とんでもない初体験。
さっきの戦闘が一段落して、他のメンバーと合流して間もなく第二のアンデッド集団に遭遇した。
と言うよりは呼び寄せたのだろうけど……夕闇の中、更に七〇体近く押し寄せてきた。しかも案の定、ヘルハウンド五体にスペクターバット八体のおまけ付きだった。
「既に日は沈みアンデッド達は活発化……こちらは連戦と」
「何弱気な事言ってるんだ、エリア」
「冷静な状況把握だ。それより、コカトリスを倒してくれて有難うな」
「仲間なんだから礼なんていらないだろ?」
「いや、あれは本当にヤバかったからな」
「それなら、これが終わってからじゃないか」
「確かにそうだな……また混戦になるぞ!」
そんなエリアとのやり取りの通り本日第二戦目も大混戦になった。アンデッド達は数に物言わせて突進して来るし、スペクターバットが空から襲いかかって来る。
この二面攻撃は思った以上に厄介だった……確かに、これならキャラバンが壊滅したのも頷けるかもな……
しかし、この戦闘では今まで支援に回っていたカルノスが大暴れしてくれていた。
アンデッドを魔法で倒すには聖属性で浄化するか火属性で灰にするしかない。それは下級のゾンビでも同じだ。だから今までは移動阻害で支援に回っていたのだけど、今回は別の手段で支援……いや、攻撃していた。
それは、遠距離広範囲の地と水属性魔法で破壊するのだ。
一度破壊されたアンデッドは三分位で再生するのだが、その間は完全に行動不能になると言う特性を利用しての足止め攻撃だった。
普通に破壊されたアンデッドは七割方再生してからじゃないと武器では倒せないのが難点なのだが……それと言うのも、再生前ではダメージが通らず、再生途中だとまた破壊状態に戻るだけで倒せないと言う変わった特性も持っていた。
それでもこちらの戦法の方が多くの敵をまとめて一時的でも行動不能に出来るし、敵の数的にこれが最終戦になるとの目算からの出し惜しみナシの攻撃だった。
逆に、今までメイスを片手に暴れ回っていたレミィは、コプールと共に回復の支援に徹していてくれた。
そんなレミィの代りという訳でもないのだろうが、ドワーフのファバルが片手斧の二刀流でアンデッドの群れに飛び込んで暴れまわっている。
その手に持つ薄らと燐光を放つ斧はアンデッドを面白い様に灰へと変えていた。
そして、アルティとレスターのハンターコンビが飛び回るスペクターバットを次々と射落としていた。その間に残りのメンバーがアンデッド達とヘルハウンドの相手にする。
大混戦とは言ってもこちらが優位に戦闘を進めるそんな中、自分はある初体験をする事になった……
それは、腕チョンパされるという体験をだ……
自分はその時、スケルトンとヘルハウンドの二体を相手にしていたのだが、スケルトンを倒した時に村正をヘルハウンドに咬み止められてしまった。
そこに別のスケルトンが切りかかってきたのでその斬撃を思わず左手の籠手で受けてしまったのだ。
しかし、そこまでは良かったのだ。その後ろにもう一体スケルトンが隠れていなければ……
死角から現れたスケルトンの一撃に、一瞬どう対処するか迷っている間に最初のスケルトンの斬撃を止めていた左腕の肘から先がスパッと斬られたのだ。
その瞬間は何が起こったのか分からなかったと言うか、思考が追いつかず混乱した。
しかしすぐに左腕に激痛が走り、混乱しながらも腕を斬られた事を理解した。
その激痛と腕を切られた恐怖に右手の村正も放してしまった……
「くっ!」
ただ不思議な事に、激痛にも関わらず発した言葉はそれだけで泣き叫ぶ事もしなかった。痛みにも切れた腕から噴き出る血にも動揺しているはずなのに何故かうずくまる事も立ち止まる事もまして逃げる事もせず、そのまま戦闘を続けた自分がいた……
いや、むしろ無意識に続けていたという感覚の方が正しいかもしれない。
腕が無いのも理解し死ぬかもと思いつつも、痛みや恐怖で身体が動かなくなる事もなく戦い続けていた。
多分この世界で色々なモノを斬り、その状況を自分に置き換えて想像していたのが意識の暴走を抑えたのかもしれない……いずれ自分もこんな風に斬られるんじゃないかと……
実際にこの時は激痛に耐えつつ混乱する頭の奥で
「あぁ~あ、腕飛んだなぁ。ポーションで治るかな~」
なんて事をぼんやり考えながら敵に相対していたのだ。
