王国開放の希望。
その夜、食卓を囲んだのは王弟バンダル、魔術師ディアドラと助手のブリギッド、元戦士長キュアン、そして長老衆のアダン、バール、マナスの三人だった。
バンダルが帰って来た時の自己紹介で
「お前たちはギルを呼び捨てで呼んでいるのだろう? 古き友の友人ならば我らにとっても大切な友人じゃ。儂たちの事も呼び捨てで構わんよ」
という事で多少の抵抗はあったがそれに従う事にした。
そして夕食の歓談のあと、ディアドラが話し始めた。
「我らの王国は今やゴブリンやオーガどもが跋扈する地となってしまった。そしてその地に踏み込もうにも結界のせいで力が削がれてしまい、偵察もままならん状況だ。しかし、今日この者たちが持ってきた魂封の白虹玉のお陰で問題は一気に解決する!」
「それは本当なんだね⁉」
長老衆のマナスが聞き返した。長老衆と言ってもアダン以外は老人ではない。マナスは中年のおばちゃんと言った感じの女性で、バールはキュアンとさほど変わらない位の男性だ。
「ああぁ、本当さ。あの結界は一種の呪いみたいなもんでね。だからこの石で作った首飾りでその効果を無効化出来るはずだよ。そして王国のどこかにある結界の起点にこの石を置けば結界は消え去る……」
話からすると、確かに結界が無くなればドワーフ族は本来の力が発揮できるだろうし、ハイドワーフの力はそれよりも強大なのだろう……しかし
「でも、王国にはまだたくさんの闇の軍団の兵たちが居るんだよね……しかも、昔も圧倒的な数の差が原因で負けたって聞いたけど」
カルノスも同じ事を思った様で、自分の代わりにその疑問をディアドラにぶつけてくれた。
「おや、物知りだね。その通りさ……あの時は敵の数に圧倒された……そして今はこちらの数はあの時の一割にも満たないよ」
やっぱりだ……昨日の酒場での話からすると戦士は殆どが命を落としたのだろう。戦力的にはさらに差が開いているのではないかと思う。
「だけどね、本来あの時もあの程度の戦力差なら負けなかったんだよ」
王国開放に懐疑的な考えを巡らせていた所に、ディアドラから超強気な発言が飛び出した。
「それはどういう事?」
「確かに、ユグド王国は小国だったけどね、その分、防衛の為に魔道ゴーレムを多数配備していたのさ。因みにその魔道ゴーレムを作ったのはあたしだよ」
魔道ゴーレム⁉ それは初耳だった。
ハイドワーフにはそんな技術があったんだ。
ゴーレムとは基本的に無機物、石や土、金属などに精霊が宿り、人型で動くモノを言う。それらを魔法で召喚して操る事も出来るらしいが、どちらも見た事が無かった。
多分、ハイドワーフ達の技術は後者に近い物で、召喚ではなく魔道? まぁ魔法の技術として自分達でゴーレムを作り出したという事なんだろう。
そう思いながらカルノスはどう考えているんだろうと思い目をやると、彼は何故か両手を胸の前で組み合わせて目を輝かせていた……
えっ⁉ どうしたんだ? そう疑問が頭をかすめると同時にカルノスの予想外の反応に無意識に相棒に助けを求めたんだろ、隣に座るアルティに視線が移っていた。
そこで見たのは、
そんなカルノスの姿を見て『うわ~』とあきれた様な声を漏らすアルティだった。
あっ、これは何かあるなと思ったが、思考がまとまる前にカルノスに声を掛けていた。
「カルノスは魔道ゴーレムを知っているのか?」
その問いに待ってましたと言わんばかりに話し出す。
「当然! いいかい、魔道ゴーレムは芸術品なんだよ! 単なるゴーレムの様な品の無いモノじゃないんだ。術者がいなくても自立行動が出来る優れモノ……その反面、魔道ゴーレムの調整は難しく、まともに動くモノを作り出せる魔術師や魔道技師は世界でも数えるほどしか居ないのさ、その一人が今目の前にいる! 俺は幸せだよ~」
これは、変なスイッチが入ってしまった様だと思い、少し引き気味でカルノスを話を聞いているとアルティが飽きれた様な口調で耳打ちして来た
「カルはゴーレムオタクなんだよ」
これは、カルノスの新たな一面を見てしまった。
「お前さんも魔道ゴーレムに興味があるのかい? 魔法使いのようだし、なんならあたしの弟子になるかい?」
「本当ですか⁉」
カルノスがその言葉にすぐに飛びついたが
「ちょっと、お師匠さま⁉ 弟子は私がいるじゃないですか⁉ 私に何か不満でもあるんですか⁉」
と、それに対してディアドラの隣に座っていたブリギッドが焦った表情で抗議しだした。
