古い教会と冒険仲間。
この世界に来て三ヶ月。やっと独立拠点の家を手に入れた……
これがゲームや漫画なら既に中ボスでも倒して国の一つでも救っているかもしれないけど。
現実は、ようやく冒険者としてのスタートラインに立っただけだ。それも実戦経験は先日の大爪熊の件だけ。それでも開墾と家の修復作業のお陰で基礎体力は相当アップした。
そして、何よりこの世界に慣れた事が安心感につながっている。
今この世界は季節的に夏なんだろ。
来た頃に比べれば明らかに日差しが強いし毎日の様に夕立がくる様になった。それに伴い森の木々は葉を大いに茂らせ、色とりどりの花を咲かせている。
この地域は一年を通して温暖な様で、森はジャングルとまではいかないが亜熱帯の森といった雰囲気が漂っている。
そんな森が村の中まで侵食している場所がある……レミィの教会だ。
「ここはいつ来ても凄いな」
「いつも同じこと言ってるね、レン兄は」
そうアルティに揶揄われるのも仕方なかった。
「仕方ないだろ。初めて教会に来た時はお預けを食らい、結局何だかんだとあり中を見れたのは一ヶ月後……その時の衝撃は凄かったなぁ~」
「その一ヶ月って、ただ単にレン兄がココの事を忘れていただけじゃなかった?」
「はっはっはっ、何の事かな~。 おっ⁉ あれはルビースターではないか⁉」
と誤魔化して教会の奥へと入って行く。
ココはまさに神秘の桃源郷!
この教会がお気に入りになった自分は何十回も訪れているのだが、来るたびに同じ言葉が出てしまうのだ。
外観からも歴史を感じる魅力的なモノだったが内部も凄かった。
教会の奥は自然の崖がむき出しになっていて、そこから幾筋の水が細く流れ出している。まるで白糸の滝の様だった。
そして、その滝を囲むようにこの礼拝堂は建てられていた。
そこから流れ出した滝の水を半円に囲むように石畳が敷かれ祭壇と水場が作られ、滝を受ける形で女神像が立てられている。ただ、そのむき出しの崖はガジュマルの根の様なモノに侵食され、その上の礼拝堂の天井は崩落し、そこから蔦植物が入り込み水回りを覆い尽くしていた。
教会の南側の壁沿いには水場から流れ出す水路が作られていた。水路の途中には白樺の様に白い樹皮の巨木がこれまた教会の壁と天井を突き破ってそびえ立ち外の庭園を覆い尽くす様に枝を伸ばしていて、ここにもやはり外から植物が入り込んでいて緑の絨毯を広げていた。
最初に教会を見た時に、森の木々が生い茂っているのかと思ったのはこの巨木の枝だった様だ。教会内の植物は蔦とコケが水辺を占領しているが、所々ほかの植物が綺麗な花を咲かせていて、その回りを色鮮やかな蝶が飛んでいる。
侵食した木々が語る様にここは長い間放置されて廃墟同然になっていた神殿跡で、それを一五〇年ほど前に人々が修復したらしい。そして、その人々がそのまま住み着いたのがこの村の始まりという事だった。
崩落部分はキレイに補修されているけど、隙間はそのままにされている事に最初は疑問を持ったが……そこからは太陽の光が差し込んでくるのだ。
その光に照らされて水しぶきや水面が煌めき、葉やコケの緑が鮮やかに映え、所々に咲く花々が良いアクセントを加えて何とも神秘的な景色を目の前に作り出すのである……
無宗教者である自分でも、ここが信仰の場所になっているのが納得できる光景だ。
しかし、ここの凄い所はこれだけではない! 夜になると更なる神秘的な光景が広がるのだ!
そう! それは……植物たちが一斉に光り出すのだ!
正確にはヒカリゴケがメインで後はココに咲いている花が光る。しかもそれらの花粉や胞子も光る様で風が殆どない無い夜は教会内に天の川が漂っている様な不思議空間が誕生するのだ!