その後の状況はと言うと、左腕で受け止めていた敵の刃は、その支えを失い持ち主のスケルトンと共に前のめりに倒れ込んだ。
だたし、そこには自分の腕を切り落とした別のスケルトンの剣があった。
それは自分が思わず放してしまった村正を咥えていたヘルハウンドも同じだった。
そのヘルハウンドは自分が村正を離した事で好機と思ったのかそのまま、まっすぐ前方に突進して来たのだ。そこにバランスを崩して倒れ込んで来たスケルトンとぶつかりその場でもつれ込んで倒れた。
自分は村正を離すと同時に一歩引いて半身になっていたのでその衝突に巻き込まれる事なく躱せた。
そして空いた右手を腰に回しもう一本の愛刀、吉光に手をかける。
そのまま吉光を鞘から抜き様に一歩踏み込み、仲間に覆いかぶされて剣を起こせないスケルトンの首を撥ねた。
その直後、体制を立て直して飛び掛かってきたヘルハウンドには、身を屈めて下から切り上げてこれまた首を撥ね飛ばしてやり、そのまま残りのスケルトンと向き合う。
「残りは起き上がってきたスケルトン、とその後方にゾンビ2体か……はっはっ、なんか笑えてくるね、腕落とされたのになんか平気になって来たかもしれん……」
頭も左腕も感覚が麻痺しているのを感じる。いつの間にか痛みを感じなくなっていると言うか、全身がフワフワとした変な感じになっているのだけど、取り敢えずは目の前のスケルトンを倒さないと、と思い吉光を袈裟きりに振り下ろしたのだが……
そこで本日二度目の初体験をした。
突進して来るスケルトンに対してタイミングを合わせてこちらは吉光を一振りした……それだけだったはずなのに、どういう訳か袈裟切りした瞬間に軌跡に沿って三日月状の何かが飛び出たのだ。
それは吉光で真っ二つにされたスケルトンを超えてそのまま飛び続け、舞い落ちる木の葉を粉砕しながら後方のゾンビ達に向かって行った。その速さはアルティの矢に匹敵する程であっという間にゾンビに届いた。そしてなんと前後で並んでいた二体を切り裂いてしまったのだ。
「これは、ゲームとかではお馴染みの剣圧での遠距離攻撃……?」
自分でも予想外の攻撃に一瞬茫然としてしまった。
本来自分が習得できないはずの魔力スキル『刀閃』の獲得であった。
正直、この時は自分自身このスキルに驚き興奮もしたが、すぐに我に返り取り敢えず敵を殲滅して無事にこの危機を脱した事にホッとした。
が、そんな余韻にゆっくり浸っている場合ではなかった! 魔力スキル習得は確かに凄い事だったがもっとヤバい事が自分自身に現在進行中で起こっている最中だ。
そう思い改めて左腕を見ると肘から先は無く血が流れ続けていた。
今ではもう痛いのが分からない位に感覚が麻痺していたが、洒落にならない出血に今更焦りを感じ出した。それになんか眩暈を感じるし悪寒もする気がする。
「これは、ヤバいか……急がないと」
直ぐに腰のポーチから高級治癒ポーションを探り出す。そして周囲を確認して切り落とされた左腕を拾い上げる。これが無いと大変な事になる。幸い土で汚れているがそれ以外はキレイな物だった。
それから高級治癒ポーションを飲み、切り落とされた左腕を元の切り口に合わせてみた。
するとポーションの効果が出始め傷口が淡く光り始めた。
「まさかこんなに早く試す事になるとはね……おおぉ~、すげ~!」
その光を見てるうちに自分の切り落とされた腕の傷がみるみる塞がり、そして腕の感覚が戻り始めあっという間に再生してしまったのだった。
「これは、今後冒険の時には高級治癒ポーションが必須だな……」
話には聞いていたが、上級の治癒ポーションの再生能力は凄まじく、ぼろぼろのぐちゃぐちゃでも『モノ』が在りさえすれば元通りに再生するらしいのだ。当然暫くは後遺症が残り思う様には動かないのだけどそれもしばらくすれば治る。
但し切り離された肉体は一日以上経過すると再生できないと言う事で、戦闘で負傷した場合は最優先の回収対象になると言う事だった。
今回その重要性を実感できた。
まぁ仕組みは不明だが、取り敢えず異世界人の自分にもポーションによる再生が効く様で安心した。
そして腕も再生して吉光を戻して落ちていた村正を拾い上げ回復ポーションで体力も戻ったので、次の獲物を求めて周辺を探索し始めた時にはほぼ戦闘は終了していた。
今回も犠牲者ゼロの大勝利である!
