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異形の者.1



『本日夕刻。町外れの神社で、あなたをお待ちしています』




 風はない。

 周囲を覆うように鬱蒼と生い茂る、深い木々に遮られているからだ。

 それでも蒸し暑さは感じられず、それどころか、ひんやりとしている。




 足場の悪い林道を進み、キョウスケが赤い鳥居をくぐる頃には

 霧が出始めていた。ふと顔を上げると、

 真っ赤に染まった空の向こう側からは、既に夜が迫っている。




 待ちくたびれているだろうな。




 申し訳なさそうに彼は“手紙の主”に詫びる。

 それと言うのも、彼が“その手紙”

 【数学と歴史の教科書の間に挟まれていた】を読んだのは、

 ほんの十数分前のことだった。

 学業を家庭に持ち込まない主義の、ヤストラであったなら

 手紙に記載されていた『本日夕刻』の約束は

 絶ッ対に果たされていなかっただろう。






 まるで海のように、

 そこへは本殿へ向かって白い小石が敷き詰められている。


 木々のせせらぎと物悲しいヒグラシの声が境内に響いていた。

 都会の喧騒とはかけ離れた、もの静かな世界。

 そこは華やかさとは無縁の、この世とは異なる

 向こう側の世界の入口だった。




 サクッ――




 見渡す限りに敷き詰められた真っ白な砂利が訪問者を知らせる。


 どうしたことか、キョウスケは“銀の少女”がそこに居ないとは

 考えなかった。




 あの時、彼女の肩に乗っていた“不思議な存在”――




「随分と待たされた」




 キョウスケは銀の少女――草守レイトを『仲間』だと感じていた。


「男子に振り回されるのは生まれて初めての経験なの。

 だから、少しドキドキした。絶対に来ないと思っていた。

 だって理由を考えたら、あなたがココに来る必要がないもの」



 草守レイトは社殿を向いたまま、

 後ろ向きになってキョウスケに尋ねる。



「どうしてあなたは、ココへ来る気になったの?」



 境内は、物音一つしない。

 銀の少女の問いに、誰もが耳を澄ませているような気さえした。




 キョウスケは答えた。

「君が……『仲間』だと思ったから」




 彼は、頬の火照りを感じている。




「僕と同じ世界が()える、唯一の友達だと思ったんだ」




 さわさわと木々がゆらめく。

 銀の少女は黙って、彼の言葉に耳を傾けていた。


 やがて慎重に、

 まるで自分の足場を確かめるように、

 彼女は恐る恐る声にする。



「あなたの周りに居るヒトたちは……

 誰も、あなたの世界を感じることは出来なかったの?」


「皆、イイヒトたちだよ。僕をとても気遣ってくれて、

 『仲間』だと思ってくれている」


「でもあなたはそれを満たされているとは感じてない。どうして?」

「僕は、きっと満たされているよ。でも時々欲張りになるんだ。

 僕の全てを皆に分かって欲しくなる。

 どうして分かってくれないんだろうって、もどかしさを感じてしまう」


「甘えないで」

 少女は突き放すように彼に言った。



「あなたが視える世界を、他人が視えると思ったら大間違いよ」



 銀の少女はギュッと唇を噛みしめ、続ける。


「あなたが感じたコトは、あなただけのもの。

 それを相手に伝えようと願ったら、あなたがその時感じた以上の感動で、

 一生懸命に伝えなければ相手の心には届かない。

 だから簡単じゃない。努力しても出来ないことだってある」




 それはどこか、彼女自身に向けられている気がしていた。


「私たちは甘えてはいけないの。だから戦うの」


 そう言い聞かせるように告げた草守レイトの切なげな表情を見て

 キョウスケは感じた……。





「力を貸してほしいのキョウスケくん」





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