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転校生来たる!.8



 「あら、トラちゃん!」と、安井トラの姿を見かけるなり、

 店先にたむろする『山口商店』の“常連客”たちは声を揃える。



「……あっちゃー。ありゃあ城田(しろた)のおばちゃんだぜ。参ったな、こんな時に会いたくねえのに」

「城田のオバサンなら、この時間帯はいつもここよ」



 城田のオバサンは、ヤストラの後ろにミーナの姿を見付けるなり、

 「足立さんところのミーナちゃん!」と叫ぶ。

 それから耳の遠くなった隣の常連客にも大声で知らせると、

 「へえそうかい。それはどこのミーナちゃん」と、すっトボけた答えが

 返ってくる。




  ここは霧ヶ島唯一の社交場――『山口商店』である。




「ちょっとヤストラ、なにをそんなにコソコソしているの! こっち来て、あんたがオバサンの相手しなさいよ」



 常連客たちはミーナを掴まえて離さない。

 先ほどから店の前は「カワイイネエ、キレイダネエ」が飛び交っている。

 すると、いつもイケイケの少女は珍しく困った様子で、

 「はあ」とか「いえ」とか言っていた。



「今日は珍しい奴(ミーナ)が来ているからな。

 やっぱそっちに食いつくか。あの城田のおばちゃんに掴まると、

 オシメ換えた時の話とか、まだするんだぜ。

 それって完全に時効だっての。そんな昔のコトを

 いちいち覚えているくせに、自分がなにを買いに来たのか忘れるし。

 イミ分かんねー」



 クスクスと、小さな笑い声が漏れる。



「そう言えば、私のおじいちゃんも、おばあちゃんもそうだよォ。

 昔のコトは、絶ッ対に忘れないの。それって、どうなのかなあ」



 マキは首をひねっている。

 それから親友の困っている顔を向こうに見つけると、

 「さすがは網元の娘」とまた笑った。





「ようし、オニの居ぬ間に、だ――キョウスケ、マキ!

 今の内に店内に突入する! おーいオバちゃん、『島ヤキソバ』を人数分ちょうだいッ」



 店の奥に居る女店主に、ヤストラは威勢よく注文した。



「それでいいよな? なあ――」



 そして、振り返ってヤストラは“銀の少女”に視線を向ける。

 彼女のことを、これからなんと呼べばいいものか、

 彼には判断がつかないようだった。






 銀の少女は、おずおずとキョウスケの後ろを付いて行くと、

 興味深そうに店内の物色を始める。





 ブリキ製の空き缶に刺さった、

 色とりどりのハエタタキ。


 レジの前に吊り下げられているプラスティックのオモチャは、

 いつかの五十円くじの景品だ。



 店の隅に積み重なった銅鍋。

 消費期限の怪しいインスタントラーメン。


 キャスター付きの小さな冷蔵庫には瓶に詰まった牛乳と、

 大手メーカーの缶ビールとが、一緒くたに売られている。



 店主の手で切り取られた段ボールの切れ端には

 商品の税込の値段が記入され、店の外に設けられた茶席では、

 常連客に掴まった足立ミーナが引き攣った笑みを見せている。




「ココは、島の百貨店?」




 草守レイトは無邪気に質問する。

 彼女が知っているそれとは、なにもかもが異なっている。

 それでも、どこか懐かしいと感じてしまうのはどうしてだろう。



 銀の少女の、それは遠い夏の思い出――



 母の実家の近くには、小さなデパートメントストアがあった。

 個人経営で、仕入れも販売も店主の手で自ら行っていたと聞いている。

 だから店には独特の空気感があった。ココとは違い、

 客同士が茶を飲みながら談笑することはなかったけれど

 それでも村人は足しげく通って店を贔屓にしていた。

 店主の誇りを感じていたからだ。




「――ああッ、メンドクサ! ほら、次はあんたの出番よヤストラ!

 キョウスケッ、ちゃんと私の『島ヤキソバ』もあるんでしょうね? 

 これで食べられなかったら暴れてやるんだから!」



(オジョー。コイツ、俺が黙らせてやろーカ?)



「ホント、これだから来たくないのよね。ほらマキ、そこもっと詰める」



 店先に陣取る常連客らをすり抜けて、

 ミーナがなんとか入店を果たすと、キョウスケとヤストラと、

 マキと草守レイトの四人は、店の隅に設けられた小さなテーブル席に

 既に着いていた。


「――ッて、どうして“あんた”がそっちの席に居るの。

 フツウ、男子はそっちで、女子はこっち側でしょ。

 当たり前みたいに座ってるんじゃない!」



 キョウスケの隣には、銀の少女の姿があった。



「マキ、あんたも注意しなさい。人がイイのもほどがあるわ」

「でもそんな決まりごと、あったっけ? 私、初耳だよォ」

「暗黙のリョーカイってもんがあるでしょうがッ! 

 ほらあんた、早くこっち来なさいよッ!」



(ヤレヤレ。珍しくオジョーがヒタってる時ニ、

 せっかくの雰囲気がブチ壊しだゼ。このイケてるネーチャン、

 あんまりウルセート、オレがヒーヒー言わしてやんゾ)



 キョウスケの鼓膜に、何者かの声が直接響いてくる!



(――ケケケッ。しかしこのネーチャン、まるでオレ好みダ。

 取り憑いてやろーカ)


(黙りなさい。彼に勘付かれる危険がある。今は表に出てこないで)


(ハッ、分かるワケねーダロ、こんなガキンチョがヨ。

 つくづくシンパイショーだなオジョー。

 いつの間にカ、“ギシンアンキ”になっちゃうゼ)



 キョウスケは、はっとして、隣に座る草守レイトの表情を窺った。

 すると銀の少女は、ぎこちのない笑みを瞬時に向ける。



(……やっぱり何か気付いてる。

 お前はもう、“こっち”に出てはいけない。とりあえず、

 “当初の目的”が果たされるまでは)


(なんダ、このガキも『能力者』カ。それにしチャ、ヒョロヒョロだゼ。

 これじゃオジョーの方ガ、よっぽど強そうダ、ケケッ。

 オジョーの魅力にかかっちゃア、こんなニンゲンのガキンチョなんテ、

 コロリとあの世にイッちゃうゼ)




「キョウスケ、こらキョウスケッ!」




 ミーナが必死になって呼びかけていた。


「ちょっと、どうしたの? 

 あんたの味付けは『塩』? それとも『ソース』?」



 キョウスケは、通好みの塩味を頼んでから、草守レイトをそっと窺う。

 ――やはり表情は険しいままだ。

 先ほどの頭に響いてくる声の主は、本当に彼女だったのだろうか。



 それとは別に、若い男の声が混じっていた気がする。




 ――それは一体、“誰”の声だ――




 大皿いっぱいに運ばれて来た『島ヤキソバ』は、

 一杯が二百二十円だった。そのあまりの低価格に銀の少女は

 とても驚いていた。これは女店主が家庭で作る献立で、

 店で出される料理は、この『島ヤキソバ』の一品だけ。


 多めの麺に、タマネギ、島ピーマン、そしてたっぷりの炒めた魚肉が

 トッピングされている。



「これみーんな、雑魚(ざこ)だから安いの。それに冷凍物だし」



 店の裏事情を知るヤストラは得意気に銀の少女の前で

 ムダ知識を披露する。

 七味トウガラシや塩や酢の入った小瓶はテーブルに常備されている。

 学生には嬉しい限りだ。





 午後の授業が始まろうとしている。

 しかし、外へ食事に出た生徒たちが慌てる気配は今のところない。






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