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夏至祭を楽しみに、兄も来たる!.2


「オー! コノ国にこんな場所があったナンテ、トテモ驚きデスネー!」


 真上の太陽が、四方の海を眩しく照りつける。

 肌に当たる風は生温かい。まるで重量を纏っているかのようだ。




     ――見渡す限りに、大海原が広がっている!




 大海を横断する小さな連絡船は、まるで湖に浮かぶ一枚の木の葉のように、ちっぽけな存在だった。

「日本は縦に長い国だからなあ、そりゃあ色々な土地があるだろうさ。あんたの国にだって、山があったり海があったり、色んな表情があるだろ?」

「それはモー! デイブが生まれたイングランドも東と西トデハー、まったく違いマース!」


 その男は、彼の出生地を知ると感嘆の声を上げた。


「いいところじゃねえか。そっちの方にも、いつか行ってみたいと思っているんだが、仕事が忙しくてな。ああッ、憧れのイングランド……“アーサー王”の伝説だな」

「“魔術師マーリン”も有名デース!」


 男はそれを聞いてご機嫌だった。

 錆びてボロボロになった甲板の手すりに身体を預け、男はすっかり鼻歌交じりに、見え始めた霧ヶ島の全景を眺めている。

「紹介が遅れマーシタ! ワタークシ、こういう者デース!」

 そう言って、すっと名刺を差し出された男は、見上げるほどに背が高く、そして掘りの深い顔立ちの西洋人を、珍しそうに眺めていた。

「……ハムシク、イーストトラベル東京支部、“デイヴィット=ランス”。“デイヴィット”さん、ね。トラベルってことは、もしかして旅行会社のヒト?」

「オー! デイブで結構デース。実はある知人からモシカスルトー、日本に新たな魅力が、ひとつ加わるかもしれないと聞キマーシテ、仕事と休暇を兼ね、この島の実地調査に訪れマーシタ!」


 彼のカタコトの日本語は、まるで雷鳴のような船のエンジン音にかき消され、とても聞き取り辛かった。その度にデイブは大げさなアクションを加え、その男に説明している。

「デイブはコウシテー、ここからのユウダイな景色を眺めてイルトー、その知人の勧めは正しかったコトが分かりマース!」

 瑠璃色の海にぽっかりと浮かぶ、絶海の孤島。

 島の面積の八割は、未だ手付かずの原初の森が占めている。人の営みが感じられるのは、ほんの一部だ。


 するとデイブはオーバーアクションで、次第に近付いてくる霧ヶ島を視界いっぱいに捉えた。

「デイブは胸の高まりを禁じ得マセーン! きっとデイブを待っているのは、“アーサー王”と同じダイイギョーデース! ココに一大国家の建設デース!」

「……大偉業ねえ。なんかイギリス人ってより、アメリカ人っぽいな、あんた」

「デイブの先祖、アメーリカを作りマースタ。同じ開拓精神(フロンティアスピリッツ)を持ってマース」

「その気位がやけに高そうなところは、紳士の国の人間だな」

「そういうあなたは、まったく日本人らしく見えマッセーン。髪は黒、肌もソレナノニ」

「髪と肌の色で仕切られちゃ、今の時代やってけないぜ」

「オー! 気を悪くしちゃイヤデース。デイブはそういうつもりではアリマッセーン! あなたの持ってる雰囲気が、少し、というかゼンゼン違いマース。ワタシが知ッテル日本人、もっとこう――」

 するとデイブは、はっとして、東京支部ですっかり染み付いてしまった“オジギ”を、たどたどしくサングラスの男の前で披露する。


「面白いな、あんた。――名刺を出す、お辞儀する、俺より日本人だ」


 船を動かす船頭が、陽に焼けてすっかり黒くなった顔を操縦席の小窓から出した。

「――おーい、“タロウ”ちゃん! もう着くぜ、下に行って荷をまとめておきな!」

「おう、()っちゃん! 久しぶりに、なんか家でウマいもん食わしてくれんだろ?」

「ッたあ恐れ多いぜ! “本家”の方で食わせてもらってくれようタロウちゃん。ウチのカカアの腕じゃあ、ウマいもんも、クソマズくならあ!」

「なあに、そのマズイのが今は食いてえのよ」


 船頭は、それを聞くなり人のよさそうな顔を歪め、それから豪快に笑い飛ばす。

「おう! じゃあ寄ってきな。そのマズイ料理、イヤって言うほど食わしてやらあ!」


 男はニヤリとして、颯爽と甲板を去っていった。


 まだ笑っている船頭に歩み寄り、デイブは好奇心から、先ほどの“男”について尋ねてみる。

 すると船頭はニヤニヤしながら「薬屋のドラ息子よ」と、乱暴にその“男”を紹介した。





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