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階段から落ちたフリのはずだった〜自作自演の結末〜  作者: ラララキヲ


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6>> ファルグ 

     

 

 

 

 

 

 ファルグは別にラヴィーリアが嫌いな訳でも苦手な訳でもなかった。

 親が決めた婚約者、ただそれだけの存在で、出会って直ぐの頃は、まぁこれから女性として意識していくのだろうな、とそんな風に思っていた。

 しかし何年経ってもファルグにとってラヴィーリアは『親が決めた婚約者』のままで、ファルグの恋心を刺激することはなかった。ラヴィーリアと話していると母の世代の女性を相手にしているような気がして少しだけ落ち着かない気持ちになったせいもあるかもしれない。

 だがラヴィーリアから“好かれている”ことに関しては悪い気はしなかった。婚約者から愛されている。まぁそれは仕方がないことかもしれないなとファルグは思った。自分は何も意識していないが、ラヴィーリアが自分を意識しているのは気分が良かった。まぁ結婚するのだから、『夫を愛すのは当然だな』とファルグは思ったのだ。

 そう思うことに何一つ疑問に思うこともなかった。


 そんなファルグは学園に入って恋をした。

 初めての恋だった。

 一目惚れなどでは決してなかったと言いたいが、初めて会った時から特別に思う相手だった。

 ルムラと知り合い、友人になり、彼女が特別な女性になるまでにそんなに時間は掛からなかった。むしろ彼女からもファルグへの愛を感じられて恋心は浮かれ上がった。

 婚約者が居ようともファルグには関係ないと思えるほどにルムラへの恋に浮かれた。

 親が決めた婚約ならばそう簡単には解消などできない、ならば“自分を愛しているラヴィーリア”を妻にして、ルムラを第二夫人にすれば全てが上手くまとまると考えた。当主は自分なのだから問題ないと、ファルグは全てを楽観的に考えていたのだ。

 ラヴィーリアは自分を愛しているのだから『そんな彼女を突き放すことこそ不誠実だ』と、ファルグは本気で考えていたのだ。


 ルムラからラヴィーリアが怖い虐められていると聞かされる度にラヴィーリアからの愛を感じた。嫉妬するラヴィーリアを初めて可愛いと感じたのだ。

 ──そんな可愛いところがあるなら最初から隠さず見せていればいいものを──

 なんて考えてファルグは内心ニヤついた。

 愛してはいない女性だが、一方的に愛される優越感がファルグの男心を刺激した。自分が愛しているのはルムラだが、そんなに自分に恋焦がれているならば、妻として子を作るぐらいはして上げようと思う程には、ファルグはラヴィーリアとの婚約をなかったことにするつもりなど毛頭なかったのだった。


 だが全ては一変した。

 最愛のルムラが死んだ。亡くなった。

 居なくなってしまった。

 階段から落ちたなんて信じられる訳がなかった。絶対に誰かが背中を押したと思った。


 そんなことをするのは嫉妬したラヴィーリアしか居なかった。


 なのに誰もそのことを信じてくれない。ルムラがラヴィーリアに嫌がらせをされていたのは間違いないのに、誰もそのことを認めてくれない。

 ラヴィーリアは当然否定する。悪いことをする奴は絶対に自分では認めないから当然だ。なのに皆それに騙されて、ルムラの方こそ嘘を吐いていたのだと言った。

 ファルグ()が騙されているのだと皆が責めた。


 皆がラヴィーリアの都合の良い嘘に騙されてルムラの死を事故死として信じてしまった。

 そんなことはあり得ないのに。

 誰も俺の話を聞いてはくれない。

 父ですら俺を信じない。

 ルムラを嘘吐き呼ばわりする。

 俺が愛したルムラを侮辱する。

 可哀想なルムラ

 俺の最愛

 俺の心


 そんな俺の心を殺したラヴィーリアを俺は絶対に許さない



 ラヴィーリアにもルムラと同じ目に合わせてやると決めたファルグは逆に冷静になった。

 自分の言葉を誰も信じてくれないならば、信じてもらえるようにすればいい。言われたことには逆らわず、相手が好む返事をして周りの様子を(うかが)い続けた。周りに安心してもらえるように言動を(あらた)めたファルグは監視の目が緩んだ瞬間を見逃さなかった。

 ラヴィーリアに復讐を。

 それだけを考えていたファルグは簡単に捕まり領地へと戻され、地下牢に入れられた。


「出せ! 出してくれ!! 俺は行かなきゃいけないんだ! 俺はやらなきゃいけないんだ!!

