭を楽しみに、兄も来たる!.7

 キョウスケとヤストラが歩いている、この海沿いの道は、島の“メインストリート”だ。

 民家の間にぽつぽつと、魚屋、八百屋、肉屋、米屋、呉服屋、そして日用品を売る雑貨屋が、一軒ずつ並んでいる。キョウスケが通う霧ヶ島中学校も、その向こうにある。

「別に付き合わなくたっていいぜ。どうせ忘れてるだけなんだ」

「倒れてるかもしれないって、さっき聞いたから。念のため」

「そんなワケねえよ。奥さんも家に居るんだし。ボケだボケ、きっとボケが進行してるんだ」



 松崎さんの家は、吹き付ける潮風によって、大分痛んでいるようだった。モルタルの壁はところどころ剥がれ落ち、痛んだ箇所は真っ白くなっている。


 ヤストラは、色褪せた郵便受けの隣にある呼び鈴を鳴らしてみる。それからしばらく経ち、「はーい」と女の人の声がした。

「あら」

「どうも。おじさん居ます? カツさんに頼まれて来たんですけど」

「ああ、トラちゃんね。え? カツさん? あらあら、どうしたのかしら」


 そう言って、半身を出した松崎さんの奥さんは、ふらりと家の奥へと引っ込むと、またすぐにも玄関口に戻って来た。

「なんだか、今日はとても賑やかでねえ。丁度いいから、中に入って直接話してくれる?」

「あのー、俺たち、ここでいいんですけど……」

「いいからいいから。ご馳走があるの、ふたりとも中に――あらッ!」


 奥さんは、“キョウスケ”の姿をそこに確認するなり、「狭霧さんのトコロの……」と、口元を押さえて絶句した。




「ウイーッ。奥さぁーん、氷が足りませんよ……と。氷がなきゃ、ぬるくなっちまうよお。せっかくの『桜花美人(おうかびじん)』が、味わえなくなっちまうよお。うえーん!」




「まったく、しょうがないヒト……はーい、ただ今お持ちしますよ、“坊ちゃん”」

「うっ、中が酒臭せえ」

「やっぱり匂うかしらトラちゃん。換気しないとダメねえ」



 松崎家の中が、異様に酒臭いッ! 



 奥さんは困った様子でヤストラに詫びると、家の戸もそのままに、急いで中へと引き返していった。


「ああいいんですよ、“坊ちゃん”。どうか、そのまま座っててくださいな」

「どうぞお構いなくゥ! それで氷は? どちらぁ?」


 キョウスケは、この酔っぱらいの声に、なぜか聞き覚えがあった。


「あ、それも私が――ちょ、ちょっと坊ちゃん! ああーッ! ウチの冷蔵庫がああああああ!」

 ガツンガツンと、なにかを叩き割る、もの凄い音が家の中で響いている。


「なんか俺、分かっちゃったぞ」


 断続的に続く衝撃によって、キィィィと音を立て、半開きの戸がゆっくりと開かれる――

 そこでは酔っぱらいと奥さんが、家の冷蔵庫を巡って激しい攻防戦を繰り広げていた。


「……おいキョウスケ、なんとかしろよ」

 マイナスドライバーを振り上げる酔っぱらいを見て、キョウスケは「兄さん」と呟いた。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