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夏至祭を楽しみに、兄も来たる!.5



「だから何?」

 ミーナは銀の少女の細い腕を引き、草守レイトを強引に席に着かせた。


「それってそんなに凄いコト? だからあんたは特別なの? ……笑わせてくれるわ。でキョウスケ、あんたはどうなの? もしかして、あんたも自分が“特別”だって、そちらのお嬢さんと同じ考え?」

「おーい、顔が恐いよミーナちゃん」

 キッとヤストラは睨まれる。

 

 『霧ヶ島中学の女王』は、完全にキレているようだ。


 ミーナは、草守レイトの隣に座るキョウスケと、正面から対した。

「へえ。たった一日で、あんたも随分と偉くなったのねえ。でも私に言わせれば、あんたなんて、ハナミズ垂らしてた頃からゼンゼン変わってないの」


 キョウスケは、はっとした。


「……バカにしないで。あんたが、“よく分からないモノが視える”ってことぐらい、私はずっと前から知ってるの! 何年付き合ってると思ってるの。それを今になって自慢されたって、だからなに? そんなんで、私より偉くなったと思わないでよ!」


「あー、つまり……あれだ」


 こほん、とヤストラは軽く咳払いをした。


「こちらのミーナちゃんは、“寂しい”って言ってるワケだ」

「い、言ってないわよそんなことッ! ヤストラ! 勝手に人の発言を捻じ曲げるなッ! 私はただ、得意そうにするあんたたちの顔が、まったく気に入らないって話をしてるの!」

「いやあ素直じゃないねえ、ミーナちゃん。そんなにツンツンしないで、とっても寂しいわキョウスケ――なんて、涙のひとつも見せれば丸く収まるのに」

「なんなのよバカトラ、いちいちチャチャ入れんじゃないわよッ!」

「おお迫力あるゥ。――ま、それは俺の意見だよ。だって、寂しいだろキョウスケ? もっと話せよ、相談しろよ。もしかして、そんなに信用ねえか、俺たち」

 心のどこかで感じていた孤独感。


 それを埋めてくれるはずだった、銀の少女の存在。


 しかしキョウスケの心は晴れない。




「……お前、どこに行くつもりだ。まだ卒業には早いだろ」




 キョウスケは、彼らが大好きだった。

 中学、小学――いや、それよりもっと前から、彼らを知っている。


 キョウスケの本当の望み。


 それは――

「草守さん」




 それは、彼らと同じ世界を視ることだった。




「返事を聞かせてって言ったよね。今、ココでするよ」

 キョウスケは肩に留まる“スクナ”を見た。

 ほんの少しだけ、左の肩に“重み”を感じている。彼女は幻想や、思いこみなどではなく、確かな存在なのだ。

「世界を変える力を持つ〈神器〉。もしもそんなものが本当に、この島にあるのなら僕もそれを見たい。ココに居る、僕の大切な人たちと」

「なにを言ってるのキョウスケくん、昨日の怪物を見たでしょう……? うん、昨日の出来事は、確かにいい機会だったわ。私がどんなモノと戦っているか、あなたに充分に伝えることが出来たから。〈神器〉への道のりは、あなたが思っている以上に過酷なの。命を落とすことだってあるし、もしも辿り付けたとしても、ほとんどは空振りの連続。常にハイリスクで見返りは少ない。そもそも〈神器〉なんてものが、“この世に本当に存在するのかどうか”さえ、定かでない。それでも危険は確実にある! キョウスケくん、これは素人が手を出せる“遊び”じゃないの。冒険ゴッコは、どこか安全な場所でやりなさい」

「それが僕の条件だ。受け入れてくれないのなら、このまま僕は、普通の中学生に戻るよ」




 しん、とする。




 キョウスケは席を立った。

「行こう、ヤストラ。もう話は終わったよ」


 そう言って、椅子を戻し、振り向きもせず離れていくキョウスケの腕を、今度は草守レイトが強く引く。


 彼女は、うつむいている。

 銀色の長くて美しい髪が、その表情を隠していた。


「……本当に“狭霧キョウカ”そっくり。騎士団の本部も、こうやってあなたのお父様に振り回されたのかしら。確かに恐ろしい。なにもかも計算づくってところが、あなたたち『親子』の恐ろしいところ。私は……頼るしかないのよ。それを承知でキョウスケくんは!」


 キョウスケは、視線を合わせない。

 どうして彼女がキョウスケを必要としているのか、それはまだ分からない。少女の弱みにつけ込んだことを、彼は自覚している。


 それでも、彼の願いは本物だった。


「もしもこの戦いで、あなたの大切な人が命を落としてしまったら、その責任をどう取るの?」

「決してそうならないようにする」

「それでキョウスケくんが命を落とすかもしれない」

「それも気をつけるようにする」

「じゃあ私が危険になったら?」

「助けるよ、絶対に」


 いつも静かな山口商店が、歓声に包まれる。


「ヒュヒュー! よく言ったぜキョウスケッ、それでこそ島の男だ!」

「キョウスケくん、カッコイイ!」

「……ホント、バカ」


(ヤレヤレ。コタエになってないゼ。あんなガキンチョのどこがイイんダ?)

(スクナはキョウスケ様のココロの中に居たから分かりマス。今のキョウスケ様、嬉しいキモチでイッパイ。皆が同じキモチだかラ、とってもステキ。それがカッコイイ)

(ゼンゼン分かんネーヨ。オジョーが言ってるのハ、“ホショー”出来んのかってコト。クソヤローと戦ったことのないガキンチョガ、そのヘン分かってんのかってコト)

(そこはスクナがガンバリマス! キョウスケ様のオ願いは、スクナがすべて叶えマス! スクナは、キョウスケ様の〈使い魔〉デスカラッ!)






「じゃあじゃあ、“名前”が必要だよねッ!」


「そうか“名前”ねえ……うん、そりゃ大事だ。正式な団体名がねえと、どう呼べばいいのか他の人が困るしな。うん、スゲーいいところに気付いたぞマキ。そのレイトが入ってる『なんとかの騎士団』――」

「だから〈白銀騎士団(しろがねのきしだん)〉よ。さっきから何度言わせるの」

「それそれッ! そこで俺たちは、白とは反対の『黒のなんとか』とか」

「えっと私はねえ、『白銀歌劇団(しろがねのかげきだん)』がいいなあ!」

「……マキ、誰も歌わないから」

「いーや黒だ、黒。絶対にクロじゃなきゃ俺はヤダ。絶対に『黒のなんとか』だ」

「じゃあ『黒い中学生』とか?」

「いやキョウスケ……それはねえよ」


「もう“名前”なんて、どうでもいいでしょう。そんなモノが必要だなんて、本当にあなたたち、どうかしてるわ。それよりもっと大事なのは」



 午後の授業が始まろうとしている。


 しかし、外に食事に出た生徒たちが慌てる気配は今のところない。






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