「はっはっはっ、何言ってるんだいこの子は? 別にクビにしやしないよ。もう一人ぐらいなら弟子を取ってもいいって話だよ。それに、あんたはいつも忙しい忙しいってうるさいからね。助手が増えるのは願ったり叶ったりじゃないか? その方が研究も進むだろ?」
「あっ、そう言う事ならお茶の時間も増えるし、面倒くさい事は任せられるし……今度ともよろしくね、カルノス君!」
「いや……まだ、決めた訳じゃないですけど……」
カルノスはそのやり取りを見て少し冷静さを取り戻した様だった。
「まぁ、急いで答えを出す事もないさ。それに、暫くはあたしも忙しくなるからね。それで、話を戻すけどね、その魔道ゴーレムで闇の軍団も撃退できるはずだったのさ……それが、なぜかあの時いきなり機能を停止してしまったのさ。今考えると、結界の様なもので魔力を遮断されたんだね……それでこの結果さ」
そう言う事だったのか。敵方もちゃんと対策を取っての侵攻だったわけだ。
「でもね、その事もあってゴーレムたちは壊れた訳じゃないんだよ。だから今でも魔力を供給してやれば動くのさ。まぁ、多少壊れていたとしても動き出せば自己修復機能が働き出すからね、問題ないさね」
「でも、その魔力を遮断している結界を解かないとダメなんですよね? それを大軍を相手にしながらやるのは難しいんじゃないのかな」
カルノスが疑問を口にすると
「それは大丈夫だよ。偵察の結果その結界は消えているのは確認済みさ。多分、術者由来の結界だったんだね。そしてその結界を張っていた術者はもう王国にはいない様だしね」
「えっ? 偵察に入ったんですか? 満足に動けないんじゃ自殺行為ですよ」
今まで静かだったアルティが声を上げる。
「大丈夫だ、まったく動けないわけじゃない。それに我々ハイドワーフは全力が出せないと言ってもドワーフ並みの能力は維持できているんだ。だから偵察に行っても十分に動けるんだ。そして今までの偵察結果、王国を占領したほとんどの部隊は撤収していて残っているのは混成部隊の一部隊だけだ」
キュアンが真面目な顔で答えた。その言葉を受けてバルダンが続けた。
「そうだ、元々我らの王国を占拠したのも中央王国を攻める為の足掛かりの一つにする為だったからな。その中央王国も滅んだ今となっては、あの国を抑えておくメリットは殆どない。今残っている部隊も、はぐれ者の集まった盗賊の様なものだ。大方、封印した宝物庫を狙っているんだろう」
「宝物庫?」
「ああぁ、国が落ちる前に、あたしが封印を施したんだよ。それをどうにか解こうと欲深いのが残ったんだろうね。封印を解くにはあそこの太陽石の結晶がないとダメなのに、ご苦労なこった」
ディアドラの視線の先を追うとそこには星の形を象った水晶の様なモノがあった。
星の石に月光石とくれば太陽石があってもおかしくないのにと密かに思っていたが、本当にあったんだな……予想的中だ、などとくだらない事を考えていた。
「すっごい! あんな大きな太陽石の結晶があるんだ……太陽石自体が少ないのに結晶であの大きさなら街一つ買えるんじゃないかな」
「本当だ……しかもアレ、カッティングされてるから元はもっと大きかったんだ……」
その結晶を見てアルティとカルノスが驚きの声を上げる。
おっと、二人のその反応からすると、あの結晶は超レア物って事ですね……だから今まで見た事なかったのか。
「自分たちの採ってきた星の石の結晶より遥かに大きいもんな」
自分も二人の反応に乗っておいた。
「あの鉱脈で一番大きな星の結晶でも、あの半分くらいの大きさじゃないかな」
「おや? なんだいお前さん達、星の石の鉱脈持ちなのかい? 見た目は若いけどもしかして優秀な冒険者なのかい? まぁ、あの太陽石の結晶は特別なモノさ。地底に王国を築いた我らハイドワーフ族にエーテリオン様から送られたモノじゃからの。あの石の輝きが五〇年前に消えた時から王国の滅亡は始まったのかもしれんがね」
「そんな重要な役割があったんですか?」
「地底の太陽と言われた重要なもんだったよ。昔はオレンジ色の光を放ち続け、その光は王国の道を通って国中に建てられた太陽石を含んだ柱に光を与えていたんだよ。その光は太陽と同じように熱を持ち、地底に恵みをもたらしていたんだ。それはまた闇に住むモノを弱体化させる力もあってね、まさに王国の繁栄の支えになっていたのさ」
「それだと、石に光が戻らないなら、王国を取り戻しても行きつく先は同じになるんじゃないんですか?」
