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初の大規模クエスト・後編。

その後、日が昇るのを待って交代で睡眠を取り昼過ぎに出発。日暮れ前に拠点となる木を見つけて周囲を探索したのだがこの日はモンスターに遭遇する事はなかった。


次に遭遇したのは、翌日、三日目の夕方である。


この日も昼間の遭遇は無かったのだが、拠点を探している途中でゾンビを発見した。

「確認できるのは一〇体だけど、スケルトンも近くにいるはずだよ」

アルティが木の上から報告する。その下ではカルノスが精霊で周囲を探っている。

「いた! 少し奥にスケルトン……一二体とゾンビが五体かな」

カルノスも別グループを発見した様だ。三〇体近い集団か……まだ日が出ているうちに、この数を発見出来たのはラッキーだったかもしれない。


「これは拠点探しの前に片付けた方が良いね。多分まだ隠れているだろうけど、夜になるとヘルハウンドとスペクターバットも出てくるはずだし」

アルティが木から降りて提案してきた。当然、自分もカルノスも賛成なので、後方のパーティーメンバーと合流することにした。


「三〇体以上は居そうだな……ゾンビが多いって事は大分中心地点に近いのかもな」

エリアの言葉に、今までお気楽な感じだったみんなの雰囲気が引き締まる。

この切り替わりを肌で感じると

あ、これが冒険者なんだ。と変に感心してしまう。

特に表情が険しくなった訳でもなく、普段と変わらないのだが空気が変わったのが分かる。

ここからが本番、生きるか死ぬかの真剣勝負……その意気込みと言うか、覚悟と言うか……そんな感じの気迫を纏ったこの感覚。

少なくとも平和ボケした日本の一般人である自分が、本来感じる事の出来ない雰囲気をこの場で感じている。


「紛争地域の兵士なら纏っているのかもな……」

そんな独り言を言っているが、今では自分も冒険者の端くれである。それなりに危険なクエストもこなしてきたが……どことなく余裕があったと言うか、遊び気分だった様な気もする。

まだ一五歳だと言ってもアルティとカルノスの二人が優秀な冒険者だったことが大きい。

だから安心があったのだと思うが……

「レン兄、今回は下手すると五〇体は相手にしないといけないかも。状況によってはそのまま目的地に突入って事もあるから覚悟しておいてね。」

「あぁ、分かった……」

鉄壁だと思っていても、物量で攻められれば綻びが出来るもの……それをみんなは知っているのだろう。

エリアやその仲間は元兵士だし、他のメンバーも生死を賭けた状況を何度も経験しているんだと思う……

自分もこの戦いでその感覚を知る事が出来るのだろうか? この世界に来て半年、正直未だに非現実的な、ゲームの様な感覚が抜け切れていないのが分かる。

死んでも復活できるんじゃないか、ピンチには凄い能力が目覚めて大逆転出来るんじゃないかと……多分こんな感覚を持っていてはいつか死ぬんだろうとは思っている。


まぁ、こればかりは死線を何回も越えなければなくならない様な気がしている。

死を知るのが先か、覚醒するのが先か……そもそも戦場でもない比較的安全なあの村で数年過ごしたところで理解出来るものなのか? と言う根本的な疑問もあるが、真面目を身上とする普通な自分としては現状での最善を尽くすだけだ。


「荷物はココに固めておこう。太陽が沈む前に片付けるぞ!」

『おおおー!』

作戦開始だ!


