美味しい蟹クエスト。
その中でも宝石を甲羅に付けたジュエリークラブ退治は収入と剣技アップに最高のクエストだった。
ジュエリークラブは一メートルほどの甲羅を持つ陸生の蟹で雑食性。特徴として宝石類を含む鉱物を捕食して甲羅上で再結晶化するのだ。その為純度の高い宝石を持っているので超高値で取引されるし、甲羅自体も武具の材料として一級品! 更にその身は食べても美味と捨てるとこ無しの優れものなのである!
しかし、その分甲羅の硬さは尋常じゃないし力も強く瞬発力もある。それに宝石類を身に付けているお陰で魔法耐性まで高い高難易度のモンスターなのだ。
そんなジュエリークラブの生息地がエヴァン村の近くにはあり平時は一獲千金を狙うハンターが良く訪れていた様だが捕獲に失敗して怪我をする冒険者が多数いた様である。
今でもギルドに依頼はあるが、情勢不安で冒険者自体が訪れなくなった事、村人にはリスクが大きいと言う事で、年に数匹運良く捕獲できる程度なのだとか。
そんな予備知識なんか当然持っていない自分だったけど、アルティ達に乗せられてしまったのだ。
「レン兄って、やっぱり才能あったんだね」
「どうしたんだ⁉ 急に?」
「いや、僕もカルも防具は革装備だけど……レン兄って籠手と脛当ては鉄だよね?」
「そうだけど……それが?」
「それだけでも鉄装備だから意外に重さあるのに、もう僕達に着いて来れてるな~と思って……」
「そう言われて見れば……いつもこの装備だったから気にしてなかったな」
「もしかして、もっと軽い装備に変えればもう俺達以上のスピードで動けるんじゃない?」
「僕もそう思うなぁ」
「そうか? ……確かに収入も安定してきたから、防具を新しくするのも良いかもしれないけど……」
「そうそう、軽くて丈夫な防具が良いと思う!」
「軽くて丈夫な防具か……良いかもしれん!」
「なら決まりだね! 明日は三人で素材集めだ!」
「おおー!」
「……素材集めって何⁉」
と言う、後から考えれば誘導尋問的な会話に嵌められて、魅惑と危険が同居するジュエリークラブ狩りに挑戦する事が決まったのである。
「まぁ、素材を自ら集めるって言うのは分かるけど……ジュエリークラブは難易度高くないか?」
「慎重にやれば難しくないよ」
「そうそう。この鋼蜘蛛の糸で作った網があれば楽勝さ」
アルティとカルノスは余裕と言った感である。
本来、罠にはカニを傷つけない様に伸縮性の強いオオバカズラの蔦をにかわで補強した網を使うらしいのだが、伸縮性が良すぎてカニが暴れ回り人が怪我をする事が多く、しかも切られて逃げられる事もあり成功率があまりよろしくないとの事。
そこで二人が考案したのが鋼蜘蛛の糸にムシトリランの粘液を付けて絡め捕るこの罠……
「……もしかして、二人はそれを試したいだけじゃないのか?」
「「えっ⁉」」
「そんな事ないよ、ねぇ~カル」
「そっ、そうだよ。ギルドの依頼もあるし、素材としては文句ないし、それに美味しいよ!」
明らかに動揺している二人であった。
「はぁ~、やっぱりか…… 別に良いけど、失敗しそうなら即撤収な!」
「「了解!」」
と言ってみたが、実際に狩場に到着すると自分の不安を余所に、二人の罠はその性能をいかんなく発揮した。
罠を設置して、そこにジュエリークラブを追い込めば蜘蛛の糸が絡まり勝手にもがいて身動き出来なくなっていくと言う優れモノだった。
お陰でこの短時間で5匹のジュエリークラブを捕まえる事に成功した。
「大成功だね! アル」
「そうだね。ちょっと怖い位の大成功だよ!」
二人は自分達の考案した罠が成功してはしゃいでいた。
ただ、懸念が無い訳ではない。
「予想外の大成功だけど……こんなに簡単に捕れると、この罠が広がるとあっという間に乱獲されそうだな」
「「……」」
「確かに……それは良くないね」
「この罠は秘密にしておこうか? こんなに簡単に捕れるとは思ってなかったからな……うれしい誤算だったけど、こんな調子で捕っていたら直ぐ居なくなりそうだし」
「そうだね……うん、分かった。これは三人だけの秘密にしておこう」
「了解。」
そんな自分の指摘に、さっきまで有頂天だった二人は捕まえた蟹に視線を落として少し沈みがちな表情になってしまった。
二人が罠を発明した事は間違いではなく、立派な成果なんだが現世の歴史で人の業を知ってしまっている自分はつい余計な事を言ってしまった。
この異世界の現状と、この蟹が危険いっぱいの森や山の奥地に生息する事を考えれば乱獲による絶滅の可能性は極めて低いはずだ。だから可能性の一つとして自分の言葉を二人には頭の片隅に置いといてもらえれば良かったのだが……
聡い二人は、乱獲による惨状を正確に想像してしまったんだろう。
自分達が絶滅の引き金を引いてしまった可能性を……
自分としても想定外の雰囲気に内心焦りつつも、冷静を装い二人に労いの言葉をかけて誤魔化す事にした。
「しかし、二人は本当に凄いな。それなりの冒険者が数人でも手を焼くって聞いてたのに、こんな安全お手軽な罠を開発するなんてな」
その自分の言葉は正解だった様だ。
なぜなら二人とも顔を上げて満面の笑顔でそれに答えて来たからだ。
それからも暫く周辺を探索し、徐々に陽も傾き始めてきたので、荷物と獲物をまとめて安全地帯に移動しようとしたその時である。
バギッバギッと音を立てて木がコチラ倒れて来た。