今の話からすると、太陽石の結晶に光が戻らないと地底の王国は豊かさを取り戻せない事になる。つまりそのままでは国を取り戻しても今度は自ら国を捨てる事になるのではないか? 国はあれど住む者がいない廃墟……そんな未来しかない国を危険を冒してまで取り返す意味があるのだろうか? そう思うのは普通だろう。
「そう思うのは当然だね。お前さんの言う通りこのまま王国を取り返しても昔の様な国は戻ってこない。昔の様な栄光を王国に取り戻すには太陽石に光を取り戻す事も必要なんだ。だからあたしらは光が失われてからずっと調べていたんだよ。そして一〇年前、遂に謎が解けたのさ。結論から言えば単純に太陽の光を浴びていなかったのが原因だね。これは星の石や月光石と同じ原理だよ。この結晶も基本は太陽の光を吸収して光っていたのさ。ただ他の石たちと違ったのは、地脈や魔力も利用して光るがより太陽の光こそが重要だったのさ。つまり光が失われた一番の原因は内部に溜め込んでいた光を全て使い果たしてしまったのさ……という事はつまり再び太陽の下で光を溜めれば光は戻ると言う訳さね」
ディアドラの力説だった。その横でブリジットも随分苦労しましたと言いながら大きく頷いている。
太陽石の理屈は理解できたけど、そんな単純な事だったのかと思ったけど、これは言ってはいけない事だと判断して黙っておいた。
まぁ、そこに昔から在り続け、いつの間にかそれが普遍的になってしまうとその本当の意味を見失うのは世の常かもしれない……歴史からの教訓だね。
そして一通りの話を聞き終わってから、ディアドラからある提案をされた。
それは、この作戦を冒険者として手伝ってほしいという事だった。報酬は一人一〇〇万リオン、更にもし成功したら追加報酬も出すと言う破格の条件だったがその分危険も大きい……
いま王国を占拠している敵の数は一〇〇〇近いという事だった。その構成は大半がゴブリンで他にはホブゴブリン、オーガとオーク、それにグレムリンと餓鬼がいるらしい。
それに対してこちらは、魂封の白虹玉から結界を無効化する首飾りがどれだけ作れるかで決まるという事なのだが……二本あるうちの一本は結界破壊用に、残り一本もまずは魔道ゴーレムなどへの魔力供給用の魔法石の結界用に加工して、その残りを首飾りにするという事で数に限りがある。その為、結界の影響を受けない自分たちの協力が欲しいと言うのだ。
ただし、一〇〇〇近い敵と正面切って戦う訳じゃない。
まずは魔道ゴーレム復活の為に魔法動力を生み出す動力室を確保するのだ。その動力室は幸いな事に王国から見ると最奥の施設、つまりこの村から見ると一番近い位置にあるらしいのだ。そこまで辿り着けば魔道ゴーレムを起動でき防衛システムが作動して十分、敵と渡り合えると言うのだ。
そんな訳で、その作戦を聞き三人で話し合った結果、リスクは高いけど成功する可能性も十分あると言う結論が出たのでこの依頼を受ける事にした。
個人的に自分はこの依頼は受けたい気持ちだったのでホッとしている。
と言うのも敵の兵は劣化種族が元なのだ。魔族グレムリンと餓鬼にゴブリンは知性の低い好戦的な原種族だけど、ホブゴブリンは妖精族ノッカーの変異、オークが魔族コボルトの変異、そしてオーガがドワーフ族の変異である。それぞれの変異体が繁殖して社会を形成するまでに増えた種族たちがこの闇の軍団の主な構成部隊の正体だ。
では何故変異体がそこまで繁殖できるのか、それには仮説がある。正常な生命体は生命エネルギーの劣化によりモンスター化&繫殖能力の低下が起こるが、変異種は元々生命エネルギーが劣化した状態の為、同種の変異体が増える分にはまだ生命エネルギーに余裕があると言う物だ。ただその分、知能を始めとする各能力は第一世代に比べれば大分弱まっているので相対しやすい。
この様な変異種にも自分達の影響は及ぶのだろうか? と言う単純な疑問があったのだ。
「これは意外な所でデータが取れそうだけど……そう言えば以前賢者様が言っていた西の洞窟って、これの事だったのか? まぁこれで更に有益なデータが取れれば自分の悩みも解消されるかも知れないし、頑張らないとな」
そんな覚悟を胸にクエストに挑むと決意をしたのだが、そんなはやる気持ちを余所にディアドラからは、これから準備の為に二週間ほどかかると言われたのだった。
そんな訳でしばらくこの村で待機する事になった。




