3>> 事故後
─〘※区切りの影響で短いです〙
その日、学園は大騒ぎとなった。
生徒の一人が死んだのだ。
階段の下で亡くなっていた彼女に他の生徒達はあれこれと憶測を飛ばした。もしかしたら彼女は誰かに突き落とされたのではないかという話も上がったが、その犯人の可能性が一番高い被害者と確執があり被害者を虐めていたと思われていたラヴィーリアにはその日ずっと他の生徒達と一緒に居て女子生徒が階段から落ちたと思われる時間にも一人になった様子はないと、他でもないこの国の王子が発言したことによりラヴィーリアが女子生徒を突き落とした可能性は0となった。
では他の者にやらせたのではと言う者も出てきたが、その日その時間帯に一人になった者が階段から落ちた女子生徒以外にはいないことが分かった。そもそもの話、何故その時間に女子生徒がその階段に行ったのかも誰にも分からなかった。
生徒達は犯人探しをしたがったが、大人たちは冷静な目で彼女の死と向き合っていた。
亡くなった女子生徒と仲の良かった男子生徒が泣き叫び、自分の婚約者に向かって
「お前が突き落としたのか?!」
と怒鳴ったが、婚約者である女子生徒は
「わたくしが? どうやってですの? 今日1日ずっと皆と行動していて、その“皆”の中に貴方も居たじゃない?
ねぇ? そんなわたくしがどうやって彼女をあの階段から突き落としたというの?」
そう冷静に返し、その言葉に反論できずに押し黙った男子生徒に女子生徒は呆れたように溜め息を吐いて見せて、
「わたくしを犯人にしたがっている様ですけれど、根本的なことをお聞きしても良いかしら?
わたくしの婚約者である貴方は、亡くなった彼女と、一体どういった関係でしたの?
貴方も理解しているでしょうけど、わたくしと貴方の婚約は親が決めたものでわたくしたちの間に恋愛感情なんてものがないことは互いに知っていることよね?
それで? わたくしが、彼女に、どのような理由で、何をしたと言うのですか?」
男子生徒はただ黙って唇を噛み締めた。
嫉妬した、などと口走れば『自分は死んだ女子生徒と、“婚約者がいる立場にあるにも関わらず”男女の関係に在った』と宣言してしまうことになる。
そもそも嫉妬するような感情さえ持ち合わせていない婚約者に対して、“彼女との関係を邪推して嫉妬したんだろう”なんて言えば、自分は死んだ女子生徒と嫉妬されるような関係にありましたと認めるようなものだ。それが許されることではないことは男子生徒にも分かっているので何も言えなくなってしまった。
死んだ生徒、ルムラからラヴィーリアに嫌がらせをされていると聞いていた。どんどん虐めの内容が酷くなっていると泣きながら相談されていた。
嫉妬に駆られたラヴィーリアがファルグが好意を寄せている女性に悪意を向けているのだと考えていた。親が決めた婚約者だったからファルグにはラヴィーリアを恋愛対象として見ることはできていなかったが、自分に微笑みを向けてくるラヴィーリアからは“当然”男として好かれているのだと思っていた。だから他の女に目を向ける自分に心を掻き乱され、ファルグが目を向けるルムラを憎しみの対象にしているのだと思っていた。そう……信じていた。
だが実際はどうだ。
ラヴィーリアから向けられる目は冷めきっていてその口から紡がれる言葉と声は呆れ返っている。
ラヴィーリアから向けられる微笑みや態度から好意を、ルムラから聞かされる話に嫉妬心を、勝手に読み取っていたがそれが全て違っていたとしたら……
“愛されてもいない婚約者”から嫉妬されていると信じきっていた“勘違い男”の自分、ということになる。
ファルグはそのことに気付いて自分の浅はかさと自惚れを自覚した羞恥に何も言えなくなった。
好きな女性が死んだ絶望と、自惚れから勘違いして親が決めた婚約に傷を作ってしまった事実にファルグはラヴィーリアに対して後ろめたさを覚えて静かになった。
そんな自分の婚約者に対して冷たい視線しか送らないラヴィーリアを見て他の学生たちも、最近耳にしていた『虐め』の話は事実ではないのではないかと思い始めた。
今のラヴィーリアからはファルグに対しての恋愛感情からくる執着心など全く感じ取れない。それどころか若干の嫌悪すら滲み出ている。
婚約者としての立場を理解していない浅はかな相手に向ける態度としては当然かと一部の者は思った。
そんな学生たちがそれぞれに考えている間にも大人たちはそれらに干渉されることなく事実を調べていく。
女子生徒の転落は不慮の事故ということで処理された。




