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ドワーフ村での急展開。

それから二ヶ月ほどはクエストに明け暮れた。エヴァン村との街道が正常化した事で採取クエストの依頼が一気に増えたのもあるが、実りの秋を迎えて単純に忙しくなったのもある。


森にはこの時期にしか取れない貴重なモノが多い。


そして暫くすると一気に気温が下がり短いながらも冬が訪れる。この村には雪が積もる事は少ない様だが、朝晩は霜が降りる為に草木は葉を落とし春を待つ種が多い様だ。

この冬の時期に、村では収穫した植物などを使って貴重な薬やポーションを造り貯めするのだ。それが村の収入源となる特産品になる。

アルティとカルノスは狩りや採取したモノは食糧調達以外は売り物が殆どで、自ら加工することは少ない。だから獲物が極端に少なくなり、しかも貴重なモノも特にない冬の時期は狩りや採取も休みの日が多くなる。

つまり三人とも今は暇を持て余す日が増えているのだった。

 

 本来アルティは実家の皮道具店の仕事を手伝うらしいのだが、交易路の復活で注文が増え、従業員を雇った為に免除になったと言っていた。

 

 「今年は三人で随分頑張ったからね。一級の素材が大量に手に入ったから注文が増えたんだよ」

 と嬉しそうに話していた。親孝行をしている様で、そのくせ実家ではなく自分達と暮らす親不孝者である……

 だから、あの店に行くといつも親父さんに睨まれるのだ……その割には毎回おまけしてくれるだけど……

 カルノスの方は、毎年アルティの手伝いさせられるか、本と共に引き籠るのが恒例らしい。


そして自分は、暇を持て余し暖炉用のマキ割に勤しみ過ぎて、いつの間にかマキ売りの真似までしていた。

別にお金を稼ごうとした訳ではない。この九ヶ月で二〇〇万リオンほど、日本円で四〇〇〇万くらい貯めた……だから積極的に金儲けをする必要性は感じていない。暇な時期だから、どこか遠出するのもいいかもしれないと考えているのだけど……

その理由の一つが、元々の任務だ。

やはり予想していた通り、アンデッド退治以降モンスターとの戦闘は殆どなかった。

既にエヴァン村の人々の魂の補修は完了したという事で新たなデータが取れていない事になる。それに、戦闘時のデータが集まっていない。今までいろいろなクエストをこなし色々なモンスターを倒したが種類も数も少なかった。それに出来ればモンスター化した種族とのデータが欲しい所だ。アンデッドは変異種ではないが予想以上の効果があった。そうなると変異種との戦闘でのデータが気になると言うのは自然の流れではないだろうか。倒す事による魂の補修はアンデット戦から予測できるが、戦闘中や近くに居る事による影響はどうなんだろうか。

もしかしたら、モンスター化から元の状態に戻ったりするのではないのか? もしも自分達の存在がそこまでの影響力を持っているならその存在意義の重要性は格段に上がる……。

それは、多分自分の生き方まで変えてしまう様なモノになってしまう気がしているのだ。

本当ならこのまま気ままに暮らしたい……

しかし、もし……


自分はそこまで考えて、そしてそれ以上考える事を止めた。


何故なら現時点では答えが出ないからで、そこをグダグダ考えても時間の無駄だという事を既に知っているからだ。結局、その時にならなければ分からない。

今は、色々な可能性がある事を覚悟しておくだけで十分だ。意外とその時が来たらどうにかなるモノだから。


かといって、準備をするなという訳ではないし、何らかの対策を練るのも個人の自由だ。

だから自分も何かしてみようと思う……余計な事を考えなくて済む様に! 

という訳で、この時期を使ってドワーフの『ユミル村』に行く事にした。

放置していた白い石の正体を調べるのと、もう一つ、こちらが目的なのだが、この時期に山で見られると言う氷花と氷結コガネムシを見に行いくのだ。


「ちょっと寒いけど、絶対レン兄は気に入ると思うよ」

「……ちょっとどころじゃないと思うけど。でも綺麗な光景だよ」

と言う様に二人がオススメするので行く事にしたのだ。


その場所に向かうにはユミル村を通るというので、それならついでにと言う事で、ギルに紹介状を書いてもらった。

ユミル村までは、エヴァン村から西の山脈へ三日歩くと着く。初の雪山での野営に不安を感じていたが道具屋で新たに購入した耐寒テントと寝袋のお陰で問題なく過ごせた。

道中、寒さ以外は常に坂道なのが辛かったくらいで、戦闘になる様な事もこれと言ったアクシデントもなくユミル村に到着してしまった。


この村にはドワーフ族が一〇〇人ほど住んでいると聞いていたが、人間もちらほらと見受けられる。

「人も住んでいるんだ」

「殆どが職人だよ。修行に来た人達からそのまま住み着いた人とか」

「それより、早く宿屋へ行こうよ! 寒すぎる……」


カルノスが寒さに震えながら訴えてくる。既に日は落ち一気に気温が下がってきたので急いで村の中心部にある宿屋に向かった。エヴァン村とは交流が盛んなので何度か来た事のある二人は迷う事無く先を進む。

