表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
三日月の綺麗な或る宵の一幕  作者: ただのぎょー


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
35/41

臥待月の衛士。二

 梅お婆さまにはうるさいよと追い返されそうになりました。上での話をして、せめて助言をいただこうと問いましたところ。


「ふん、あの猫の言っていることは間違ってないよ。修行をつけてもらいな」

「ええ、その言っていることが正しいのは分かっているのですが……」


 お顔がよろしくてですね。とも言えません。どうしたものかと思っていると、両の肩を掴まれます。音も気配もなく背後に立った書生姿のヒスイに捕まったのです。


「では連れていくぞ」

「あえー」


 私は持ち上げられるように上へと連れ戻されるのでした。ヒスイは言います。


「まあ、僕がちょっと触れたくらいで集中を乱すようではだめだな」

「そんなこと言われても……」


 私がもじもじと目を逸らすと、ヒスイは私の顎にそっと触れて持ち上げます。


「こういうのが好みかい?」


 そうして悪戯げな笑みを浮かべながら瞳をじっと見つめてきます。

 私は金縛りにあったように動けなくなり、湧き上がる霊力が乱れ散っていくのが分かります。

 くくく、と忍び笑いを漏らされました。


初心うぶなものだ」

「そ、そういうの良くないです! 不純です!」

「仕方あるまい。僕は美形である」


 むう、自信満々にそう言われても困るのですが。はっ、と気づきます。


「そういう能力があるってこと? 傾城けいせい?」

「そうだな。流石に国まで傾けるほどではないがな」

「あ、悪妖であれば討伐しなければなりませんよ」


 ヒスイは肩を竦めます。くっ、そんな仕草すら様になるのです。


「そうは言うが、人をたぶらかす妖なぞごまんといよう」


 まあ、確かにその通りです。神にせよ妖にせよ、それを信じる者の心に最も強く働きかけるものですから。

 今日はここまでにしよう。そう言うとヒスイは猫の姿に戻って、籐籠に潜り込んだのでした。


 さて、翌日はもちろん師範学校です。

 ヒスイにご飯をあげてからいつも通りに向かいます。


「ごきげんよう、みなさん」

「ごきげんよう、茉莉さん」


 そういえば、先日書生姿のヒスイとミルクホールに行った姿は、幸いにも友人たちには目撃されていませんでした。

 しかしどうやら私の知らない先輩に目撃されていたようで、それが私だとバレるのも時間の問題である気もします。

 ただ、今日は話題の中心は別なようで。


「千代さん、昨日の火事は大丈夫でした?」

「ええ、ご心配ありがとうございます。こうして元気ですわ」


 同級生から問われた千代ちゃんは、力こぶを作るような仕草で元気さをあらわします。


「火事があったのですか!?」


 心配げにみながそちらに注目します。


「いえ、もちろん家ではなくてよ?」


 言われてみればそれは当然ですね。昨日に自宅で火事などあったら、小火ぼやであったとしても、きょう学校にくることはできないでしょう。


「私の家は新宿の方なのだけれども、近くの神社で夜遅くに火事があったのよ。すぐに消し止められて被害はなかったのですよ。ちょっと煙とかは流れてきて恐ろしくは感じたのですけどね」

「まあまあ、それは大変でしたのね」

「ねえ。夜に火の手が上がっていて、心配してましたのよ」


 みなさん、口々に文子さんにお声を掛けられます。神田からは火の手は見えませんでし、消防の鐘の音も聞こえませんでした。もちろん寝ていたためというのもあるでしょうけど。

 新宿から比較的近くに住むお友達は知っていたようで、千代ちゃんに無事を尋ねたのでしょう。

 しかし……。何やら嫌な予感がします。私は彼女に近づきました。


「千代ちゃん、大丈夫ですか?」

「ええ、もちろんよ」


 私は彼女の手を取って、意識を鎮めて触れ合う手に意識を集中させます。こういうのは得意ではないのですが……。


「茉莉さん?」


 霊障を探っているのです。千代ちゃんの身体に宿る五行が火と隠の気に傾いています。火事ですから火の気は当然、不安に思われれば隠に偏るのも道理ではあるのですが、自然なそれとは違うようにも思います。

 私は千代ちゃんの手のひらに星を描いて、霊力を込めました。

 隠の気が霧散していきます。


「おまじない? ……あら、本当に疲れが飛んだみたいね」

「良かったです」


 その後の授業中も、ずっと気になっていました。

 夜の神社に普通火の手はありません。もちろん放火する不埒者がいないとも限りませんけども、寺社仏閣での火災は稀な筈です。

 そして私は火にして隠の気の持ち主を良く知っています。

 私の拙い探査でも、千代ちゃんに残っていた気配とそれは似ていたのではないか。そんな予感がするのです。そう思うと居ても立ってもいられなくなり……。


「すいません、先生!」

「どうしました栗橋さん」

「早退させてください!」

「……理由は」

「たっ、体調不良です!」


 先生はじろりと私を睨みつけました。自分で言っていてなんですが、どうみても体調不良ではない。

 ですが、先生は頷いてくださいました。


「栗橋さんは欠席もしている。あまり多いと後に困るよ」

「はい、ご忠告ありがとうございます!」


 そうして私は急いで鞄を掴み、先生と唖然としている友たちに一礼して教室を後にしました。

 しかし、結果的にはその判断は遅かったのです。

 校門には煤汚れた巫女服を羽織り、どこか虚な瞳の桐花ちゃんがいたのですから。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
成敗!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