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ユグド王国開放戦、その前に。

という訳で、その期間を使って当初の目的だった冬の絶景を見に行く事にした。

その絶景ポイントまではユミル村から山沿いに北へ一日半歩いた所だった。

そこにはなんと真冬の雪山なのに草原が広がっていた……紛れもなく草原だった。草原の周りには雪が積もっている……気温も他と変わらず低い。にもかかわらずそこにはタンポポに似た植物で地面が覆い尽くされていたのだ。

そんな不可思議な光景を眺めていて気付いた事がある。

所々に湯気の様なモノが立ち上っている。それを確認して地面を触ってみると

「あ、地熱か」

「正解。この奥には温泉が湧いているんだよ。その地熱の影響でここは雪が積もらないんだよ。そこに酸性の土壌に強いフユトコスグリと言う植物が生えているんだ。そして今がこの植物の開花の時期なんだよ」


そうアルティに言われて改めて見てみると、たしかに葉を広げる植物の中心から小さな蕾を付けた茎が伸びているモノがちらほら見える。


「これなら三日もすれば満開になるかな。後は気象条件次第!」

という事で、絶景が見えるまでここでキャンプをする事になった。

テントの設営は奥の温泉の脇にする事にしたのだが、その近くには温泉を引き入れた小さな小屋が立っていた。

「誰かが冬でも安心して温泉に入れる様に建てたんだと思うよ」

という小屋の中は隙間風が吹き抜けるが温泉の熱のお陰で十分に暖かかった。これは雪中のキャンプにとってはありがたい。


そこから二日間はかまくらや雪像などを作ったり、フユトコスグリの葉を集めたりして過ごした。アルティ曰く、この葉は傷を癒すだけでなく、湯船に入れれば温泉気分も味わえる入浴剤になるので、意外に人気があるのだとか……

確かに葉の臭いを嗅ぐと、微かに硫黄臭とヨモギの様な臭いがした。

これなら臭いだけでも自然の中の温泉気分が味わえそうだし、都会の喧騒に疲れたテーゼなどの都会の住人になら高値で売れるのも何となく分かる気がした。


そして、三日目の朝。

天気は快晴で無風、絶景が姿を現す絶好の条件だと言う事で放射冷却で凍てつく寒さを感じるなか日の出前から起こされてテントの外でスタンバイする。

初日にアルティが予想した通り、フユトコスグリは赤・黄・オレンジの色の花で満開だったが、その小さな花も今は氷で覆われている。それでも花が氷の重さで折れたり倒れたりしないのは茎が異常に硬いせいだろう。

そして東の空が明るく成り始め、太陽が顔をのぞかせてくると今まで感じなかった甘い香りが辺りを漂い始めた。

「なに? この甘ったるい臭いは……」

「フユトコスグリが出しているんだよ。満開になると一斉に香りが強くなるんだ」

そんな説明を聞いている途中から『ブーン』と虫の羽音が聞こえ始めた。


何も聞かされていなければこの雪山で虫の羽音に疑問を持つ所だが、そう言う事かと納得した。

フユトコスグリはこの甘い香りで、受粉の為の虫を呼び寄せているのだ。満開の時期を見計らって受粉率を上げる自然の知恵だ。


「そしてその受粉を担うのが氷結コガネムシという訳か」

「正解」


話を聞く以前にココに来てから、ちらほら見かけた透き通った氷に覆われたような姿の小さな甲虫だ。その氷の様な外骨格の下は金色の膜で覆われていて反射光が金色に見えるのだ。

そんな事を話している内に、太陽はさらに上り氷の花園全体を照らしだした。


氷花たちはその光を反射して輝き始める……まるでゆらゆらと光る水面の様に足元が光に覆われていく。

時折花の色の光りも混じり綺麗に瞬く星の海に立っている様な錯覚に陥るほどだ……そして星の海に降っては舞い上がる金色に瞬く星の欠片たち。それはどんどん数を増やしやがて自分たちは星に囲まれた。夏夜の光の乱舞にも劣らない幻想的な絶景が目の前に広がっていた。


「まさか、真冬に光の乱舞を見れるとは思わなかった……」

「こんな雪山に来たかいがあったでしょ」

「あぁ、かいがあった」

「レンヤ兄なら絶対そう言うと思った」

目の前に広がる絶景に目を輝かしている自分を見て、二人は満足そうな笑顔を見せる。

それからしばらく、その光景に見とれていた。

そして太陽が全身を現した頃には足元の氷花の光が弱まっていた。

「光が横から入るのがあれだけ反射する条件なのか……」

「そう、だから朝日が昇る時が一番きれいなんだよね。それともう一つ……」

そうアルティが言いかけた時に、どこかで何かが割れる小さな音が聞こえた。

「ん?」

その音は虫の羽音とは明らかに違う、澄んだ音だった。そして音は徐々に至る所から聞こえ始めた。

その音の正体は、足元の氷花が砕ける音だった……今まで花を覆っていた氷がいきなり粉々に砕け散るのだ。なんとも変わった現象だと興味を引かれていると


「いよいよ始まるよ」

それに対して『何が』と聞き返そうとした瞬間

『パキッ!』

とひと際大きな音がしたと思った瞬間、足元から一斉に金色に瞬く星の欠片が舞い上がり、その後を追う様に光の波が押し寄せて来て……そのまま光の海に包まれた。

キラキラと目の前に漂う光の欠片たち……その中を金色の光が潜ってゆく……


その光を手に取ろうと腕を伸ばした時、光の海から地上に返ってきた……

今まで自分達を覆っていた光の欠片が解ける様にして消えたのだ。


ひと時の幻想の余韻から覚めぬまま未だに舞い降り続ける金色の光りを目で追っていた。

そしてそのまま足元に視線を落とすと

『……ああぁ、そう言う事か』と心の中で呟いた……


氷花が全て無くなっていたのだ。

光りの波が押し寄せた様に見えたのは、あの瞬間に一斉に砕けて舞い上がった氷の欠片だったのだ。

今、その花では氷結コガネムシが蜜を舐めている。そこで改めて気付いた事があった。

フユトコスグリの花の中心にもう一つの小さな花が咲いている事に……

どうやら今まで花だと思っていたのは、アジサイと同じようなガクに色が付いた装飾花だった様だ。

その中心にある本当の花の蕾が開花する時に何らかの作用で、邪魔となる氷を砕くのだそうだ。その衝撃でコガネムシが飛び立ち氷の欠片が舞い上がる……


「本当、生命の逞しさには感心してしまうな」

「これでミッションコンプリートだよ」

「レンヤ兄、凄かっただろ」

アルティとカルノスは満面の笑みを浮かべている……本当にいい友人に出会えたよ……

「ああぁ! 最高だった!」


その絶景を堪能した後、ユミル村に戻った。

おそらく、この世界に来て最初となるであろう大冒険に挑戦する為に。

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