そして宿屋に部屋をとり、一階の酒場で食事をしていると次から次へと声がかけられた。アルティとカルノスがこの村に来るのも数年ぶりだったのもある様だけど、大半は渡界者の子孫である言う自分の噂がここまで届いていたらしく、物珍しさで集まってきた様だった。それがいつの間にか自分達を囲んでの大宴会になっていた。


「お前さん達、ディアドラ様に会いに来たんじゃって?」

「そうだよ。俺もアルも会った事ないんだけど、どんな人なの?」

「いたって普通の方じゃよ。ただ魔術の研究に没頭しておられるから滅多にお目にかからないけどな」

「そうそう。外に出るのは魔術研究の旅くらいだと聞いたぞ」

「まぁ、あまりこの辺りに顔をお出しにならないのは皆様同じじゃけどな」

「皆様って、ハイドワーフの人達? この村には何人か住んでいるんだよね? ギルに聞いたけど」

「あぁ、そうじゃよ。ココに居るハイドワーフ族の方々は我々ドワーフ族からすると貴族にあたり、その中には王族の方もおられる。ギル様もその一人じゃ」

「しかし、我らの王国は一五年前に滅んだ……軍事同盟の一つスツルテに唆された闇の軍団によってな!」


そう言って一人のドワーフが『バンッ』とテーブルを思いっきり拳で叩いた。


「あ、あぁ、その話は知ってる。それでここに村を作ったんだよね……」

カルノスがちょっとばつが悪そうに言った。どうやらここのドワーフには辛い話題に入ってしまった様だ。

「あの時はどうしようもなかった。歴戦の戦士たるハイドワーフの王侯貴族の方々でも……我らドワーフ族も必死に戦ったが、数が違い過ぎた。その戦いで王も騎士団長も近衛騎士団の方々も亡くなられた……」

「そして我らは王の最後の言葉にしたがい、この地に逃げて来たんじゃ……いつか我らが国を再興する為にな……」

「しかし、王弟バンダル様も戦士長だったキュアン様も責任を感じとってな……国を奪われた者が敬われるのは憚られると引き込まれてな。北の館から殆ど出てこられんのじゃ」


その後も、ドワーフ達はいろいろ話をしてくれた。アルティとカルノスの二人も初めて聞く話が殆どだったようだ。

この村は元々、王国の砦の一つだった事、王国に戻りたくても結界によりドワーフ族の力が半減してしまう事、その為地底の王国の今の状況がまったく分からない事、この村に避難できたハイドワーフ族は六人しかいない事、戦乱以前に世界のドワーフ三王国に異変が起こり加護の光が失われた事などだった。


このユミル村のドワーフ達はいつか王国を取り戻そうとしている戦士の村だった。

その後は『辛気臭い話は止めだ!』と宴会が再開され、それに付き合った自分達がベッドに入った頃には夜が大分更けていた。


という訳で、翌日は三人とも昼前まで寝ていた。


本当は昼前にディアドラさんを訪ねる予定だったのが大分ズレてしまった。

この村の建物は砦だった名残か、石造りのモノが多く城壁や見張り台もある。そんな村の北のはずれにひと際大きい石塀で囲まれた木造の建物があった。これが昨日も話に出てきたハイドワーフ族の住まい『北の館』だ。