 何故みんな分かってくれない?! 嘘を吐いているのはラヴィーリアなんだ!! 俺は間違ってない!!!」


 牢の中で騒ぎ続けたファルグの声が枯れた頃、父であるテムリゴが現れた。


「……まだラヴィーリア嬢を憎んでいるのか」


 眉根を寄せ疲れた顔でそう問うてくる父にファルグは牢の檻を掴んで声を上げた。


「アイツがルムラを殺したんだ!! 罪を(つぐな)わせなきゃ気がすまない!」


「……女生徒の死は事故死だ。宮廷魔術師たちが調べたのだ。間違いなどない」


「その魔術師たちがラヴィーリアに買収されたんだろう! なぜ分からない?! ラヴィーリアとはそういう姑息(こそく)な女なんだ!! ルムラはそんなラヴィーリアに誰にも知られずに虐げられ続けていたんだ!」


「……それを知っている者は?」


「ラヴィーリアは姑息(こそく)だと言っただろう?! 誰にもバレずにルムラを人知れず虐げていたんだ!! 信じてくれ!! アイツはそういう奴なんだよ、父さん!!」


「…………」


 その『虐げる理由の嫉妬心』が存在しないのだということを、ファルグは(かたく)なに認めない。自分はラヴィーリアに男として愛されているのだと盲目的に信じているファルグ(息子)にテムリゴはもう言葉は届かないのだと思った。


「……ラヴィーリア嬢はお前を男として愛してはいない」


 テムリゴは最後の望みのように伝えた。

 しかしファルグは一瞬驚いた顔をして、そして怒りの感情で顔を(しか)めた。


「あいつはそんな嘘で父さんたちを騙しているのか? 父さんたちだって知っているだろう? あいつが俺をどんな目で見ていたか? あいつが俺に向ける顔を。あの顔が全て物語っていたじゃないか! 俺の顔を見ただけでバカみたいに(ほう)けやがって!

 あの顔が証明していたじゃないか! あいつは俺に惚れてた!

 だからルムラを憎んで殺したんだ!!」


「…………そうか」


 ファルグの言葉を聞いてテムリゴは確信した。

 もうファルグにはまともに言葉は通じないのだと。

 だからテムリゴは優しい父の顔でファルグを見た。


「分かった。お前の考えを理解したよ」


「っ、……そうか!! 父さんなら分かってくれると信じてたんだ!!」


 父の言葉にファルグは笑顔を浮かべた。やっと自分の言葉が父に通じた喜びに目を輝かせた。

 そんな息子にテムリゴは優しい微笑みを向ける。


「あぁ、お前は俺のたった一人の息子だからな。

 さぁそこから出て来なさい。今日は疲れただろうから、部屋でゆっくりと休むがいい」


「……っ、あぁ! やらなければいけないことがたくさんあるんだ! 父さんにも手伝って欲しい!!」


「あぁそうだな。だが今日はもう休みなさい」


「良かった……っ! 牢の中じゃまともに寝られもしなかったから!」


「風呂に浸かって食事をして、寝る前に体を癒す薬湯を持っていくから待っていなさい」


「あぁ! ありがとう父さん!!」


「お前は良い息子()()()よ」


「ははっ! なんだよそれ!」


 牢から出られる嬉しさを隠しもせずに浮かれて歩く息子の背中を見ながらテムリゴは自分の不甲斐なさを感じずには居られなかったのだった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして次の日、

『生まれた時から身体が弱くて領地の邸に引きこもっていたファルグ』としての記憶で目を覚ましたファルグは、今までの全ての記憶を忘れて幸せそうな顔で笑っていた。


 薬湯で眠らされたファルグはその夜の内に記憶の消去と暗示と洗脳の魔術を掛けられ、そして動き回れぬようにと左足の(けん)を切られた。

 これからは領地から出ることもできずにこの邸の中だけでひっそりと生きることになる。


 候爵家の一人息子に()便()()()()と望んだラヴィーリアの進言の結果だった。

 

 

 

 

 

         

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― 新着の感想 ―
 始末に負えないキ◯ガイだが一部言動が事実を言い当てているのがw  キ◯ガイは意外と筋道を通すというか、妙にロジカルだったりするからね面白いね。  しかし◯さないなんて優しいな。
ファルグは真実を言っていて正しい、というのがまた。 まぬけなファルグはとんまになって幸せになりましたとさ。 とっぺんぱらりのぷぅ
種馬ぐらいにはなったろうに…「病弱」ではねぇ〜
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