因みに、現世のヒカリゴケは光を反射しているので自ら光りはしないのだが、この世界のヒカリゴケは金色や黄緑色の光を自ら発している。その他の花々は青白く光るものが殆どだが、中には薄紫や少し赤みを帯びた色で光る物もあり、それが更なる彩を添えている。
この発光現象はこの森では珍しい事ではなく、自分が最初に降り立った遺跡周辺も含めてこの辺りの森は『星々の大森林』と呼ばれる位、発光植物や生物が多数生息しているという事だった。
街中にいると分かりずらいが、アルティたちと森に狩りに行く様になってそれを実感した。
森の中には様々な種類の夜光虫やヤコウタケが存在し夜になると光の乱舞で彩られるのだ。そんな森の中でも圧巻だったのは、某CMで有名なモンキーポッドの様な大樹に広がった光の光景だった。
その木の枝一面に付いた小さな花が光り、下から見上げると、まるで頭上に満天の星空が広がった様に見えたのだ。しかも風が吹くとガラス質の花がぶつかり合って『チリッン』と小さく澄んだ綺麗な音が鳴るのである。
まさに目と耳で楽しむ絶景だった。この木を遠くから眺められたらクリスマスツリーの様に見えたのかもしれないと思ったが、よい見物場所が見つからなかった。
これらの光景を見た時に、それだけでこの世界に来た価値が十分あったとしみじみ思ったものだ。
そんな森で引っ越し後の一ヶ月間、アルティとカルノスの三人で狩り三昧の日々を過ごした。
基本的には旬の植物や果物、薬草集めに日々の食糧調達がメインになるが、冒険者ギルドをチェックしてその合間にクエストと作物を荒らす害獣退治をこなしていった。
これらが自分達の主な収入源で、各種素材と食料の売却にクエスト報酬で三人で月に五万リオン程稼ぐ。
そこから生活費と狩りでの必要経費、武具の補修代などを差し引いても二万リオン位残るので生活に困る様な事はなく、訓練と実益を兼ねた楽しい日々を過ごしていた。
そんなある日
「こう見えて、僕って村では五本の指に入る狩人なんだよ」
とアルティが得意気に話していた事があった。
「この村って狩人専業って何人くらいいるんだ?」
「ん~、今は七人かな」
「少なっ! それで五指以内って大した事ないやん!」
「はっはっは、今までは若い人は街に出ちゃうし、更に戦争が始まってから減ったからね。だからいずれは僕が一番だよ」
そんな事を楽しそうに話していたが、後でカルノスに聞いてみたら
「ん~……、多分すでに一番じゃないかな。アルの前では言わないけど技術も身体能力も桁違いだと思う。それに弓と投擲の腕ならこの国でも相当上位クラスだと思う」
普段、喧嘩をよくする二人だが、ちゃんと親友を評価しているんだと改めて思いながらニヤニヤとカルノスを見詰めていたら、顔を赤くして速足で立ち去ってしまった。
そんなアルティと一緒に狩りに出ていたカルノスも十分にレベルは高かった。
魔法使いとは思えない身のこなしと体力で森の中を駆け回り、そして魔法でアルティを支援している。
魔法戦士に近いのかもしれないと思うのだが、本人は魔法一筋だと宣言していた。
因みにカルノスが使う魔法は、土と水属性の魔法に後は植物魔法で、この植物魔法とはどうやら、現世のゲームとかで言う所のドルイド系の魔法の様だった。それらの魔法の発動には本来詠唱が必要なのだが、カルノスは杖を用いず両手にはめたレアアイテムの『唱える者の手』で呪文詠唱なしに放つという反則技を使っているのだ。
そんな二人の指導のもと、毎日の様に森に通い続けて、害獣の六牙猪や棘鹿を退治したり、コカトリスやフォレストバジリスクに襲われたりと、本当に大変な思いする様な事が色々あったので自分の冒険者ポイントも相当上がっていた。