「うおっ! 何だ⁉」
慌てて三人ともその場から飛び退き身構えた。
「……これは、ちょっと浮かれ過ぎたかな? 僕が接近に気が付かないなんて」
そう言ったアルティの目線の先には明らかに今までとは違うジュエリークラブが居た。
「なぁ? あれ何かデカくないか?」
「俺達もあんなの初めて見るよ……甲羅だけで二メートル以上ある……」
アルティもカルノスも既に臨戦態勢だ。今までのジュエリークラブはこちらが何もしなければ自ら襲い掛かって来る事は無かったが、この巨大なジュエリークラブは明らかにこちらを狙っているのが分かる。
大きなハサミを振りかざして徐々にこちらとに距離を詰めてくる。
そして、射程に入ったのだろう、ハサミを突き出し一気に突進して来た。
「早っ⁉」
「気を付けて!」
そう言ってアルティは、後ろに飛び退きながら弱点の一つである目を狙って矢を連射する。
そして自分とカルノスはこの巨大蟹の突進をそれぞれ左右に飛んで躱した。
躱しざまカルノスの方は置いてあった蜘蛛の罠の入ったバックを拾いあげていた……どうやら罠の準備する様だが、あのジュエリークラブには罠が小さ過ぎて捕らえる事は出来ないだろう。
そんな事を思いながら自分も体制を立て直して、そのまま地面を思いっきり蹴って飛び上がった。そして上から甲羅目がけて村正を思いっきり振り下ろした。
が、予想通り『ガチッ!』と音がして弾かれてしまった。
「痛ってぇ~… 危うく村正を落とすところだった」
「剣で甲羅を切るのは無理だから下がって!」
アルティに言われて距離を取る
「にしてもよく刃毀れしなかったな……って、なんか薄っすら光ってる様な……」
戦闘中にも関わらず独り言を言いながら愛刀を眺めていたらカルノスの声が危険を知らせた。
「レンヤ兄! 危ない!」
その声に咄嗟に右へと飛んだ。
その後を大きなハサミが追ってくる。
どうやら敵は標的をコチラにさだめた様だ。なんて悠長な事を考えている場合ではなかった。
着地するその足で更に右へと飛んでハサミの一撃を何とか躱した。
「危なかった。有難うな!」
「それより油断しないで! また来るよ!」
ここから暫くは持久戦だった。敵の攻撃を躱しつつ攻撃するが全く通らない……急所である関節や腹を狙おうにもガードが固過ぎて致命傷を与えられずにいた。
そんな時
「準備できた! アル!」
今まで蜘蛛の罠を準備していたカルノスの声だ。
「分かった!」
その声に反応してアルティが再び蟹の目に向けて矢を放つ。当然それを敵はハサミで防いだが、そのタイミングに合わせてアルティは距離を詰めてジャンプした。
そして敵の頭上から矢を射かけたが、近い!
明らかにハサミが届く距離だったのだ。
一瞬アルティのミスかと思ったが。
これを好機とみて当然敵がハサミを振り上げアルティを捕らえようとした。その瞬間、そのハサミを蜘蛛の罠が捕らえた。
タイミングを見計らってカルノスが罠をハサミの軌道に投げたのだ。
この罠は大きなジュエリークラブを捕らえるには小さくとも、ハサミを覆うのには十分な大きさだ。
敵はハサミに絡みついたその蜘蛛の罠を外そうとハサミを激しく振るが、そう簡単には取れない。その内もう一方のハサミも使って外しにかかるがそれが致命的なミスになった。罠を外すどころか互いのハサミが絡み合い使えなくなったのだ。
「おおぉ~流石!」
それを見て思わず感嘆の声を上げた。しかし敵も黙ってはいない。
力ずくで引き千切ろうと両のハサミを掲げて渾身の力を籠める。すると何本かの糸が弾けとんだ。そのままなら罠を外せたかも知れないが、それをそのまま見過ごす様な自分達ではない。
自分は敵がハサミを掲げた瞬間、村正を上段に構えて正面に走り込んだ。そして間合いに入ると同時に勢いそのまま大きく踏み込み左腕の付け根目がけて切り下ろした。
振り下ろされた切先は多少の抵抗感がありながらもすんなり地面に達していた。
次の瞬間、力いっぱい引っ張られていたハサミの片方は根元から、引っ張られるままに斬れ飛んでいった。
それと同時に大きくバランスを崩した敵の目をアルティの矢が貫き、カルノスの土魔法が下から突き上げひっくり返した。
こうなってしまえば勝負ありだ。
その腹に自分が飛び乗りそのまま村正を突き立て、更に口から吉光を刺して巨大なジュエリークラブを仕留める事が出来た。
「大勝利!」
そう言って、カルノスがブイサインをする。
こうしてクエストは想定外の出来事と共にクリアされた。
のだが、それだけでなく、この戦闘で遂に、自分にもスキルが発現した。
「『斬撃・斬り落とし』か……まぁ単なる上段切りなんだけど……」
「イイじゃん。それがスキルにまで昇華したんだから。レン兄の努力の成果だよ」
「それもそうだな」
「おめでとうー、レンヤ兄」
こうしてウキウキの内に全てが終われば良かったのだけど、その後が大変だった。この巨大なジュエリークラブを持ち帰るのに三人で担いで森の中を進む事になり、途中臭いを嗅ぎつけてきた虫やら獣やらを追い払いながら、本来村まで一日の行程を三日かけて歩く事になった。
まぁその分、普通のジュエリークラブが一匹一〇万リオン、大型が一匹で一〇〇万リオンと見返りは十分あったけどね。
お陰で三人とも、ジュエリークラブの甲羅を素材にした軽くて丈夫な装備に新調できたのだった。