自分達先行組はゾンビの集団は無視して、その奥のアンデッド集団に備え少し離れた位置に身を潜めた。

作戦としてはまず後続組が手前のゾンビ集団を攻撃する。戦闘が始まれば奥のアンデッド達がそれに気づきそちらに殺到し始める。そこを自分達が側面から攻撃する手はずだ。


そして戦闘が始まると、アンデッド達はこちらの予想通りに動いてくれた。

その為作戦通りに戦況は進んでいたが、そこに周辺に身を潜めていたアンデッド達が現れたので想定以上の混戦となっていた。

その数は五〇体を超えていそうだが、それでも皆が次々に倒していく。

幾ら数が多くても所詮は下位モンスターである。経験豊富な冒険者たちの連携の前では大きな脅威ではなかった。

かく言う自分も、初めての生ゾンビに最初こそビビったが慣れてしまえばどうって事は無く既に六体ほど倒していた。


これは予定通り日暮れまでに倒しきれるんじゃないか? 意外と余裕じゃん! と内心思ったけど、お約束のフラグを立てることは無いと口には出さなかったのに……

どうやら、その努力は無駄だった様だ。

コチラは粗方片付いて余裕が出てきたので、どこか応援に回ろうと他のメンバーの状況を確認しようと振り向いた。

そこで目に飛び込んできた光景は想定外の物だった。

何故なら、その場所ではすこし前まで混戦状態ながらも後方組が優勢に戦っていた場所だったのに、今はその周辺一帯が緑のガスの様なモノに包まれていたからだった。

「あの緑のガスみたいのって……」

アルティにそう声をかけた瞬間、猛スピードでアルティは駆け出していた。

その後をカルノスも全力で追いかける。

それにつられて自分も走り出しながら記憶を辿っていた……そして。


「カルノス! あれってコカトリスのじゃ……」

「そうだよ! コカトリスのブレスだ! あれで誰か麻痺してたらマズイ! 麻痺や毒はアンデッドには効かないから……」

「カルノスはみんなの所に向かえ! コカトリスは自分が引き付ける!」

「……分かった。無理しないで!」


アルティ、カルノスと別れて毒ガスを迂回して発生源へと向かった。

アンデッド達が何体かこちらに向かって来たが、進路上の二体だけ切り倒してそのまま走り続けた。

そして毒ガスを抜けた先に、トカゲの尻尾を持ち茶色と緑の羽に覆われた大きな鶏の姿をしたモンスターを見つけた。まぁ鶏と言っても四メートルほどの大きさで、尻尾と足の爪には毒があり、そして毒と麻痺効果のあるブレスを吐く魔獣である。

以前、薬草採取の途中でこれより小型のコカトリスに遭遇したことがあったが、あのブレスとしつこさで逃げるのにも随分苦労させられたのだ。

だからと言って今回はココで躊躇している暇はない……あのブレスで回復役が全員麻痺してしまっていたら洒落にならない。

それに、あのブレスの状況からして残ったアンデット相手でも苦戦を免れないだろう。当然こっちのコカトリスに対する余裕はないはずだ……

ここで自分が何とかするしかない!

そう覚悟を決めて、そのままコカトリスに突進する。

しかし幸いな事にこちらにはまだ気付いてない様子、と言うよりは、よく見るとコカトリスの前方から矢の攻撃が仕掛けられそれに気を取られているのだった。


「アルティか……」

その援護攻撃を見た瞬間、コカトリスの注意をコチラにひく作戦はヤメテ進路を尻尾に変更する。そして、うねうねと動くネズミの様な尻尾の付け根目がけて村正を渾身の力を込めて振り下ろした。


スキル『斬り落とし』!


そしてスキルの発動と同時に気持ち悪い尻尾は切れ飛んだ。

その瞬間『クゲェェーッ』と言う大きな咆哮がしたと思うと、自分めがけて鋭い足爪の後ろ蹴りが飛んできた。その蹴りを後ろに飛び退き様に刀を横薙ぎして爪一本を切り落とした。

尻尾と爪を切り落とされ怒り狂ったコカトリスは、当然標的をこちらに変えて猛反撃してきた。

その攻撃は出し惜しみナシの本気モードで、ブレスにくちばし攻撃、羽ばたきに毒爪攻撃と自分を仕留めようと容赦がない。

何とか背後に回り込もうとしてもそう簡単には回り込ませてくれない。仕方なく相手の近距離攻撃の隙を見つけて切り付けるが今一つ大してダメージを与えられていない。

しかも悪い事にアンデッドが何体か寄って来るのが見えた。しかも夕暮れが近い……

マジでヤバいかも! 夕暮れまでにはせめてコカトリスだけでも仕留めておかないと!