「これで殆どのアンデッドは退治できたんじゃないか」
自分がみんなの元に合流するとエリアが話しかけてきた。
「そうだな。今日だけで一〇〇体以上は倒しただろうから、もし残っていても大した数は居ないと思う」
「よし、今日はココをキャンプ地とする!」
流石に疲れたのかアルティとカルノスも木にもたれ掛かり座り込んでいたが、自分を見つけると笑顔で手を振ってきた。
そしてお互いの戦果を報告しながらキャンプの準備を進める。
そこで自分が腕チョンパされた事を話すと随分心配された。どうやら二人にもその経験は無かった様で、その話を聞いたカルノスは
「もう冒険者としては俺たちと同じかもね。死線を超えた冒険者は一気に強くなるから。レンヤ兄も相当ポイント増えたんじゃない?」
「冒険者ポイントか? ……本当だ、凄い増えてる⁉」
「不利な状況で、それを打破するとボーナスポイントが付くんだよ。今回、レン兄はコカトリスも倒しているからね。もう立派な冒険者だよ」
立派な冒険者か……確かに初めて本気の命のやり取りをした気がする。
生きるか死ぬかの戦闘、そして腕が切り落とされるとか、まさに異世界体験!
……でもそれらは全て実体験したもので、その感覚はリアルだった。
この体験が、それまで自分の中に微かに残っていたゲーム感覚的なモノをすべて消し去り、ようやく体の中の歯車がかみ合い回り出したのを感じた。
そして自分がこの世界で生きていく本当の強さを手に入れた確かな実感があった。
暫くして落ち着きを取り戻した時には、辺りから虫の声が聞こえ始めていた事に気が付いた。まだ昼間は日差しが強いが、日本の様に確実に季節が移り始めているのが分かる。そんな虫の音に耳を傾けていると、すこし涼しくなり始めたそよ風に乗せて、目の前を月光綿毛草の綿毛が黄金色の光を発しながら飛んで行くのが見えた……
この自然も神秘的な光景もすべてが現実なのである。
「これが今の自分の現実なんだな……」
そう独り言を呟いて眠りに落ちていく。
そう言えばこちらに来てから全然向こうの夢見ないな、それに、賢者様も……何も言って……こない……の……は……
『半年、お疲れ様』
『あれ? 賢者様? どうしてここに?』
『半年たったから、その連絡』
『そうですか。調査結果の方はどうですか?』
『順調、特に今回のクエストは有意義だった』
『どういう風に? と聞いても大丈夫ですか?』
『アンデッド化した者の魂もあなたに倒される事で八割以上補修された。他の者が倒してもあなたの影響範囲内であれば七割程度の補修も確認できた。更に、モンスター達の魂も差は大きいが補修が確認された。日々の生活の中での影響は小さい物であるが、戦闘による魂のやり取りではその影響は著しく増大する事が分かった。』
『それは良かった。でもそれって戦闘を多くこなす方が良いって事になるのでは……』
『効率を考えるとそうなる。でも、渡界者との契約はこの世界での行動は本人の意思に任せる。この原則は変わらない。』
『そうだったな。それならそこ置いといて、戦闘で自分が直接倒さなくても魂の補修効果があるのはこの先の選択肢がふえるな。自分一人では限界があるし。でもこれってもしかしてパーティー効果なのか?』
『そこは確定しない。でも、戦闘においてはその可能性が高い。だから今後もパーティーでのクエストをオススメ。』
そうなのだ、元々パーティーを組めばクエストでの冒険者ポイント自体はメンバー全員と共有される。攻撃に参加せずとも討伐ポイントなどの様々なポイントが付くのだ。だからもしかしたらと考えていた。同じパーティーなら能力が仲間にも影響するんじゃないかと。だからこの事実はとても有益な情報だった。
『そうか。するとなるべくパーティープレイをする方が良いのか……あれ? 戦闘においては?』
『そう、渡界者は生活の中で周囲の魂に干渉すると話したが、この半年の観察で数百メートルの生活圏内で生物の魂に干渉する事が分かった。そして既にエヴァン村の人々の魂は全て補修が終わっている』
『えっ⁉ 補修が終わっている?』
『そう。終わっている。元々小さな村で人口も少なかった。それに村人とあなたとの接触機会が高かった事が影響していると思われる。』