館は塀に囲まれていても門が無かったのでそのまま敷地に入った。すると


「ココに何の用だ」

ドワーフらしいぶっきらぼうな口調で声をかけられた。

そちらに目を向けると敷地内の畑で今まで作業中だったであろうハイドワーフが立っていた。

「僕たち、ギルの紹介でディアドラさんに会いに来たんです」

アルティが答えると、そのハイドワーフはさっきまでの不愛想な表情が嘘の様な笑みを浮かべて

「ギル叔父の知り合いか! 叔父は元気か?」

「あなたがキュアンさんですか?」

「おう、そうだ」

「これ、ギルからの紹介状です」


この人がギルの言っていた甥のキュアンさんか……昨日の話の中でも出てきた戦士長だった人だ。


「おおぉ、そうか。まぁ立ち話もなんだ、中に入れ」

キュアンに連れられて館の中に入り、応接間に通された。内部は華美な装飾はなかったが家具や柱などにドワーフの職人によると思われる彫刻が施されていた。

自分達が椅子に座るとすぐに紅茶が出された。どうやらこの館では人族のメイドを雇っている様だ。そしてもう一人、人族の若い女性が現れた。


「あら、キュアンさんにお客さんですか? 珍しいですね」

「おっ、ちょうど良かった。ディアドラ婆様にギルの紹介で客が来ていると伝えてくれ。何やら見てもらいたいアイテムがあるそうだ」

「分かりました。少々お待ちくださいね」

「今の人は?」

メイドと言う雰囲気でもなかったので興味本位で聞いてみた。

「あぁ、アレはディアドラ婆様の助手のブリギッドだ。いろいろ教わっとる様だが、慌て者でな。よく失敗しとる」

自分のイメージとしてはドワーフ族全般に魔法が苦手な感じだったけど、助手まで付けて魔法の探求とは、この世界のハイドワーフ族は魔法に堪能なのかも、と考えていると

「わざわざギルの紹介であたしに会いに来たって言う客は誰だい」

そう言って部屋に入ってきたのは、玉ねぎ頭のずんぐりとしたゴツイ老婆だった。


「婆様、こっちの三人だ」

「おやおや、これは可愛らしいお客さんじゃ」


そこで自己紹介と、一通りの説明をしてあの白い石を見せた。

ディアドラさんはその石を見るなり目を大きく見開いてまじまじと見つめた後に、木の枝の様なモノを取り出して、白い石に触れた。

するとその枝の様なモノが『パキッ』と音を立てて真っ二つに裂けた。そして、ディアドラさんは無言で持った枝を見つめたまま固まっていた。

その場にいる全員がディアドラさんを見つめ反応を待っていたが、反応が無い

するとキュアンさんが痺れを切らして声を上げた。

「婆様! どうしたんだ? さっきのは一体なんだったんだ? その石は何だ?」

それでもしばらく沈黙が続いた……もしかして何か魔法にでもかかってしまったのかと心配し始めた頃、今度は急に大声で叫んだ。

「これだよ! これならイケる! 坊や達! これをあたしに売っておくれ!」

あまりの急な事にみんなが驚いていると


「これで王国への扉が開くよ!」

「本当か⁉ 婆様⁉」

「本当ですか⁉ お師匠さま⁉」

今度はキュアンさんとブリギッドさんの二人が大声を出して立ち上がった。

自分達三人は事情が分からず困惑するしかなかった。

「あ、あの……何の話をしているんですか?」

おずおず聞いた自分に対してディアドラさんが我に返ったのか

「あぁ、すまないね。年甲斐もなく興奮してしまったよ」

「い、いえ……お気になさらずに」

「まず、この石はね、魂封の白虹玉と言う超ド級のレアアイテムだよ。条件は不明なんだけど、何らかの条件が重なった時にアンデッドからドロップする宝石でね、あらゆる呪いを無効にする効果があると言われているのさ。冥府の玉骨と同じ様にアンデッドに絶大の効果もあるらしいけどね。重要なのは呪い無効化の方で、さっきの枝は呪魂木と言ってね、戦場などに生える呪われた木の枝なのさ。その呪いが一瞬で霧散した……こんな強力な解呪の力は見た事がないね」

「そうなんですね」

と言ってみたが、呪いの無効化か……そんなに凄い効果なのか、いまいちピンと来ない。アルティとカルノスに目をやると二人とも同じことを思ったのか微妙な笑みを浮かべていた。

という事でお互い目で合図しあい売る事に決まった。

「売っても良いですよ」

「本当かい⁉」

「えぇ、ただ先ほどの王国の扉が開くとかの話を聞いても良いですか?」

「あぁ、それは構わんよ……それより、バンダルはまだ戻らんのかい?」

「バンダル様なら夕刻にはお戻りになるはずだ」

「そうかい、なら、お前さん達。今日はココに泊まっておいき。夕食にはみんな揃うからね、そこで話す方が一回で済んで楽だよ」


当然自分達には断る理由もなく、その提案を受ける事にした。

そう言えば、もう一つ大事な事を聞いてなかった。

「それで、どの位で買ってもらえるんですか?」

「そうだね、二本で一〇〇〇万リオンでどうだい?」

あまりの予想外の金額に三人とも一瞬固まってしまったが、次の瞬間ハモっていた。

「「「売りました!」」」と。

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