下手したらアンデッドの仲間入りに……

そんな弱気な考えが頭に浮かび始めた時

『クゲェェーッ』と再びの咆哮。

新しい攻撃モーションかと身構えるが、頭を激しく振るだけで攻撃を仕掛けてくる気配がなかった。

しかし気を抜く事も出来ず困惑していると

「レン兄! 援護するよ!」

とアルティの声が聞こえた。

そこで気が付いた、コカトリスの右目に矢が刺さっているのに。

おおぉ~神の助けだ! ありがとうアルティ!……と心の中で感涙を流して感謝する。

「引き付けて! その隙に懐に飛び込む!」

姿は見えないが頼もしい相棒に大声で伝える。

「了解! ラビットファイヤーアロー!」


返事と共に弾丸のごとき矢が無数にコカトリス目がけて打ち込まれ始めた。

これを羽ばたきの風圧で蹴散らそうとするが逆に広げた翼を射抜かれている。

たぶんアルティは今、鉄の矢を使っているのだろう。

放たれる矢は風を物ともせずコカトリスへと一直線に飛んで行く。

しかもあの連射速度だ……相変わらず凄いなぁ、惚れ惚れしてしまうよ。

そんな事を考えながら相手の隙を伺っていると、ついに遠距離からの猛攻に耐えかねたコカトリスがアルティが居るだろう眼前の森目がけて毒のブレスを吐いた。


これを待っていたのだ! 


この機を逃さず、コカトリスの懐に飛び込んだ。

尻尾を切り落とされブレスも吐いた今、懐に入ったコチラを攻撃する手段は足だけだ!

その左足を走り込み様に一閃、左に体勢を崩して浮きかけた右足にも斬撃を叩き込み離脱する。そして、両足を切られ地面に倒れ込もうとするその胸元に渾身の突きを入れる!

『牙〇』……これが止めになった。


……別のネーミングのがいいかな。

などとあまりにも鮮やかに決まった連続攻撃と最後の突き技の余韻に浸りかけていると


「お疲れ様。て、まだ終わった訳じゃないけどね」


そう言って毒ガスの中からアルティが現れた。その姿はゴーグルに、逆三角の布マスクだった。だからブレスを気にせずに援護できたのか。

そう感心しつつも、まるで昔の映画に出てくる強盗の様だな、でもサバゲーマーなら居そうな格好か。

何故かそんな事を考えてアルティを見ていた。

そんな自分の視線に気づいたのか

「あ、これは毒ガス対策だよ。どちらにも特殊な薬草が染み込ませてあるんだ。狩人には必須アイテムの一つだよ」

「それで、最初に躊躇なく毒ブレスの中に突っ込んだんだ……それで被害は?」

「レミ姉含めて四人が麻痺してたけど、運が良かったのは、あのブレスはアンデッドには効かなくても視界を奪ってくれたからね。後は追い付いてきたカルの解毒魔法で回復して事なきを得たって感じ」

それを聞いて『はぁ~』と大きく息を吐き出して安心した。

「それは良かった……」


誰かの犠牲を覚悟していただけに、心の底から本当に良かったと思った……この危険と隣り合わせの異世界に来てからまだ人死には合っていない……出来ればこのまま合わずに済む事を祈るばかりだ。


「それもレン兄のお陰だよ。あそこでコカトリスに襲われてたら確実に犠牲者が出てたと思う。」

「まぁこれでも冒険者の端くれだからね。最善だと思う行動が取れて良かったよ。」


などと自分でも言ってて恥ずかしい台詞を吐いてしまった。

しかしそんな自分をアルティは茶化すでもなく満面の笑顔で見つめてくる。

この場面ではいつもの様に茶化してくれた方が良いのに、なんだか無性に恥ずかしくなってくるんだが……

という訳で場の空気に我慢できなくなった

「そっ、そう言えばカルノスはどうしたかな~……」

「フフッ。そうだね、一度みんなの下に戻ろうか。ほとんどアンデッドは倒したけどもうすぐ日が沈むからね」

「ああぁ、そうだな」

そう言いながら空を見上げると既に一番星が輝き始めていた。

ギリギリ日暮れ前にアンデッド集団を倒せたけど、安心したのも束の間、この時既に第二波が迫っていたのだ。

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