『確かに、少しでも影響があればとなるべく多くの人に会う様に歩き回っていたけど、影響範囲が数百メートルあるならそこまで頻繁に出歩かなくてもいいか。もしかして一緒に住んでいるアルティやカルノス達はもっと早く補修されていた?』
『ほぼ毎日合っていた人たちの魂は三ヶ月ほどで完了していた』
『三ヶ月か……これが基準になるのか』
『ただし、あなたの体調によって影響範囲も強さも左右される事は忘れないで。』
『了解しました。今回のクエストがいろんな意味で有益だったのは良かった。今後も戦闘でのデータを提供したいところだけど、暫くは無理かな、エヴァン村を拠点にしている限りこんな規模の戦闘はないかもしれませんよ。』
『……西の山の洞窟。最後に、戦闘跡にお宝が落ちてる。では、また半年後に……』
『洞窟? そこに何が……、あとお宝って? ……賢者様~……』
……
…………
「レン兄、起きて、交代の時間だよ」
「賢者様……交代……?」
「寝ぼけてるね。僕は賢者様じゃないよ」
「……アルティか……ああぁ、交代時間ね、了解」
もう朝日が昇り辺りは明るかった。夢か……
「アルティ、昨日倒したモンスターの中にレアアイテム落とすヤツなんて居た?」
「んん~、コカトリスは当然として……本当に極稀にゾンビとスケルトンが『冥府の玉骨』て言うのを落とすらしいけど、僕も見たことないし見つけたって人にもあった事ないよ」
「それって特別な効果があるの?」
「それを素材にした武器はアンデッドやホーント系に絶大な効果があるらしいよ。ナイフですら下級なら一撃とか聞いた事あるけど……探しに行くの?」
「巡回がてらね。それにコカトリスの爪と遺品も探さないと」
「なら、僕も付いて行くよ。もう見張りなら二人いれば大丈夫だと思うし、行って来ていいよね?」
そう言って一緒に見張りに立っているデミュールとリデルに確認を取る。二人は行って来いとばかりに手を振り、デミュールは遺品回収用の麻袋を投げてよこした。
「その中に、特定できそうな遺品入れて来てー」
「了解。じゃぁ行こうかレン兄」
昨日の戦場にはアンデッドの死体はない。みんな崩れ去ったのだ。
残るのはヘルハウンドとスペクターバットにコカトリスの死体だけだ。ただヘルハウンドは半分魔物らしく死体は太陽の光が当たると灰になってしまうのだ。だから日が高く昇れば消えてしまうのでその前に牙を回収する。
次にコカトリスだ。コカトリスの毒袋は高価なのだが倒してから時間が経ち過ぎていてもう取り出せなかった。それでも爪と尻尾の棘、羽を回収できた。これだけでも相当な額になるはずだ。
後は元人間だったアンデッド達の遺品回収が。
スケルトンが持っていた武器やゾンビが身に付けていた装飾品などがそこら中に落ちている。それらを袋の中に詰めていく……これは故人を特定する重要な手がかりになり、一度冒険者ギルドに預けられ、選別後にリスト化されて各地の冒険者ギルドに渡される。そして世界各国のあらゆる都市で開示されると言う仕組みらしい。
行方不明者の家族はその情報を手掛かりとして探すシステムだ。そんな事で遺品回収も冒険者の重要な仕事の一つになっている。
そんな中、遺品回収がてら夢で賢者様が言っていたお宝なるモノを探していたのだけど、コカトリスの死体の傍で変わったモノを見つけた。
それは透明感のある白い棒だった。手に持つとずっしりとした重さがある、骨と言うよりは石の様だ。それが二本も落ちていた。綺麗でツルツルして手触りも良かったので取り敢えず腰のポーチに差し込んでおいた。
二時間ほど探索しただろうか、遺品も回収し終わりキャンプに戻る事にした。
「レン兄、お宝見つけられた?」
「おう、見つけたぞ。これ、綺麗な石の様なモノ。何かわかる?」
「本当だ、綺麗だね。真珠みたいだけど……石の様に重たい。もしかしてこれが冥府の玉骨なのかな?」
「でも骨っぽくないからな……元々ココにあったのかドロップしたのかも分からないけど、コカトリスの傍に落ちてたんだ」
「まぁ綺麗だし、帰ったら鑑定してもらおうよ。後はキャラバンの荷物を回収したらクエスト完了だね」




