転校生来たる!.7
「売ってるところはあるけれど、この学校にはないよ」
「え? まさか、購買部が……ない……? じゃあ食堂は?」
キョウスケは、首を振った。
「さ、さすがは島の学校ね。“向こうの常識”が通用しない」
と、さきほどまでの賑やかなBGMが、
それを耳にした途端にパタリと止んだ。
「……いいわ。そちらの流儀に習いましょう。
郷に入っては郷に従え、と言うものね。じゃあ案内してちょうだい」
「案内って『山口商店』まで?」
「“ヤマグチ”……商店……さん?」
不思議そうに美少女が尋ねると、キョウスケは頷いた。
「……いいわ。じゃあお昼を私が御馳走する。
だから、もっとよいお店でもいいわ」
と、ココでようやくヤストラの状態が落ち着く。
硬直が解けた彼は、キョウスケの方を振り向くと、ぶんぶん首を振る。
おそらく、
ふたりの頭の中には『?』のマークが浮かんでいる。
「ウソ! レストランが島には一軒もないの? お食事屋さんが……まさか一軒も?」
その衝撃的事実を聞いた草守レイトの頭の中にも
『?』のマークが、きっと浮かんでいる。
「まあ、家に帰って食うし」
「それが当たり前、かな。ココではね」
「し……信じられない……。
商売をする気が、どうしてココの人たちにはないの……?」
教室の隅で囁かれるひそひそ声が、次第に大きくなる。
「な、なんて呑気な島……だから今まで注目されなかったんだ……」
草守レイトは、茫然自失といった様子だ。
彼女が持っていたクールな印象は、この数分間のやり取りで
急にどこかへ行ってしまったようだ。
「おいキョウスケ。なんか彼女、とってもガッカリしてるぞ」
やがて我に返った銀の少女。呆気にとられるキョウスケとヤストラを、
そこに確認するや否や、ホホホと明らかな作り笑いをしてみせた。
「わ、分かった、分かったわ! その“なんとか”商店でいい。
キョウスケくん、案内してくれない?」
「ちょーーーーっと、待ちなさーーいッ」
その少女の大声は、教室の窓を揺るがすほど大音量だった。
足立ミーナは、とうとう我慢出来なくなって、
長い人差し指をビシッと、草守レイトに突き付ける。
「あんた、さっきから聞いていたけど何様のつもり?
自分を“女王様”か、どこかの国の“お姫様”とでも
思っているのかしら。そうだとしたら、大きな勘違いお嬢様ね」
『霧ヶ島中学の女王』がそれを指摘すると、
なんだか奇妙な違和感に包まれる。
「“ウチの”キョウスケはね、あんたなんかと行かないし!」
「それなら、あなたも招待するわ。それなら文句ないでしょう?
その“ナニグチ”商店さんとやらに、皆で一緒に行きましょう」
「“ナニグチ”じゃなくて『山口商店』よッ! あんた、イイ加減に覚えなさいよッ!」
「さあキョウスケくん、行きましょう」
そう言って銀の少女は返事も待たず教室を出た。
キョウスケは、戸惑っている。
いつものように彼が隣に意見を求めると
「ミーナとどっちが強いかな」と、ヤストラは笑えない冗談を言った。




