異形の者.2
「外の状況を知ってる?」
外、とは、“島の外”ということだ。
「詳しくは知らない。島では、新聞も満足に手に入らないから」
「キョウスケくん、よく聞いて。本土では『星辰の翼』という組織が暗躍している。そのお陰で、この国の社会は、もうメチャクチャ。今では凶悪な事件の裏には必ず『星辰の翼』が絡んでいるとされている。彼らは“悪魔的儀式”を行って、常に強力な“魔物”を味方に付けている。人間は、“魔物”を相手にどうすることも出来ない。だから私たち〈白銀騎士団〉が、人間を害する〈魔〉と戦い、そして徹底的に殲滅する」
「〈白銀騎士団〉……君も、そのひとりなの?」
「私の任務は、世界各地に散らばる〈神器〉の情報を集めること。もちろん、『星辰の翼』と遭遇すれば、私も命を投げ出して戦うわ」
悪魔的儀式。
それによって呼び出した“魔物”。
そして世界に散らばる〈神器〉。
『星辰の翼』と〈白銀騎士団〉という、見たことも聞いたこともない、ふたつの秘密組織――
銀の少女から語られる言葉は、どれもキョウスケには信じ難いコトばかりだった。
「私がココに来た理由を話すわ。この霧ヶ島には〈神器〉が眠っている可能性がある。〈神器〉には、世界を変えるほどの、計り知れない力がある。もしも『星辰の翼』に〈神器〉が渡ったら、それだけで大きな脅威になる。幸いにも、まだヤツらは“この島”の存在に気付いていない。でも、この先どうなるかは分からない。大丈夫、もう許可は取ってあるの。あなたの“お父様”から!」
「僕の、“父さん”から?」
信じられなかった。次々に語られる荒唐無稽な話から飛び出た『父』という単語は、キョウスケを現実へと引き戻すのに充分だった。
「“この島を管理するあなたのお父様”は、〈神器〉の調査を許可してくれたわ。と言っても、ある条件付きでね。――その条件とは、島に住む人々の安全。それから〈神器〉が、もしも存在した場合、それを持ち去って封印が解かれた際の、〈白銀騎士団〉の全面的なバックアップ。とにかくお父様は、島の人々の生活の保障を強く求めていた」
そして、“それ”を口にする前に少女の澄んだ声が、ほんの少し上ずった。
「――もしも、それが守られない場合は〈島守〉として対応するそうよ。なんて恐ろしい人……騎士団にそんなコトを言える人間なんて、世界中探したって居ないわ。これは完全なる脅しよ」
〈白銀騎士団〉は、世界各地に支部を持つ、国際的な巨大組織だ。その規模は計りしれず、たった一個人の行動で、どうなるものでもないのだ。
しかし銀の少女は、震えあがるほどの興奮を抱いて、その息子の“キョウスケ”を見た。
「騎士団が最も畏れているのは、狭霧キョウカ自身が〈神器〉の封印を解いてしまうこと」
世界を変えるほどの力を秘めるとされる〈神器〉。
もしもそれを個人が用いた場合、この星に住む全ての生物にとって、最悪の結果が待っていることだってある。草守レイトのしなやかな背筋を、なにか不吉なモノが通り過ぎていった。
「僕の父さんは、何者なの?」
「あなたには、まだ伝えていないのね。そう、それは正しい選択かもしれない。あなたのお父様、“狭霧キョウカ”は、世界でも有数の、超一流の〈退魔師〉よ。そしてその血は間違いなく、あなた自身にも流れている。普通のヒトが視えない現象を、あなたが実際に視てしまうのは、なによりの証拠」
「どれが本当なのか、分からないな」
草守レイトは「全て真実なのよ」と表情を変えずに告げた。
「でも、これだけはハッキリしてる。あなたのお父様は……きっと、よい父親よ。だってあなたが充分に成長するまで、なにもお話しにならなかったんですもの。私は、その愛情を無駄にしてしまった。それでも、“やらなければならないコト”が私にはある」
迷いを捨て、前を向き、誓った決意を胸に秘め、草守レイトは“狭霧キョウスケ”と対した。
「力を貸してキョウスケくん。私たち〈白銀騎士団〉はあなたの力――“狭霧の血”がどうしても必要なの!」
銀の少女の全身が、やがて金色の光を帯びていく!
「拒否すれば、無理にでも連れて行く。女だからって、バカにしない方がいいわ」
少女の存在感が、増した気がした。
人外の魔物と戦う〈白銀騎士団〉。彼女は自ら、その団員と名乗った。
周囲に立ちこめる霧は次第に濃くなっている。
「さあ、答えを聞かせてちょうだい、キョウスケくん!」
――ドクン!
キョウスケが不思議な高まりを感じるのと同時に、絹を裂くような女の悲鳴が、神社の境内に響き渡った。




